上昇続ける最低賃金、自分の場合は? チェックしよう
こんにちは、人事労務コンサルタントの佐佐木由美子です。最低賃金は毎年見直しが行われていますが、平成29年度は過去最高の引き上げとなりました。いったいどのくらい上がったのか、確認していきましょう。
東京都は全国で最高額、958円に改定
毎年、最低賃金の見直しがあり10月ごろに改定が行われます。改定額の全国加重平均額は848円、前年と比べ25円の引き上げは、最低賃金額が時給のみで示されるようになった平成14年度以降、昨年度と並んで最大の引き上げとなりました。
最高額は東京都の958円、最低額は高知県や沖縄県等8県の737円。最高額に対する最低額の比率は76.9%となっており、昨年度の76.6%と比べ若干の改善はみられるものの、地域差はまだ大きいといえるでしょう。
東京隣県における最低賃金を見ると、神奈川県が956円、埼玉県が871円、千葉県が868円、山梨県が784円となっています。
そもそも、最低賃金制度とは、最低賃金法に基づき、国が賃金の最低限度を定めるもので、使用者はその最低賃金以上の賃金を支払わなければなりません。最低賃金法には罰則(50万円以下の罰金)が定められており、企業側のコンプライアンス意識も高いといえます。
ちなみに、最低賃金には「地域別最低賃金」と、特定の産業に従事する労働者に定められた「特定(産業別)最低賃金」(平成29年9月30日現在で233件設定)の2種類があります。地域別と特定の両方が同時に適用される労働者には、高いほうの最低賃金額以上を支払わねばなりません。
東京都で見た場合、このペースで上昇していくと最低賃金が1000円になる日もそう遠くないかもしれません。平成19年度の最低賃金を見ると739円ですから、この10年の間に1時間当たりの時給が219円アップしていることになります。
最低賃金のチェック方法
最低賃金制度は、働く人にとって心強い味方ですが、時給で表示されるため、月給制で給与をもらっている方には、いまひとつ分かりにくいかもしれません。「それなりの給与だと思っていたのに、計算してみたら最低賃金を下回っていた……」ということもあり得ますので、念のためにご自分の最低賃金を確認してみることをおすすめします。
ちなみに、使用者とすべての労働者に適用されるものなので、正社員に限らず、パートタイマー、アルバイト、派遣社員といった雇用形態や、性別、国籍および年齢の区別なく適用されます。
ただし、次の金額については、最低賃金に参入されません。
・臨時に支払われる賃金
・1カ月を超える期間ごとに支払われる賃金
・時間外労働、休日労働、深夜労働の手当
具体例で確認してみましょう。
【A子さんの場合】
月給:17万5000円(給与の内訳:基本給15万円/職務手当5000円/家族手当8000円/通勤手当1万2000円)
月給17万5000円から、最低賃金の対象に含めない「家族手当」と「通勤手当」を除くと、15万5000円です。
次に時間当たりの単価を計算します。1カ月の平均所定労働時間(※)で除した額となりますが、A子さんのケースでは163.3時間となり、結果として時間単価は949円となります。
※1カ月の平均所定労働時間=1年間の所定労働時間の合計÷12
(例)年間休日が120日、1日の所定労働時間が8時間の場合は次のように計算します。
(365-120)×8÷12=163.3
155,000(対象になる月給)÷163.3(平均所定労働時間)=949.17(時間単価)
さらにこれを地域別最低賃金(特定産業に該当する場合は特定最低賃金)と比較します。東京都の場合は、9円下回っているために最低賃金を満たしていないことになります。一方、これが大阪府であれば909円のため上回っていることになります。
ちなみに、派遣社員の場合は、派遣先の地域別最低賃金が適用されます。仮に、千葉県(868円)に派遣元がある派遣会社がB子さんと派遣契約を結んでいて、派遣先が東京都の場合は、958円が適用されるため、B子さんの時給が950円の場合は最低賃金を満たしていないことになります。
なお、最低賃金については、精神または身体の障害により著しく労働能力の低い方など一定の場合において、使用者が都道府県労働局長の許可を受けている場合に限り、個別に最低賃金の減額特例が認められています。これは、最低賃金を一律に適用すると、かえって雇用機会を狭める恐れなどがあるための配慮です。
最低賃金は毎年改定されているので、念のため自分の給与が最低賃金を下回っていることがないように、ぜひ最新情報と照らし合わせて確認しましょう。
人事労務コンサルタント・社会保険労務士。米国企業日本法人を退職後、社会保険労務士事務所等に勤務。2005年3月、グレース・パートナーズ社労士事務所を開設し、現在に至る。女性の雇用問題に力を注ぎ、働く女性のための情報共有サロン「サロン・ド・グレース」を主宰。著書に「採用と雇用するときの労務管理と社会保険の手続きがまるごとわかる本」をはじめ、新聞・雑誌等メディアで活躍。
[nikkei WOMAN Online 2017年10月11日付記事を再構成]
ワークスタイルや暮らし・家計管理に役立つノウハウなどをまとめています。
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