脳組織の分析では、慢性外傷性脳症患者全員の大脳皮質に、リン酸化タウ蛋白質(ptau)を含む神経原線維変化(NFT)が認められました。NFTの存在は、重症患者ほど広範囲に見られました。一部の患者の脳にはアミロイドβも存在していました。ptau、NFT、アミロイドβはすべて、アルツハイマー病患者の脳に認められることで知られています。
111人の慢性外傷性脳症症例について、さまざまな臨床症状に関する情報が得られました(表2)。症状が徐々に進行した患者が多く、軽症患者の23人(85%)と重症患者の84人(100%)が進行性でした。
米国では、格闘技やアメリカンフットボールなど、コンタクトスポーツの世界で著名なアスリートが、精神症状や認知機能の低下に悩んだ末に自殺を図り、死後の病理解剖で慢性外傷性脳症が判明したという事例が複数報告されています[注1]。また、こうした事実に気付き、警鐘を鳴らした医師の実話に基づく「コンカッション/Concussion」という映画が、ウィル・スミス主演で製作されています。
今回の解析では、特に米NFL(ナショナルフットボールリーグ)の元選手のほぼ全員が慢性外傷性脳症であり、多くが重症だったことから、レベルの高いコンタクトスポーツを長年にわたってプレーすることが、慢性外傷性脳症のリスクを上昇させる可能性が示唆されました。
論文は、JAMA誌(米国医師会雑誌)2017年7月25日号[注2]に掲載されています。
[注1] 高畑圭輔ほか. 頭部外傷の分子イメージング:慢性外傷性脳症(CTE)と頭部外傷後精神病(PDFTBI)を中心に. 高次脳機能研究. 2015;35(3):276-282.
[注2] Mez J, et al. JAMA. 2017 Jul 25;318(4):360-370. doi: 10.1001/jama.2017.8334.

[日経Gooday 2017年10月4日付記事を再構成]