何が起こるか分からないのがライブの魅力(井上芳雄)
第8回
井上芳雄です。10月12日に東京国際フォーラムで、僕がパーソナリティーを務めるラジオ番組『井上芳雄 by MYSELF』のスペシャルライブがありました。2時間半の予定だったところが、終わってみれば3時間20分。しゃべりまくって、歌いまくりました。すっごく楽しかったですね。やっぱりライブは最高です。
今回のコンセプトは、ラジオ番組をそのままコンサートにするということだったので、舞台の高い位置にラジオブースのセットをつくりました。ブースでトークをして、歌うときは階段でステージまで下りたので、ブースとステージを何往復もしました。
ブースでは実際の収録と同じく、大貫祐一郎さんにピアノを弾いてもらいながら、リスナーの方からいただいたメールを読んだり、2人でかけあいをしたりしました。ディレクターの秋山瞬さんもブースに入って、収録と同じように写真を撮りまくっていました。
ゲストとして、ミュージカル俳優の先輩である坂元健児さんと、後輩の田代万里生くんに来てもらったのですが、それぞれのトークもブースでやりました。
普段のコンサートでもトークコーナーはあるのですが、やはり座って、正面から顔を見ながら話すと、リラックスするのでしょうか。坂元さんは普段から面白い方ですが、この日は特によくしゃべられたように思います。でも、オチが見えない(笑)。7キロやせたら昔の服を着られるようになったとか、それでモスグリーンの革ジャンのチャックが上がらなくなったといった話を延々とされて、終わらないんじゃないかと内心ヒヤヒヤでした。
■お悩み相談のコーナーも
万里生くんは、お悩み相談のコーナーで、ミュージカル俳優がセリフだけのお芝居であるストレートプレイに出るときに直面するアウェー感を告白。彼は11月から始まるこまつ座の『きらめく星座』に出演します。その稽古場から駆けつけてくれたのですが、いつもワイワイガヤガヤとしたミュージカルの稽古場と違って、シーンとした雰囲気に違和感を感じて、どうすれば打ち解けられるのでしょうという相談です。それは僕も通ってきた道なので、自分の経験を交えて、けっこう真面目に答えました。
本当に5000人の観客を前にしたラジオの公開収録という感じで、いつもの現場の雰囲気がお客さんに伝わったのではないでしょうか。
ステージに下りての歌は、大貫さんが率いるスペシャルバンドをバックに、コーラスで小此木まりさん、真瀬はるかさんが参加してくれました。
1曲目はライブのためオリジナルソング。なんと大貫さんが、人生で初めて作曲した作品です。作詞は、ライブの構成をしてくれた安倍康律くんがつけてくれました。「♪ようこそ みなさま~ 5000人のみなさま~」と軽快なメロディーで始まるこの曲を聴いたら、踊った方がいいと思い立ち、前日に急きょ振り付けを依頼。コーラスの2人にも参加してもらい、踊りながら歌いました。この弾けたオープニングで、会場の雰囲気が一気に盛り上がったように感じました。
前半の1部はポップスで、みなさんがよく知っている作品や、ラジオで歌った曲。後半の2部はミュージカルナンバーから歌いました。ラジオと同じく、明日へのエネルギーが湧いてくる曲というのがテーマです。
万里生くんとは、ラジオでも歌った『In My Life ~A Heart Full Of Love』をデュエット。『レ・ミゼラブル』のナンバーで、万里生くんがコゼット、僕がマリウスのパートを歌いました。この曲を男2人が歌うだけでも強烈なのですが、万里生くんは脱走兵の役をやるので坊主頭とあって、ビジュアル的にもインパクトがありました。僕は「ヘンに照れるとかえって恥ずかしい。真剣にやるしかない」と思って臨み、結果、万里生くんの坊主頭を何回もなで回すことに…。お客さんの反応はどうだったのでしょうね。
全国17の映画館でライブ・ビューイング
アンコールでは、僕の初めてのシングル曲『風のオリヴァストロ』を歌いました。作曲された宮川彬良さんと、詞をつけられた安田佑子さんも会場に来られて、喜んでいただきました。10月4日にCDが発売され、この曲を歌う機会が増えました。14日にNHKで放送された音楽番組『うたコン』でも歌いました。歌うほどに重さを感じるし、聴いている方に何かが伝わっていればいいなと思います。
当日は、全国17カ所の映画館で生中継のライブ・ビューイングも開催されました。お客さんが入るのか心配でしたが、いっぱいになった劇場もあったそうで、安心しました。会場のお客さんと一緒に楽しんでいただけたなら、うれしいです。
始まる前は、どんなライブになるんだろうと思っていましたが、本当にラジオのリラックスした雰囲気そのまま。こういう形のライブって、あまりなかったと思います。新しいことにチャレンジして、やり遂げた充実感もあって、終わった後も、僕はしばらく興奮さめやらぬ感じでした。
2時間半の予定だったのが、トークが弾んだりして延びて、結局、3時間20分。でも、生だからそんなこともありますよね。何が起こるか分からないのが生の魅力だし、楽しさです。ライブ・ビューイングを含めて大勢の方に集まっていただき、ラジオの力や可能性をあらためて実感しました。ぜひ、またやってみたいですね。
1979年7月6日生まれ。福岡県出身。東京藝術大学音楽学部声楽科卒業。大学在学中の2000年に、ミュージカル『エリザベート』の皇太子ルドルフ役でデビュー。以降、ミュージカル、ストレートプレイの舞台を中心に活躍。CD制作、コンサートなどの音楽活動にも取り組む一方、テレビ、映画など映像にも活動の幅を広げている。著書に『ミュージカル俳優という仕事』(日経BP社)。
「井上芳雄 エンタメ通信」は毎月第1、第3土曜に掲載。第9回は11月4日(土)の予定です。
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