枕が変わると眠れない… 意外と大きな影響と対策法

日経ナショナル ジオグラフィック社

2017/11/7
ナショナルジオグラフィック日本版

PIXTA

旅先のホテルでなかなか寝つかれなかったという経験はないだろうか。

観光地を歩き回って体は疲れているのだが何となく目がさえて寝つけない。いったん寝ついても、夜中に何度か目が覚めてしまったなど、いつもと違う場所に泊まったらなんとなく不眠気味になる、そんな経験を繰り返す人がいる。いわゆる「枕が変わると眠れない」というタイプの人のことである。

このような話をすると必ず、「いつでも、どこでも、すぐに眠れる」と胸を張る人がいるが、それは明らかな睡眠不足の徴候であって決して自慢できる話ではない。十分に睡眠がとれている人は消灯してから寝つくまでに10分や15分はかかるのが普通だ。

それはさておき、若い頃から「枕が変わると眠れない」ことがしばしばある人は、睡眠だけではなく、うつ病や生活習慣病など心身の健康を損なうリスクが高まるという研究報告がある。一体どういうことなのだろうか。

冒頭で紹介したように寝場所が変わっただけで眠りが浅くなるのは、脳の「覚醒度 alertness」が高まるためである。覚醒度が上がるとは簡単に言えば脳が睡眠に入りにくくなる状態をさす。例えば、普段は就寝するような時刻になっても脳波の周波数が速いままで眠気のある脳波が出にくくなる。実際、機能的MRI(磁気共鳴画像)検査などで脳機能を測定すると、脳の覚醒に関わる神経核や大脳皮質の活動が夜になってもなかなか低下してこない。また、音や痛みなどの感覚刺激に対して敏感になるため、睡眠中に弱い刺激を与えられただけでも睡眠が浅くなったり、覚醒してしまう。

このような脳の反応は、環境が変化したときに我々が無意識に抱える警戒感によって生じるごく普通の(正常な)反応である。このように生物にはいつ襲ってくるか分からない外敵に対峙するための「生体警告系」と呼ばれるシステムが備わっている。旅先で枕が変わるとなかなか寝つけなかったり、いったん眠りに入った後もささいな物音などで目覚めたりするのはこの生体警告系の働きによる。

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「闘うか、逃げるか」スタンバイしている状態