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税務署は名義を注視する 「名義預金」には要注意 税理士 内藤 克

2017/10/20

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「内藤先生、一つ教えてください。最近、名義預金とか名義保険、名義株といった言葉をよく聞きますが、今ひとつ分からないんですよね」
「単に名義だけで実質的な所有者は他の人、ということです」
「えっ? 名義が変わったということはその人のものになったということじゃないんですか?」
「そこが微妙なんです。名義を変更したといってもそれで贈与が成立しているとは限らない、という考え方です」
「でも税務署は名義が変わったから贈与税を払えっていいますよね」
「それは時と場合によりますね」
「ムム……」

今回は名義預金をはじめとした「贈与の成立」について考えたいと思います。上の会話に出てきたように、名義預金だと指摘されたときにどのような課税が行われるのでしょうか。それは「名義は相続人だが、実際は被相続人の財産として相続税を課税する」ということです。

■贈与成立と税務署に認めてもらうには

相続税の税務調査で一番多く指摘されるのが「名義預金」だといわれています。それはなぜでしょう。

例えば被相続人である祖父がかわいい孫の誕生を機に、孫名義の預金口座に毎月9万円を積み立てて年間108万円を贈与しようとしたとします。これは年間110万円の贈与税の基礎控除の範囲内であるため、贈与税はかかりません(暦年贈与)。これを仮に10年続ければ1000万円以上祖父の財産を減らすことができ、相続税の節税になります。孫が10人いれば1億円以上の財産移転が非課税でできる理屈になります。

贈与税もかからず相続税もかからないことから、祖父の立場からいえば究極の節税策のように感じます。そこで税務当局は「贈与」の本質に切り込んでくるわけです。この場合、贈与は成立しておらず計画的な課税逃れである、と。

贈与契約とは、あげる側(贈与者)ともらう側(受贈者)がいて成り立つ契約です。遺言のように一方的な意思表示ではありませんから、贈与者の気が変わったからといって「あれはなかったことに……」ということはできません(契約不履行で訴えられます)。契約自体は口頭でも成り立つのですが、受贈者は「もらいそびれたら損」とばかりに贈与者に対し「贈与契約書」を迫るのが通常取引である、と考えると、税務上はこの贈与契約書がなければおかしいととらえられてしまいます。当然、「名義預金ではないか」と突っ込まれることになります。

そこで贈与契約書を用意することになりますが、孫が赤ちゃんの場合は、代理人としてその親が契約書にサインすることになります。預金口座を開設するときもそのような手続きとなるはずです。つまり税務署から見れば、親と子と孫が登場する極めて「課税したくなる契約書」ができ上がるのです。

次にその財産(この場合は預金通帳や印鑑)を誰が管理しているか、ということが問題となります。法定代理人である親ならまだしも、「孫はまだ赤ちゃんだからワシが預かっておこう」と贈与者である祖父本人が管理していたら、これはほぼ間違いなく名義預金と判断されるでしょう。祖父の住まいの近くの銀行支店で口座開設し、一度も引き出されたことのない預金などもまず狙われます。

名義預金の認定を避けるため、「あえて暦年贈与の110万円を少し超えた額を贈与して、少額の贈与税を払っておけばいい」という話もよく聞きますが、「財産の管理」ができない赤ちゃんが税理士に相談して申告したりできるはずもありませんから、これが決め手となるとも思えません。むしろ法定代理人が正しく口座開設~贈与契約~通帳・印鑑の保管~申告を行っているかどうかがポイントとなります。

■名義預金を唱えるのは税務署に限らない

一方ではよく、「孫に贈与したいけど湯水のようにお金を使われたら困る」「孫名義にするが、いつでも引き上げられる状態にしたい」という相談も受けます。これは「贈与の意思はないけれど贈与の体裁を整えたい」という気持ちの表れです。しかし成人した孫であれば「おじいちゃん、俺名義の預金があるなら使わせてくれよ」と言ってくることもあるはずです。そのとき「ふざけるな、贈与は形だけだ。何ならじいちゃん名義に戻すぞ」などと言ってもめ事になり、孫から訴えられたらどうするのでしょう。

また、特定の相続人へ偏った贈与を繰り返していた場合は、相続開始後にほかの相続人が「あの預金は贈与が成立していない名義預金なんだから、みんなで分割するんですよね?」と異議を唱えてくる可能性もあります。このように名義の扱いが曖昧だと、いろんなリスクがついてきます。簡単でかつ税務調査官が一番課税しやすい項目だけに、専門家のアドバイスのもと「否認されない生前贈与」が必要となるのです。

内藤克
税理士法人アーク&パートナーズ 代表・税理士。1962年生まれ、新潟県長岡市出身。97年に銀座で税理士・司法書士・社会保険労務士による共同事務所を開業。2010年に税理士法人アーク&パートナーズを設立。弁護士ら専門家と同族会社の事業承継を中心にコンサルティングを行っている。日本とハワイの税法に精通し、ハワイ税務のコンサルティングも行う。趣味はロックギター演奏。

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