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樋口さんによると、高齢者になってからアルコール依存症になった人は、QOL(生活の質)が急激に下がるという。生活がだらしなくなる、転んでけがをする、家族に大声を出すなどして、家族から見放されてしまうケースもあるという。

だが、その一方で樋口さんは「高齢者のアルコール依存症は改善する確率が高い」とも指摘する。つまり、高齢者はアルコール依存症になりやすいが、そこから抜け出しやすいというのだ。

この理由について樋口さんは、明確な理由は分からないとしながらも、「アルコールを飲みたくなるという思い(衝動)は年とともに減っているのではないかと考えられます。また、退職して社会とのつながりが希薄になるので、会社の飲み会など“飲まなくてはいけないシーン”が減るのも理由の1つでしょう。人生経験が長く、若い世代よりご自分の行動を律するのがうまくなるのかもしれません」(樋口さん)

このため、「シニアのアルコール依存症の方を抱えるご家族は決してあきらめないでほしい」と樋口さんは話す。

実際、私の周囲でも70歳を過ぎ、パートナーをいきなり亡くし、寂しさからアルコール依存症に近い状態になった高齢者がいる。彼女は若い頃から酒を飲んでいたが、パートナーを亡くして以来、酒量が増え、夜中に大声を出したり、暴言を吐くようになった。しかし、身内の懸命な介護で断酒し、今は普通の生活を送っている。

シニアが飲酒で気をつけるべきポイントとは

ここまで説明してきたように、加齢により肝機能の低下や体内の水分量の減少により、酒に弱くなるのは確か。高齢になってアルコール依存症にならないためにも、そして酔っ払って転倒するなどという事態に陥らぬようにするためにも、事実を正しく認識し、普段から注意を怠らないようにしたい。そこで、シニアが飲酒で気をつけるべき具体的なポイントを樋口さんに教えていただいた。

「一番肝心なのは、やはり酒量を減らすこと。加齢とともに飲酒量を下げることをお勧めします。厚生労働省が推進している『健康日本21』でも、『65歳以上の高齢者においては、より少量の飲酒が適当である』と明記しています」(樋口さん)

「では、どのくらい減らせばいいかが気になるところですが、現在、年齢別の適正酒量については明確なガイドラインはありません。目安としては『翌朝目覚めたときに残っているな』と思うまでの量は飲まないことです。これは、最低限守らなければならないことです。個人差もあるので一概には言えませんが、少量減らすことで満足せず、できれば若い頃の半分以下まで思い切って減らすことをお勧めします」(樋口さん)

何度か試していけば、このくらいの酒量なら翌日残る、このくらいなら大丈夫という線が見えてくるだろう。それを自分で見極めて、酒量を制限してほしい。

「そして、飲み方も大切です。お酒はゆっくり飲むこと、また食べながら飲むことも大事です。これによって急激に血中アルコール濃度が上がるのを防ぐことができます。ウイスキー、ジンなどアルコール度数の強い酒をストレートで飲むのは避け、アルコール度数の低い酒を一貫して飲んでほしいですね」(樋口さん)

そして脱水を防ぐため、飲みながら水を飲むことも大切だ。昨今は「和らぎ水」と称し、水が出てくる居酒屋も増えてきた。百戦錬磨の高齢者の中には、「酒を飲みながら水を飲むなんて邪道」と言う人も少なくないが、体内水分量が少ない高齢者にこそ水を飲んでほしい。

なお、悪酔いを防ぐとうたうサプリメントやドリンク剤もあるが、樋口さんによると、それらは「あくまでも補助食品として考えたほうがいい」と言う。

肝臓の機能や体内水分量を若い頃に戻すのは不可能なのだから、若い頃の栄光を追い求めず、素直に酒量を減らすことが一番の対策と言えそうだ。

◇  ◇  ◇

「お酒は酔うためのものではなく、味わうもの」――。これは某有名蔵元の名言だ。年を重ねるほど、良いお酒を、ゆっくり少しずつ飲むことを心がけたいものである。

樋口進さん
独立行政法人国立病院機構久里浜医療センター院長。1979年東北大学医学部卒業後、慶應義塾大学医学部精神神経科学教室、国立療養所久里浜病院(現・国立病院機構久里浜医療センター)、米国立衛生研究所(NIH)留学などを経て、1997年国立療養所久里浜病院臨床研究部長に。2012年から現職。日本アルコール関連問題学会理事長、WHOアルコール関連問題研究・研修協力センター長、WHO専門家諮問委員(薬物依存・アルコール問題担当)、国際アルコール医学生物学会(ISBRA)前理事長。

(エッセイスト・酒ジャーナリスト 葉石かおり)

[日経Gooday 2017年10月3日付記事を再構成]

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