「若い頃はガンガン飲めたのに、年を重ねるごとに酒に弱くなった。つい昔のペースで飲んでしまい、翌日は二日酔い……」。そんな経験をしてしまったミドル、シニアの人は少なくないだろう。加齢には勝てないので、やはり酒量を抑えなければならないのだろうか。そしてミドル以上ならではの飲酒の注意点はないのだろうか。酒ジャーナリストの葉石かおりが、久里浜医療センター院長の樋口進さんに聞いた。
◇ ◇ ◇
ちょっとでも飲み過ぎると、翌日酒が残るように……
1つ年を重ねるごとに酒が弱くなる――。年齢を重ねた左党であれば、一度は感じたことがあるのではないだろうか?
私事で恐縮だが、加齢が原因で酒が弱くなることは「日々感じている」と言っても過言ではない。20代の頃はどんなに飲んでも二日酔いになることはめったになかったが、50代になった今、ちょっとでも飲み過ぎると、翌日必ずと言っていいほど酒が残るようになった。もし20代と同じ量の酒を飲んだら二日酔いではなく、間違いなく三日酔いになる(怖くて飲めないけど)。
酒の抜けるスピードもとにかく遅くなった。飲み過ぎて二日酔いになったときも、若い頃なら昼くらいになると酒が抜け、「今夜は何を飲もうかな」と思ったものだが、今では夕方になってようやく調子が戻る。しかも「酒を飲みたい」という気持ちにはならず、飲み過ぎた翌日は大概休肝日だ。
酒量も減ったので、最近では「あと1杯飲みたいな」というところでやめておくのが普通になった。まあ、大人の飲み方といえばそうなのだが、若い頃「酒豪」を誇ってきた者にとっては、何だかつまんないのである。
さらに加齢によって出てきた症状が「酒を飲むとすぐ眠くなる」こと。しかも飲んでいる場で眠くなってしまうことも多く、恥ずかしながら、ひどいときには船をこぎながら宴席に座っていることもある。
本当は若い頃のようにもっと酒を楽しみたい。しかしカラダが言うことを聞いてくれない。「加齢による症状だから」とあきらめるしかないのだろうか? あの栄光(?)の酒量はもう取り戻すことはできないのだろうか? また、取り戻すことができないなら、今後、お酒とどう付き合っていけばいいのだろうか。
そこで、アルコールと健康の関係に詳しい久里浜医療センター院長の樋口進さんに「加齢と飲酒の関係」について話を伺った。
加齢で酒が弱くなる2つの理由とは
樋口さん、年を重ねると酒が弱くなるのは気のせいではなく、やはり本当なのでしょうか?
「残念ながら本当です。多くの方が実感されていると思いますが、加齢とともに酒に弱くなっていきます」(樋口さん)
はあ……。やはり気のせいではなかったのか。となれば現実に目を向けなければならない。となると知りたいのが、「年を重ねるとなぜ、酒に弱くなるか」という原因である。
「原因は大きく2つあります。1つは加齢によって肝臓の機能が落ち、アルコールを分解するスピードが遅くなるからです。そうすると、同じ量を飲んだとしても、若い頃よりアルコールの血中濃度が高くなってしまうわけです。若い頃と同じ酒量を飲んで、翌日お酒が残っていると感じるのはそのためです。具体的に、分解スピードがどのくらい落ちるかというデータはありませんが、アルコールの分解速度が一番速いのは30代といわれています。その後は徐々に処理能力は落ちていくと考えられます」(樋口さん)
加齢によって、見た目だけでなく、肝臓も年をとっているということか。確かに40代半ばを越えたくらいから、飲み過ぎた翌朝は、呼気などから明らかに酒が残っていると思うことが増えてきたように思う。そうしたこともあって、早朝に運転すると分かっている前日は深酒をしなくなった。
「2つ目の理由は、体内の水分量の低下です。ご存じのように、人間の体内の水分比率は赤ちゃんの頃は80%と非常に高いのですが、加齢とともに水分比率は下がっていきます。そして高齢者になると50%台になってしまいます(図1)。アルコールを飲めば体内の水分の中に溶け込むわけですが、体内の水分量が少なくなると、アルコールを溶かす対象の量が減るわけですから、血中のアルコール濃度が高くなりやすいのです」(樋口さん)
確かに若い頃に比べ、今は少量でも気分よく酔えるようになった。経済的といえば経済的なのだが、その原因の1つが体内水分量の低下だったとは……。確かに、年をとるにつれて、肌なども皺(しわ)が増え、乾燥しやすくなるなど、水分量が減っていることを実感させられるようになった。
シニアが飲酒後に転倒、さらには失禁するケースも
アルコールを摂取することによって、脱水が進みやすいことにも注意が必要だと樋口さんは話す。