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百貨店、店員が講座 ニーズくみ取り新規事業に活用

デザイン思考で探る顧客ニーズ(中)

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NIKKEI STYLE

デザイン思考を通じて企業に革新を起こすために必要なのが、ユーザーの潜在的なニーズに「気付く」ことだ。今回は百貨店苦境のなかでも業績を大きく伸ばしている熊本の鶴屋百貨店の取り組みを紹介する。

革新を起こし続ける企業文化を作りたい

「従業員皆が常に新しいアイデアを出し続け、革新を起こし続けられる企業文化を作りたい──」。同社の久我彰登社長は、そんな思いのもと2012年に「鶴屋イノベーションプロジェクト」を立ち上げた。狙いは従業員の意識改革を軸に今後50年も100年も成長できる企業にすること。アイデアを発想し、それを具体化するスキルを身につける人づくりプロジェクトである。

久我社長が改革の先導役を依頼したのが、当時電通CDCエグゼクティブ・クリエイティブ・ディレクターだった岸勇希氏(現・デザインコンサルティング会社「刻キタル」の代表)。ここで岸代表と久我社長は、アイデアを発想する従業員向けの研修を行うだけではなく、そのアイデアを拾い上げて具現化する会社の仕組みを作り上げようとした。

まずは社員全員に向けたアンケート調査を実施して、社内の課題や改善すべき点を募集。そして社員から寄せられたすべての課題に対して、社長自らがその課題をどう解決していくかという方針を発表した。できるものはすぐに改善を行うことを約束。難しいものはなぜ難しいのかをきちんと説明し、将来的に可能なものならいつ頃までに実現するのかを一つひとつ丁寧に回答した。

「こうした社内アンケートでありがちなのが、聞くだけ聞いて、フィードバックしないこと。しかしこれをやってしまうと、社員は『どうせ何を意見しても無駄』と、モチベーションを一気に下げてしまう」(岸代表)

この発表会を機に、「自分たちのアイデアや意見が、会社を変えられると感じた社員の期待が大きくなったのを感じた」という久我社長は、一気に社員のアイデア開発のスキル作りにまい進して行った。

2013年には、アイデアを発想し、それを具体化するスキルを教える研修「鶴ゼミ」を開始した。50人の選抜メンバーが1年間かけてアイデアの発想法や企画の作り方、プレゼンテーション術などを学び、そこから鶴屋で実現したい企画を実際に練り上げて、久我社長をはじめとする経営陣にプレゼンをした。

ここから生まれた成果の1つが「人とモノのものがたり展」と呼ばれる企画だ。従業員が顧客の視点から「鶴屋で買ってよかった」と思った品と、それを選んだ理由やその品にまつわるエピソードを集め、顧客に伝えるというもの。特設会場による展覧会を行うだけではなく、これらエピソードを売り場にも展開し、商品のPOPとしても活用。実際の使用体験に基づいた商品紹介の威力は大きく、売り場によっては2割の販売増を記録したという。

従業員が持つ「知」を引き出す

「鶴ゼミ」から得た教訓は、従業員の持つ「知」の可能性だった。そして、この「知」を生かした現時点での集大成といえる取り組みが、「鶴屋ラララ大学」だ。従業員が、自分たちが担当する売り場や仕事の専門性を生かして顧客に向けて1時間の講座を行うという、いわば百貨店のさまざまな場所でカルチャースクールを展開するというイメージの企画だ。

講座の内容はさまざまだ。鮮魚売り場のスタッフが魚の目利き術を伝授したり、電話交換のスタッフが電話対応のマナーを講義したり。そのほか、受付案内係の女性スタッフが身だしなみや歩き方を就職活動中の学生に教えるという講座や、ピクニックの新しい楽しみ方やボードゲームの紹介など、従業員の趣味を生かした講座もある。

鶴屋ラララ大学の狙いはいくつかある。まず講座を通じて、百貨店と顧客との交流を深め信頼関係を築いていくこと、そして百貨店に隠された知やノウハウを共有することで、百貨店のファンを育てていこうというものだ。

例えば「ランドセルの選び方」というテーマの講座。実はランドセル選びは奥深い。通学する距離によって選ぶべき種類が異なり、学校で指定されるファイルケースのサイズによってサイズも少しずつ変わってくる。色やデザインにもトレンドがあり、在庫売り切りのため買う時期も重要になる――。

ランドセルは一度買うと買い直しがきかず、しかも6年間という長い時間を共にする道具。失敗のできない買い物だ。だが、特定の時期に客が殺到する売り場では、じっくりと選んでもらうことができない。そんなランドセル選びについて余すところなく情報提供して顧客が吟味してもらえる時間を提供。結果的に「鶴屋で買ってよかった」と思ってもらえることを狙っている。

魚の目利き講座では、おいしい魚の見分け方を提供するだけではない。地元熊本で食べられる美味しい魚はどんなもので、季節によってどんな魚の仕入れを強化しているかなど、鶴屋百貨店がどんな考え方で魚を仕入れているかを伝えている。ただ並んでいる魚を売り場で見るだけではわからない、その売り場の哲学を、ラララ大学を通じて伝えられるようになった。

百貨店はモノを売るだけの場所ではない。人々が豊かで楽しい生活をするためのさまざまな知恵も合わせて提供していることを、改めて体感できる場所を作ろうとしている。

本当の狙いは「新事業」の提案

ただ、鶴屋ラララ大学の狙いは、鶴屋百貨店と顧客との関係づくりにとどまるものではない。従業員が自分の講座づくりを通じて改めて顧客と向き合うことで、革新的なサービスや事業を生むことも期待されているのだ。いまの社会のニーズがどう変わっており、顧客が鶴屋に求めているのは一体何か。これらを従業員や経営陣がプレゼンテーションを通じて、これまでの百貨店にはないサービスや事業を改めて生み出していこうという狙いも、この講座には隠されている。

実は従業員が自分の講座を持つまでには、幾つもの越えなければならないハードルがある。

まずは、岸代表を始めとする刻キタルのスタッフと何度も議論を繰り広げながら、講座のプレゼンテーションを練り上げていく。コピーライターやデザイナー、広告代理店で数々のプレゼンテーションを行い、コンペを勝ち抜いてきたプロデューサーが、従業員と徹底して議論を繰り返す。

顧客のどんな姿を見てこの講座を企画しようと思ったのか。その顧客にどんなメッセージを伝えたいのか。講座を受けた人にどんなことを感じてもらいたいのか。この講座の宣伝ポスターを作るなら、どんなキャッチコピーにするか。そのときに決め手となる写真や絵はどんなものが考えられるか……。1回のプレゼンに対して2時間ほどかけて議論を繰り返す。多い時は5回のやり直しを経ることもある。この過程で、従業員は改めて潜在的なニーズを掘り起こそうと必死になる。

結果的に、この過程で出来上がったプレゼンテーションは「隠れた顧客ニーズの塊」(岸代表)にまで磨き上げられ、最終的に社長を含む役員全員が一堂に会する場で発表。最終的な承認が下りる。

「鶴屋百貨店に来る高齢者に元気になってもらいたい」。2人の従業員がこんな思いを持って提案してきた企画がある。高齢者の方が生き生きと日々を過ごせるよう、化粧品売り場や洋服売り場のスタッフと連携して若返って見える化粧の仕方や服の選び方をレクチャーし、ウィッグ体験や美しい姿勢を維持するための体操を行う。そして講座の最後には、化粧やウィッグで若返った自分の姿をインスタント写真で撮影するという内容だ。

この二人が担当するのは「ハートフルショップ」と呼ばれる、高齢者用のステッキやカートなどの福祉器具を販売する売り場。隣には補聴器やウィッグの売り場も並んでいる。百貨店の最上階、入り口からもっとも遠い場所にある。高齢者がこれからも元気に外に出て活躍するための商品を扱う大事な売り場だが、決して華やかな売り場ではない。ステッキやカートを使い始める高齢者は、自分の衰えを認めてしまうようで少し元気をなくしてしまっている人も多く、そんな人々に元気になってもらいたいと考えた講座だという。

議論の中で2人の従業員は普段顧客と接している中で、こうした高齢者の多くは「外に出るのがおっくうになっているが、それでもわざわざ鶴屋にまで足を運んでくれるロイヤルティーの高い顧客」と感じていたことを話す。そしてプレゼンテーションを聞きながら、岸氏のチームやラララ大学の運営スタッフは、長年鶴屋が抱えていたある別の課題に気付く。

「鶴屋友の会」と呼ばれる会員組織の中で、高齢者の来店頻度が落ちていた。もともと優良顧客だったこの世代の活性化をどのようにすべきかが、実はかねてよりの課題だったのだ。ならば、この企画はラララ大学の講座として行うのではなく、そのまま高齢者会員の活性化事業にしてしまってはどうだろうか。ラララ大学の講座は、通常10人くらいの受講者を集めた小さい単位で行われる。このように細々とやるのではなく、もう少し多くの人を巻き込んだ大型の企画に仕立て直して、次の社長・役員プレゼンで提案することが決まった。

ラララ大学は経営陣を巻き込んで新規事業を提案する場に変化しつつある。実際に経営陣もこの講座から、さまざまな事業アイデアを発想する。従業員の趣味だったボードゲームの講座を見た久我社長は、その場でおもちゃ売り場のボードゲームの品ぞろえを増やすよう指示。これまで子供向け商品を扱う売り場と考えられていたおもちゃ売り場だが、これをきっかけに家族全員が楽しめる商品を扱う売り場へと、その認識が変わった。また、インスタグラムなどの写真映えを意識したピクニック講座の経営陣プレゼンの際は、屋上の広場の使い方を再考する議論が社長や役員のなかで湧き上がった。

売り上げ、来店者数ともに増

普段から顧客と常に接している従業員の気付きや思いをクリエーターが磨き上げ、それを経営陣と共有することで、社内に常に改革を起こしていく。鶴屋ラララ大学の本当の狙いはここにある。

社員のアイデアを引き出す「鶴屋イノベーションプロジェクト」の試みは、着実な成果を上げ始めている。2016年2月期の売り上げは前年から22億円増の576億円。2017年2月期も、熊本地震の影響を受けたにもかかわらず、売り上げはほぼ横ばい。2018年2月期は585億円を見込んでおり、地方百貨店が苦境のなか成長を続けている。「何よりもうれしいいのは、イノベーションプロジェクト以来、来店者数は増加の一途をたどっていること。多くの方に愛されている証拠」(久我社長)。

従業員から経営陣までが常に変わり続け、常に挑戦をし続ける。鶴屋百貨店は、そんなイノベーションを起こすことを、企業の仕組みとして作り上げることに成功している。

丸尾弘志

 日経BP総研マーケティング戦略研究所上席研究員。1998年国際基督教大学卒業。『日経デザイン』編集長を経て現職。日本パッケージデザイン大賞、日本サインデザイン賞審査員、特許庁各委員などを歴任。また、2016年にデザインオフィスnendoと共同でデザインコンサルティング事業「bondo」を立ち上げた。
マーケティング戦略研究所

日経BP総研マーケティング戦略研究所(http://bpmsi.nikkeibp.co.jp)では、雑誌『日経トレンディ』『日経ウーマン』『日経ヘルス』、オンラインメディア『日経トレンディネット』『日経ウーマンオンライン』を持つ日経BP社が、生活情報関連分野の取材執筆活動から得た知見を基に、企業や自治体の事業活動をサポート。コンサルティングや受託調査、セミナーの開催、ウェブや紙媒体の発行などを手掛けている。

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