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カリスマの直言

都の金融構想 実現へ英シティーに学ぶ(安東泰志) ニューホライズンキャピタル会長兼社長

2017/10/23

「東京都の国際金融都市構想はいよいよ実行段階に入る」

東京都は10月13日、国内外の金融界トップや有識者らで構成する「国際金融都市・東京のあり方懇談会」(座長・斉藤惇KKRジャパン会長)を開き、海外の金融企業誘致などの施策案を盛り込んだ最終提言をまとめた。構想は「東京をアジアナンバーワンの国際金融センターとして復活する」という小池百合子知事の公約に基づいており、その全体像が明らかになった。

都は11月に「東京版金融ビッグバン」として具体策をとりまとめる予定で、構想はいよいよ実行段階に入る。東京市場の魅力が高まれば金融業の厚みが増し、国際的な投資マネーの呼び込みにも寄与しよう。

■英金融街シティーと組む

13日の懇談会で小池氏は以下の5点を主要施策として具体化すると発表した。(1)官民一体となった海外プロモーション活動 (2)金融分野の表彰制度「東京金融賞」の創設 (3)新興資産運用業者育成プログラム(EMP)の導入 (4)税負担の軽減 (5)英金融街「シティー・オブ・ロンドン」との戦略的な提携に向けた覚書(MOU)の締結――だ。

このうち、シティーとの提携は今回初めて明らかにされた。金融分野でのイベント、金融教育プログラム、環境・社会・企業統治を重視するESG投資、相互プロモーション活動など多岐にわたる分野で協力していこうという、これまでにない内容のものだ。

東京が国際金融センターを目指す上で、シティーから学ぶべき点は多い。例えば、シティーのプロモーション組織である「TheCityUK」は海外プロモーションを担うだけでなく、英政府との対話を通じて金融分野の競争力を維持するための規制改革などを積極的に提言している。

こうした知見は最終提言に盛り込んだ東京のプロモーション組織でも大いに役立つだろう。また、英国の有力大学と首都大学東京の連携により、東京にいながら高度な金融教育の場を提供することも検討されている。さらに、シティーの強みともいえる英国法に準拠した各種金融インフラの整備も東京都の特区制度の中で生かせないか検討の余地がある。

■全日本でプロモーション

日本には全国銀行業協会、日本証券業協会といった業界団体はあるが、オールジャパンとして東京市場を海外に売り込んでいくプロモーション組織がない。そして中央官庁にも金融事業者を規制・監督する金融庁はあるが、金融産業のプロモーションを担う機能はない。従って、都がその役割を担うべく、業界横断的なプロモーション組織を創設するのは有意義なことだ。組織の詳細やガバナンスのあり方などについては、関係団体と協議の上で決定されていくことになろう。

東京を国際金融都市たらしめるには、資産運用業者の育成、誘致が鍵を握る。そのため、内外の新興資産運用業者の育成プログラム(Emerging Manager Program=EMP)を導入する。これと併せて、EMPよりは規模が大きい資産運用業者を対象とする育成プログラム(Transition Manager Program=TMP)も実行する。

欧米では、EMP・TMPは年金基金などの機関投資家が資金の主な出し手であり、超過利潤追求の手段になっている。日本では、銀行が長年金融ヒエラルキーの頂点に君臨し、利益相反の要素をはらみつつ資産運用業を大きく展開してきた歴史があるが、EMP・TMPでは独立系ファンドを育成して市場の活性化を図る。

都としてはフランスの取り組みを参考に適切な運営ガバナンスを担保しながら、日本の有力な機関投資家を募る。その上で、新興運用業者や小規模な独立系運用会社に対してシードマネー(種銭)を投入するファンド・オブ・ファンズの設立を検討する予定である。

■避けて通れない税制改革

東京がアジアのライバルと戦っていく際に、どうしても避けて通れないのが税制の問題である。東京の法人実効税率は30%を超えているのに対し、ライバルである香港は16.5%、シンガポールは17%となっている。さらに、英国も19%であるほか、米国もトランプ大統領が大幅な連邦法人税の引き下げを提唱している。

また、日本は所得税や相続税の最高税率も圧倒的に高い上、相続税に至っては一定期間日本に在住した外国人が帰国後一定内に死亡した場合は、日本の国税当局に海外資産まで押さえられかねないという制度上の問題が指摘されてきた。

これでは海外の金融業や高度人材が日本に来るインセンティブには乏しい。東京に集積させるためには、こうした税制上の問題点をクリアする必要がある。しかし、法人税、所得税、相続税の大半は国税に属することもあり、国への働きかけは必須である。

現在、都は国家戦略特区を活用し、新興のフィンテック企業や資産運用会社の税負担軽減を国に求めている。仮にこれが通れば、対象となる企業にとっては東京における法人実効税率が現在の30.86%から24.69%に下がる。これに加えて都が法人2税(法人事業税、法人住民税)を免除すれば、法人実効税率は最大21.25%まで下げることが可能だ。

■国との協力なしには実現不能

しかし、特区制度での規制緩和は5年間に限られる。こうした時限措置では、東京が香港やシンガポールをはじめとするライバル都市と肩を並べるには極めて不十分である。恒久措置の実現に向け、国との連携が重要になろう。表で示したようにさまざまな分野で都と国が協力しなければ実現できない。

東京を国際金融センターにする構想はバブル期以降、何度も試みられたが立ち消えになった。理由はさまざまあるだろうが、既得権の壁に挑む強い意志に欠けていたということだろう。これに対し小池氏は会合に自ら出席しつつ、すべての業界団体のトップに議論への参画を求めるなど、率先して課題に取り組んできた。

■市場発展は一般投資家にも利点

金融業は人の力に負うところが多い。優秀な人材がアジアのライバル都市に奪われている現状を変えることができれば、それだけで大きな前進だ。マンパワーが戻れば、高度な金融サービスが提供できるようになるなど金融業の担い手が増えて、海外マネーの本格的な流入にもつながろう。

東京市場が発展すれば、例えばグローバル企業の上場誘致も有利になり、投資機会が増える。これは日本の一般投資家にとっても大いに歓迎すべきことだ。構想が実行段階に移るなか、小池氏の手腕に期待したい。

安東泰志
1981年に三菱銀行(現三菱東京UFJ銀行)入行、88年より、東京三菱銀行ロンドン支店にて、非日系企業ファイナンス担当ヘッド。2002年フェニックス・キャピタル(現ニューホライズンキャピタル)を創業。三菱自動車など約90社の再生案件を手掛ける。東京大学経済学部卒業、シカゴ大学経営大学院(MBA)修了。

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