「痛みに対する脳の過敏性があり、その背景に中枢神経系の神経細胞の炎症があるのではないかという説が有力です」(村上さん)
線維筋痛症の患者には、アロデニアと呼ばれる、触覚が痛覚に変わる現象が見られることがあり、ちょっとした接触、服のこすれ、気圧や気温、音や光などの外的刺激を激痛と感じてしまう。このように痛み刺激に過敏になるだけでなく、通常では局所に限定されるはずの痛みが全身に広がる。ということは、「痛み刺激を繰り返し体験することで脳の中枢の炎症が慢性化して、入力された痛みの信号を増幅させるような指令が出されている可能性がある」と村上さんは言う。
発症や予後には心のクセが関係する?
線維筋痛症の発症には、2つの段階があると考えられている。多くの場合、最初の段階として、何らかの身体的外傷(手術、事故などの外傷、オーバーワークによる肉体的負荷など)や心的外傷(虐待やショックな体験によるトラウマなど)を負っているという。
2つ目の段階が、過去の外傷からある程度経過した後に、新たな外傷やストレスが加わることだ。それをきっかけに発症することが多く、背景には、自分の体に負荷をかけ続ける行動パターンになりやすい「過剰な几帳面さ」「強迫性」「完璧性」といった気質が関係しているという。
「だからこの病気は活動性の低い人には起こりません。患者には共通して、厳しい世界で完全性を求めたり、運動などでも徹底的に鍛えるといった、完璧主義で活動性が高い一面があります」(村上さん)
心の持ち方を含めた多面的アプローチが重要
治療は対症療法で、まずは症状に合わせた薬によって痛みを和らげる。神経障害性疼痛(とうつう)緩和薬(プレガバリン)、抗うつ薬、抗けいれん薬などが使われる。
「一時期に比べれば、何年も病名が分からず苦しむというケースは減って、早めに治療が受けられるようになってきました。しかし、薬物療法の効果は病気全体の6割くらいまで。残りの4割を埋めるには生活全般にわたる改善が関わってきます」(村上さん)
薬以外には、運動療法や認知行動療法、リハビリテーションなどが行われる。個人個人に合わせた多面的なアプローチが必要だ。
「運動が効果的と聞くと、休まず徹底的に頑張ってしまう人もいます。症状や背景を総合的に理解して、根本的な心の持ち方から見直していくことが大切です」(村上さん)
先述のように、痛みの刺激が慢性的に繰り返し脳に伝達されることで、中枢の神経細胞に炎症が起きると考えると、一度痛みが出たときに放置せずしっかりケアをして、悪循環を断ち切ることが大切になる。ケアをしないまま無理に負荷をかけ続けてしまうと、脳に痛み刺激を与え続けることになり、発症につながる。
ガガさんは病気の公表に当たって「病気の啓発と患者同士の出会いにつながることを願っている」と述べたという。自分はこの病気ではないから関係ないと思っているあなたの中にも、頑張り過ぎる一面や、「完璧にしなければ」「もっと努力しなくちゃ」といった行動上の特性はないだろうか。
線維筋痛症という病気から、オーバーワーク、オーバートレーニングの危険性を学ぶことができる。ときには立ち止まって自分をいたわることも大切なことだ。特に長引く痛みがあったら要注意。痛みが3カ月以上続く、徐々に強くなる、全身に広がる、一般的な鎮痛薬が効かない、といったことがあったら、早めに受診しよう。線維筋痛症を診療している医師は日本線維筋痛症学会のホームページ(http://jcfi.jp/network/network_map/index.html)から検索できる。

(ライター 塚越小枝子)