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夫が、部下がもしかして? 大人の発達障害を知る

2017/10/20

(イラスト:YAB)

 対人関係がいつもうまくいかない、同じ失敗を繰り返す――。自分や家族、職場の同僚などが仕事や日常生活でそんな問題を抱えているとき「大人の発達障害かも?」と思う人が増えている。

 例えば、ある自営業の40代の女性は、小学生の息子がADHD(注意欠如・多動性障害。発達障害の一例)と診断された。発達障害について学ぶうちに自分自身もADHDではと気づいた。別の女性は、自分が病気で寝ているときも子どもの世話を一切しない夫につらい気持ちを抱えていた。気持ちを察しあう情緒的なコミュニケーションができない夫は「ASD(自閉症スペクトラム障害)なのではないか」と疑っている。

 仕事の場で、発達障害の特性を持つ人と働く機会も今後増えていくとみられる。支援やケアによって働きやすい環境づくりに取り組む企業も現れた。気になる大人の発達障害について専門家に聞いた。

■「日常生活に難あり」かどうかが分かれ目

 発達障害は、先天的な脳の特性によって認知の発達にアンバランスさが生じ、社会性やコミュニケーション、学習、注意力、衝動性などにおいて問題が生じるといわれる。代表的なのがASDとADHD、LD(学習障害)。アスペルガー症候群はASDに含まれる。

 だが、「発達障害の人」と「そうでない人」が0か1かで存在するわけではないという。脳の特性には誰でも多少の偏りはあり、スペクトラム(連続体)という言葉が示すように偏り度合いは連続的に分布する。どんぐり発達クリニック(東京・世田谷)の宮尾益知院長は「どんな人にもASD的かADHD的かといった傾向はある」と話す。要は、その特性によって本人や周囲が継続的に困難を感じているかどうかの差だ。

 実際には、様々な診断基準にもとづいて医師が判断する。症状が一定期間確認されれば発達障害と診断され、障害者手帳(精神障害者保健福祉手帳)の申請もできる。しかし、医師の診断を受けずに困難を抱えながら生活をし、仕事をしている人も多いはず。実際に、大手企業に勤務する50代の男性は、発達障害について勉強していて思い当たり、自ら医師の診察を受けてみた結果、発達障害であると診断されたという。

 発達障害を対象に、ヨガを取り入れた身体認知療法を指導しているDS BASE千歳烏山(東京・世田谷)の神谷美奈子さんによると「成績抜群の営業担当者にはADHD傾向を持つ人がしばしばいる。技術系企業などでは、有名大学卒の高学歴社員にアスペルガー傾向がある人も見受けられる」。得意な分野には高い能力や集中力を持つ半面、困難さを感じる分野があるため、業務内容や配属先などのミスマッチを防ぐことが重要だと指摘する。

■女性は見過ごされやすい?

 「発達障害ではさまざまな症状が出てくるが、根幹は一つ。人とのかかわりがうまくいかないということ」(宮尾院長)。対人関係の悪化、仕事での失敗、「やる気がない」「ダメだ」と繰り返し責められるなどで、うつ病など「2次障害」を起こしやすいのも特徴だ。

 ASD傾向を持つ人は、相手の表情などから感情や言外にこめられた意味を読み取るコミュニケーションが不得手で、言葉をそのまま受け取ってしまう。例えば、体調を崩した妻が夫に「夕食を作れないから、何か買ってきて食べて」と伝えたら、言葉通りに自分の分だけ買ってきて食べてしまう。「妻も食べたいかもしれない」と想像するのが難しく、はっきり言われないと行動に結びつかない。

 「相手が求めている答えが推測できないので『最近どう?』といった抽象的な会話に答えが返せない。女性の場合は、女性同士の特に目的のない会話(ガールズトーク)ができずに浮いてしまったり、自分が思ったままに発言して相手を怒らせてしまったりする」(宮尾院長)。特定の対象に対する関心やこだわりが強くそれ以外のことに関心が薄い、同じ手順や同じ経路など同一性へのこだわりが強い、などの特徴もある。

 最近話題になることが多いADHDは、不注意によるミスが多い、人の話を集中して聞けない、じっとしていられない(多動性)、唐突な言動(衝動性)、計画立てて物事が進められない、時間の見通しを誤り必要な仕事などを終えられない、といったことを繰り返し、やはり人間関係に悩みを抱えやすい。単なるうっかり忘れや注意散漫だけでなく「不注意、多動・衝動性、時間概念の問題がそろっていて、かつそれらの影響度が大きいのがADHD」(宮尾院長)とされる。

 ASD、ADHDともに大人になってからではなく、幼少期から症状がある。国際的な診断基準でも「不注意や多動性、衝動性の症状が12歳以前から存在している」(ADHDの場合)とされている。ただ女性の場合、子どものころにおとなしくて多動性が目立たなかったり、場の空気が読めなくても「不思議ちゃん」など「キャラ」として扱われて見過ごされることもあるという。男女ともに学業成績がよい場合は、学生の間はそれなりに適応できるが、就職して対人関係が多様化・複雑化したり、管理職になって求められる役割が変化したことをきっかけに、困難さが生じることがある。

 パートナーや、職場で共に働く人にそうした傾向を感じたら、どう対応すればいいのだろうか。

■パートナーが発達障害で悩む女性

 パートナー(夫)がASD(アスペルガーなど)傾向を持つ女性の場合、気持ちを分かり合えない、共感してもらえないというつらさが重なって抑うつ状態になるなど、心身にダメージを受けてしまうこともある。そうした状態は、ギリシャ神話の孤独な女神の名を借りて「カサンドラ症候群」と呼ばれている。

 子どもの受験など、大事なことや将来のことを相談しようとすると、夫が黙り込んでフリーズする(固まる)か「うるさい!」と怒り出して相談できない、という女性の悩みも多い。「アスペルガーの場合、それまでの脈絡と関係ないことを突然聞かれると答えられず、フリーズしてしまったり感情を爆発させてしまう。いきなり答えを求めずに『1週間後(理想は2週間後)に答えて。それまでに考えておいて』と促すといい」(宮尾院長)。また、こうした特性のある人は「相手の表情よりは声のトーンで相手の感情を読んでいるので、何か注意やアドバイスをするときも声のトーンはできるだけフラットにすること。話をするときも向かい合って座るのではなく、問題点を書いた紙などを目の前に置いて、一緒に見ながら話をする(共同注意)のがいい」。

 女性はパートナーに対して「共感してほしい」と思うもの。「今日は子どもが言うことを聞かなくて。何とかして……」と夫に訴えたときは「大変だったね」と言ってほしいが、「何とかしてほしい」と言われた夫は何とかしなければと、父の立場で子どもを叱りつける、ときには暴力を振るうなど解決策だけに走りがち。こうした夫婦のケースに対して、宮尾院長は「父としての時間(子どもを叱る)、夫としての時間(妻の苦労をねぎらう)をそれぞれ決めて、毎日その時間帯は役割を果たすルールを作ること」を勧めているという。臨機応変な対応は苦手だが、夫の立場に立てば共感できるので、時間により立場を変えるルールが定まればきちんと行動できるはずだ。

■職場でいかに対応するか

 発達障害を抱える人と共に働く機会も今後、増えていきそうだ。2016年4月に改正障害者雇用促進法が施行され、身体障害者・知的障害者に加えて精神障害者(発達障害者はこの中に含まれる)の雇用も義務付けられている。法定雇用率も引き上げられた。

 これは障害者手帳を持つ人の雇用が対象だが、「障害者手帳は持っていなくても、発達障害の傾向がある社員は少なからずいる」と認識し、職場の理解や対応に取り組む企業はある。

(イラスト:YAB)

 ASD傾向のある人は臨機応変の対応が難しく、頃合いを見計らった報告・連絡・相談は苦手。どういうタイミングで何について報告をするかを決めればきちんと実行できる。新しい仕事をするときは「上司や同僚と一緒に一度やってみて、予行演習をして覚えたり、パターンや映像など視覚から覚えるのがいい」(宮尾院長)。

 注意力を維持するのが難しいADHD傾向のある人は、色や物など目に入る情報量が多い環境ではよけいに集中できなくなってしまう。「仕事をするスペースにはあまり物がないようにして、可能ならついたてなどで視界を区切る。仕事の指示は言葉で伝えるより、メモや図にするなど視覚的に訴えるほうがいい」(神谷美奈子さん)

 発達障害のある人は「体幹が弱く姿勢が悪かったり、関節の動きがぎこちないことがある」(神谷さん)。また、何かに過度に集中できる一方、自分の疲労を感じにくくなってしまっていることが多いという。神谷さんは発達障害を持つ子どもや大人向けに、身体認知ヨガを指導している。身体認知の機能を引き上げることで、疲れやストレスなど自分の体の状態に気付きやすくなり、柔軟性を高めれば転倒などケガの防止にも役立つ。ヨガや呼吸法でリラックスする方法も身に付く。「ストレスが強く自発的な言葉が出なかった方が、身体認知ヨガをした後では自分からスムーズに話すようになることもある」(神谷さん)

 企業の中には、社員のメンタルケアの一環としてこうした療法を取り入れ、発達障害のある社員のケアにも生かそうとするところがある。特に管理職にとって、部下や自分自身の心身の状態を把握することは重要だ。

■ダイバーシティー経営の一環として

 そうした企業の一つが、NTTドコモの特例子会社であるドコモ・プラスハーティ(東京・豊島)。ドコモグループでの障害者の雇用と定着支援、そのための環境づくりを目的として15年に設立された。グループ各社向けの研修や、障害のある社員やその同僚・上司からの相談も受け付ける。

 身体障害者、知的障害者、精神障害者が働くための環境づくりに取り組んできたが、対象は広がりつつあるという。「突き詰めれば、障害者に限らず、能力をフルに発揮する上で何らかの課題を抱えている人はたくさんいる。そうした人たちのサポートと現場のマネジメントのための仕組みが求められていると気付きました」(業務運営部の岡本孝伸担当部長)

 現在準備中というのが、障害などのある社員の状況を本人、上司、ドコモ・プラスハーティ社内の専門家(精神保健福祉士)の三者で日々共有できるシステム。社員が自分の心身の状態を毎日システムに入力して「見える化」し、上司と専門家が助言したり、必要に応じて面談したりして心身状態が悪化しないように支援する仕組みだ。

 「通常の枠にはまりにくい人が持っている能力を引き出せれば、組織にとって必ずプラスになります」(岡本担当部長)。ダイバーシティー経営の一環として取り組んでいる。

(コンテンツ編集部 秋山知子)

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