住宅ローン、失敗を避けるには 「3原則」を押さえる不動産コンサルタント 田中歩

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社宅の退去期限や子供の入学――。来春に向けて転居先を探し始めようとする人が増えてくるのが今の季節です。つい理想の住まい探しばかりに目が向いてしまい、後になってから住宅ローンの返済に苦しむといったことがないようにしたいものです。そこで今回は住宅ローンを組むにあたって「最低限知っておきたい3つのポイント」についてお話ししたいと思います。

(1)借りてもよい金額を見極める

「借入限度額は年収の5倍、あるいは年間の元利返済額は年収の25%までにすれば大丈夫」といったざっくりした目安をよく耳にします。しかし、これはすべての人に当てはまる目安ではありません。借りてもよい金額は、暮らし方や年齢などによって大きく変わるので注意が必要です。最近では、借りるときの年齢が30代半ばから後半というケースが多く、あまり考えずに返済期間を35年などと設定してしまうと、定年退職後も長く返済を続けなければならないということになってしまいます。

借りてもよい金額を算出する基本は、生涯の年間収入(手取り額)と年間支出額の見極めです。働いている期間の年間収入と退職後の年間収入を前提に、生活費(衣食や趣味、旅行などの費用も)や教育費、老後の生活費について毎年どの程度、支出があるのか考えます。毎年の収入からこれらを差し引いて残った額が住宅ローンの返済や住宅維持費(固定資産税や都市計画税、修繕費や管理費など)に回せる毎年の金額です。

実際に収支表を作ってみると、「働いている間に返済を終わらせないと、老後の暮らしが厳しくなる」と実感できると思います。また、年金しか収入がないのに支出だけが長く続くというのは心理的な負担になるでしょう。一般に退職時点でローンを完済したほうがよいというのはそういう理由からなのです。

ここまで作業できれば、住宅ローンの年間返済額の上限と無理のない返済期間がわかりますので、ウェブサイトのローン計算シミュレーションソフトなどを使い、借入額が簡単に計算できます。これが「借りてもよい金額」となります。

(2)金利変動に耐えられるか

住宅ローンには、金利の違いで大きく3つの商品タイプがあります。変動型、固定期間選択型、全期間固定型です。変動型は返済期間中に金利が変動する商品で、金利が上がれば毎月の返済額も上がります。ただし、金利が上昇しても5年間は返済額が変わらず、返済額が変わるとしても直前の返済額の1.25倍を上限とするルールとなっているのが一般的です。

固定期間選択型は、3年、5年、10年などといった期間については固定金利が適用されますが、期間経過後はその時点の金利で変動金利か固定金利を選ぶという商品です。こちらも金利が上がれば返済額はアップします。一方、全期間固定型は返済期間中、原則として返済額は変わりません。このため今後、金利が上昇したとしても返済額を気にしなくてすむ商品です。

仮に変動型や固定期間選択型を選ぶ場合、金利が上昇したときに支払いに耐えられるかどうかをチェックしておくことが重要です。金利の上昇時期や上昇度合いは予想が難しいのですが、内閣府が7月に発表した「中長期の経済財政に関する試算」のベースラインシナリオ(経済再生シナリオほどは再生しない場合のシナリオ)では、長期金利は2025年には1.8%(現在は約0.1%)と予測しています。経済再生を最優先課題にしているがゆえに、一定のバイアスはかかっていると思われるものの、これは一つの参考になるでしょう。

なお現在、35年の元利均等返済で3000万円を借り、10年後に現在の住宅ローン金利が1.7%上昇した場合、毎月の支払額の変化、つまり上昇額は以下のようになります。

(3)自己資金は諸経費+2割

新築マンションも新築戸建ても、買ったあとは徐々に時価は下がるというのが一般的です。例えば、新築マンションだと15年で約半分程度まで下がるといわれています。このとき注意しなければならないことは、買った住まいの価格が下がっていくスピードと、ローンの残債務が減っていくスピードの違いです。

何らかの理由で収入が減り返済ができなくなってしまった場合、住宅を売却して得た資金で債務を返済できればよいのですが、もしそれができないとすると大変なことになります。

下のグラフは、4500万円の新築マンションを購入する際、諸経費のみ自己資金、残りはすべてローン(35年元利均等返済、金利1.2%)とした場合の売却手取り額とローン残債額のグラフです。購入時から20年後までは残債務のほうが大きく、いわゆる債務超過となるため、その超過分を支払えるだけの余剰資金がなければ、極めて危険な状態です。

一方、同じ条件で諸経費と売買金額の2割(900万円)を自己資金とした場合は、ほぼ債務超過に陥ることはありません。一般的に「諸経費と購入額の2割は自己資金でまかなったほうがいい」といわれるゆえんです。

気に入った住まいが見つかると、その後は一気に売買契約の手続きと住宅ローンの契約手続きが進みます。不動産業者に勧められるがままにローンを組むということがないよう、こうした「3原則」を押さえ、後悔しない資金調達を目指したいものです。

田中歩
1991年三菱信託銀行(現・三菱UFJ信託銀行)入行。企業不動産・相続不動産コンサルティングなどを切り口に不動産売買・活用・ファイナンスなどの業務に17年間従事。その後独立し、ライフシミュレーション付き住宅購入サポート、ホームインスペクション(住宅診断)付き住宅売買コンサルティング仲介などを提供。2014年11月から個人向け不動産コンサルティング・ホームインスペクションなどのサービスを提供する「さくら事務所」に参画。
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