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チェリスト新倉瞳がユダヤ音楽バンド活動

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NIKKEI STYLE

スイス在住のチェリスト新倉瞳さんがユダヤ音楽のバンドで演奏活動をしている。チューリヒを拠点にした「ハイベバラガン」という7人組で、12月には東京でもコンサートを開く。「クレズマー」と呼ぶユダヤ民族音楽を現代によみがえらせる取り組みについて聞いた。

帝政ロシアのポグロムやナチスドイツのホロコーストなどの迫害によって壊滅の憂き目に遭った東欧のユダヤ人社会。彼らが生み出した音楽が今、欧米の若者の間でブームになりつつある。「クレズマー」は東欧ユダヤ人社会で生まれ、消滅し、再び伝承によって現代によみがえってきた。クラシック音楽の演奏活動が中心の新倉さんは、クレズマーのバンドにも参加し、スイスのクラブやライブハウス、ユダヤ人の結婚式会場など様々な場所で演奏している。

スイスでユダヤのクレズマー音楽に出合う

「クレズマー音楽は移民とともにアメリカ大陸に渡っていった。ユダヤ人家族を扱ったミュージカル映画『屋根の上のバイオリン弾き』でブレークしたフレーズがあった。ジャズと出合ってまた違う形のアプローチが生まれ、今、再び欧州に戻ってきて根付きつつある」と新倉さんは説明する。桐朋学園大学在学中にデビューし、同大を首席で卒業後、スイスのバーゼル音楽院に留学した。得意のエルガーの「チェロ協奏曲」をはじめ、クラシックのCDアルバムを多数出しているが、スイスで暮らすうちにユダヤ音楽にも出合い、ひかれるようになった。

現在住んでいるチューリヒでは、室内オーケストラ「カメラータ・チューリヒ」の首席チェリストとして活躍する一方、クレズマーのバンド「ハイベバラガン」のメンバーとしても活動している。クラリネット、バイオリン、チェロ、ギター、アコーディオン、コントラバス、パーカッションの7人編成。「私のほかは全員がスイス人。ユダヤの民族や宗教に関わりのあるメンバーが数人いる」と話す。新倉さんがこのバンドに加入したのは4年ほど前だが、バンド自体は10年くらい続いているという。

「スイスに留学した時点ではクレズマー音楽について何も知らなかった」と話す。クラシックの室内楽を一緒に演奏しているメンバーに誘われてクレズマーのバンドのライブに行ったのがきっかけだ。「それまでバンドには全く縁がなかった。クラシックの演奏家はポップスやワールドミュージックのバンド活動に関わってはいけないとさえ考えていた」。しかしライブに行ってみると「哀愁を帯びた旋律でありながら、バンドの編成が楽しそうで、心を打たれた。彼らの一体感にひかれた。すてきだなと彼らに言ったら、『一緒に弾くか』と誘われ、『もちろん弾きたい』と答えたその日からメンバーになった」と振り返る。

哀愁を帯びた短調ながら元気の出る旋律

メンバーには音楽家のほかに弁護士や新聞社員もいる。学生時代から室内楽を弾いていたメンバーを中心に、様々な職業に就きながらも音楽でつながっているグループだ。「クレズマーの特徴として、大活躍するのはクラリネット奏者。クラシック専門のメンバーは私とバイオリンとクラリネットとパーカッションの奏者4人。ギタリストはジャズが専門。異なるジャンルのメンバーで構成されている」と説明する。パーカッションが入ると音量が大きくなりがちなので、新倉さんはエレクトリックチェロを弾くことも多い。

各メンバーが好きな伝統音楽を持ち寄って演目を選ぶ。「もともとの譜面はとてもシンプルで、メロディーと和音のコード進行だけ書いてある楽譜が多い。誰がどこをどう弾いたらいいかを決めてコンサートに臨む」と言う。メンバーが全員そろっていない日でも演奏することがある。「そんなときでもこのメロディーの部分はあなたが弾いてとか、アイコンタクトでその場で決めて即興的に演奏していく」とライブの様子を話す。

クレズマーにはいかにも悲哀を感じさせる曲が多い。「和音の進行は基本的に哀愁を帯びた短調。でも短調でありながら元気になる旋律を持つ。独自のクレズマー音階もある。そういう和音を使って実はメンバーの私たち自身も作曲をしている」。ハイベバラガンの自主製作CD「DER NAYER MANTL」には彼女らのオリジナル曲も収めてある。「昔ながらの伝統の旋律を念頭に置きながら、時代に合った新しいテイストを入れて作曲していくのが、クレズマーへのスタンダードな取り組み方」と新倉さんは語る。

歌のある曲はイディッシュ語で詩が書かれている。イディッシュ語は中・東欧のユダヤ人が使ってきた言語だ。「喉を鳴らしたり、巻き舌を使ったり、日本語にはない発音が多くて難しい。標準ドイツ語とは異なるが、スイスドイツ語とはある程度似たところがある。シナゴーグというユダヤ教の集会堂で歌われてきた曲もある。私も歌うが、最初は苦労した」。メンバーから発音を直され、最近やっと許されるようになったそうだ。

クレズマー音楽の起源はよく分かっていない。国を持たなかった民族の悲劇として度重なる迫害に遭遇し流浪を強いられてきたからだ。2017年のノーベル文学賞に決まった日系英国人作家カズオ・イシグロ氏の代表作「日の名残り」は、1930年代英国の反ユダヤ主義の問題を扱っている。ゲシュタポに路上で射殺されたポーランドのユダヤ人作家ブルーノ・シュルツ(1892~1942年)が描いた故郷の街ドロホビチ(現ウクライナ)には、大きなユダヤ人社会が存在したが、痕跡もとどめないほどに徹底的に破壊されたといわれる。アウシュビッツ強制収容所の事実は言うまでもない。そうした受難の民衆の文化を掘り起こし、現代によみがえらせる試みは容易ではない。

「掘り起こせば起こすほどクレズマーはもっと古い音楽なのではないかと思えてくる。やはり欧州でユダヤ人が迫害された時期を通じて生まれ、消えてしまった音楽だと思う」。新倉さんはクレズマーを広めるために開かれるワークショップにも参加し、伝道師と呼ばれる先生たちに学んだ。「彼らはクレズマー音楽を紹介するが、最初に譜面があるわけではなく、その人が耳から伝え聞いて楽譜に起こしたものも多い」。もともとは民謡などの古い音楽だが、耳でコピーして伝えられてきたのだろう。迫害が続く中で、そうやって辛うじて伝承されてきた。「人が人に直接伝えていく音楽」と新倉さんは感じている。

新倉さんが今回のインタビューの合間に弾いてくれた「シュピル・ギター」という曲は、彼女らのCDでは作曲がサムイル・ポクラス(1897~1939年)の名義になっている。ウクライナのキエフに生まれ、米国で没したユダヤ系の作曲家だ。しかし「シュピル・ギター」のもとになった民謡としての音楽はもっと古い起源を持つようだ。

クラシックの演奏にも役立つバンド活動

「シュピル・ギター」は「ギター弾き」という意味の曲で、イディッシュ語の歌詞がある。新倉さんもコンサートで歌っている。「ギタリストにはお金も家もないけれど、ひとたびギターをかき鳴らしたら、友や女が寄ってくる。苦しみなんて忘れろよ。あすになったら考えろ。あすに向かってみんなで乾杯」といった内容の歌だ。哀愁に満ちているが、リズミカルなダンス音楽で、泣き笑いではあっても決して暗くない。

2017年2月、新倉さんは第18回ホテルオークラ音楽賞を受賞した。同賞はホテルオークラ東京(東京・港)が有望な音楽家の支援・育成のために創設した賞。選考委員を務めた音楽評論家の寺西基之氏は彼女の受賞の理由として、クレズマーの奏者としても活動し、その幅広い取り組みに音楽を広い視点で捉える姿勢が表れていることを挙げた。「私のデビューは早かった。期待に十分応えきれていないとの葛藤からスイス留学を選んだ。そんな中でクレズマーや現代音楽やバロック音楽に関心が広まり、自信を取り戻した時期の受賞だったのでうれしかった」と話す。

クレズマーのバンド活動はクラシックの演奏家としての活動にも役立つと彼女はみる。「クラシックにも民族音楽が反映している作品が多い。何気なく聴いていた曲が実はユダヤの民族音楽だったりする。そうした事実を知れば、演奏のアプローチも変わる」と語る。

西洋音楽史の中でユダヤ人作曲家は重要な位置を占める。ドイツロマン派初期にはフェリックス・メンデルスゾーン(1809~47年)がいる。ジャコモ・マイアベーア(1791~1864年)は「ユグノー教徒」などの作品で絢爛(けんらん)豪華なグランドオペラの形式を確立し、のちのワーグナーに影響を及ぼした。

後期ロマン派の19世紀末には長大な交響曲を書いたグスタフ・マーラー(1860~1911年)が登場する。そしてロマン派を総括し、無調や十二音技法など新たな手法で現代音楽を切り開いたのがアルノルト・シェーンベルク(1874~1951年)だ。ナチス政権下のドイツではユダヤ音楽が禁止され、メンデルスゾーン、マイアベーア、マーラーの作品は「3M」として特に敵視の対象となった。新倉さんはマーラーについて語り始めた。

「オーケストラがマーラーの交響曲を演奏するのを聴けば、楽団員がクレズマーを知っているかどうかが一発で分かる。マーラーの交響曲にはタラッタラッタラッというリズムを刻む旋律がよく出てくる。日本人はこういうリズムをわりときちんと縦に刻む傾向が強い。だけどこれはクレズマーのリズムであり、クレズマー独特の遊びの感覚、民族的な雰囲気、上手すぎない感じがほしいと思う」。新倉さんはエストニア生まれの指揮者パーヴォ・ヤルヴィ氏によるマーラーの交響曲のリハーサルを見たことがあるという。そのときにヤルヴィ氏が「この箇所はクレズマーだからね」と楽団員に指示を出していたことに驚いたそうだ。

苦境でも前向きになれる音楽がよみがえる

スイスでの暮らしは8年目に入った。「素でいられて、音楽に集中できる大事な場所」と言う。留学した当初は「海外生活に得意になっていた」。だが次第に「自分は大多数のヨーロッパ人と同じではなく、アジア人としてしか見られないことを痛感し、コンプレックスを抱き始めた」。日本人が欧州で生活するといったんは陥りやすい孤立感だ。こうした中で出合ったのがヨーロッパでも異質の文化を持つユダヤ民族の音楽だった。「永世中立国のスイスには移民も多いので、様々な文化に出合える。自分の想像力を刺激できる場所であり、コンプレックスがすっかりなくなっていった」と振り返る。

最近はチューリヒでもバンドの知名度が出てきたという。今年末にはメンバーとともに来日し、12月28日にヤマハ銀座スタジオ(東京・中央)でライブを開く。「苦しい中でも光を見つけ出し、小さなことに喜びを感じ、音楽に望みを託す。前向きになることができる音楽を多くの人々と分かち合いたい」と抱負を語る。幾多の苦難をくぐり抜けてきたユダヤの音楽が、現代の感覚によってよみがえる。

(映像報道部シニア・エディター 池上輝彦)

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