アップルのiOS11 低迷iPadに「喝」が入るか佐野正弘のモバイル最前線

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アップルが新たに提供したスマートデバイス向けOS「iOS 11」の新機能を見ると、iPhoneとiPadとで異なる進化を遂げている様子が見てとれる。その背景には何があるのだろうか。

iPhoneとiPadで機能が分化

アップルは毎年、新しいiPhoneの発売時期に合わせてiOSを更新する。今年も「iPhone 8」「iPhone 8 Plus」の発売に合わせて、新しいiOS「iOS 11」の配信を開始した。

iOS 11を約1カ月間、実際に使ってみると、iPhoneとiPadとで異なる進化を遂げていると感じた。もちろん追加された機能の多くは両デバイスで共通しているものなのだが、実際に使ってみると、機能ごとにターゲットのデバイスがはっきり分かれているのだ。

iPhone向けの機能強化として特徴的なのが、コミュニケーション用途のものだ。例えば、撮影した写真の前後に合わせて3秒間の動画を同時に撮影する「Live Photos」で「ループ」などのエフェクトが加えられるようになった。スクリーンショットに手描きで絵や文字などを直接付加する機能や、iPhoneの操作を動画として録画する「画面収録」もSNS向きの機能だ。

iOS 11のスクリーンショット機能では、単に画面写真を残すだけでなく、その上にペンなどを使って絵などが描けるようになり、SNSで活用しやすくなった

iPadはビジネスツールへと変貌

一方で、iPad向けの機能はビジネス利用を意識している。それを象徴しているのが「ファイル」だ。これはMacOSでいうところの「Finder」に相当する機能で、iPad本体やiCloudなどクラウド上にあるストレージに保存されたファイルを一元管理できるもの。「ファイル」はiPhoneでも使えるが、画面が大きくビジネスシーンで活用されることが多い、iPadで真価を発揮する。 アップルはこれまで、iPhoneとiPadの機能に大きな差を付けていなかった。それがiOS 11では大きく変化した。アップルがiPadの進化の方向性を大きく変えようとしていることが見てとれる。

iOS 11で追加された「ファイル」を使うことで、フォルダやタグを使ったファイルの管理ができるようになった

iPadは従来、動画やゲームなどを楽しむビューアーとしての用途が主体であり、電話としての機能を除けばiPhoneと利用スタイルに大きな差はなく、iPhoneの延長線上にあるデバイスという位置付けだった。しかしながら2015年に投入した「iPad Pro」を皮切りとして、アップルはiPadの位置付けを大きく変えてきた。

iPad Proは従来のiPadとは異なり、大画面(12.9インチもしくは10.5インチ)のディスプレーと高性能チップセットを搭載し、さらに専用のペンデバイス「Apple Pencil」を用いて手描きができるのが大きな特徴としている。そしてアップルはiPad Proの高性能を生かし、パソコンのようにビジネスやクリエーティブな用途にも活用できることを積極的にアピールするようになったのだ。

アップルはApple Pencilによって手描き操作もできるなど、ビジネスやクリエーティブ用途にも活用できる「iPad Pro」シリーズに力を入れるようになった

この頃からアップルは、iOSに関してもiPadのビジネス活用に向けた機能強化に力を入れている。iOS 9のSlide OverとSplit Viewや、今回のiOS 11で追加された「ファイル」アプリやDockなどは、その最たる例といえるだろう。

一方でアップルは、従来型のiPadは新機種の投入自体を減らしている。17年3月に9.7インチサイズの「iPad(第5世代)」こそ発売されたものの、8インチサイズのiPad miniは、2015年の「iPad mini 4」以降新機種が登場していない。

伸び悩むiPad、打開策が必要に

なぜアップルが、iPadの位置付けをビューアーからビジネスツールへと大きく変えようとしているのだろうか。その理由は大きく2つある。1つはスマートフォン(スマホ)の大画面化の影響を大きく受け、販売が落ちていることだ。

タブレットは、スマホの大画面化の影響を受けて販売が伸び悩んでいると言われて久しい。確かに、日本で最初に発売された「iPhone 3G」はディスプレーサイズが3.5インチ、初代「iPad」が9.7インチと大きな差があったが、その後iPhoneのディスプレーサイズは大型化が進んでいる。実際「iPhone 8」は4.7インチ、「iPhone 8 Plus」は5.5インチ、そして「iPhone X」では5.8インチにまで達しており、iPadとの差が大幅に縮まっている。

スマホのディスプレーサイズは年々拡大の一途をたどっており、「iPhone 8 Plus」のディスプレーサイズは5.5インチにも達している

スマホ大画面化の影響は、iPadの販売にも大きく影響している。アップルの決算発表資料を見ると、iPadの販売台数は2013年の7103万台をピークとして年々減少しており、2016年は4559万台にまで落ちている。一方、iPhoneの販売は2016年に落ち込んだが、iPadに比べれば堅調だ。iPadの販売低迷がアップルにとっては大きな悩みであることが理解できる。

iPhoneとiPadの販売台数の推移(出典:アップルの決算資料)

販売数を伸ばすだけなら、ライバルのAndroidタブレットのように、利益率が低い低価格モデルを投入するという方法もある。だがアップルは全てのデバイスにおいて、高額ながらも高い付加価値を付けることで魅力を高め、販売を拡大する方針であることから、そうした戦術をとることは考えられない。それゆえアップルは、スマホの大画面化によって位置付けが曖昧になってきたiPadの位置付け自体を変えることにより、販売を伸ばす戦略に打って出たわけだ。

Surface対抗の意味合いも

そしてもう1つの理由は、タブレット市場におけるマイクロソフトの台頭である。マイクロソフトはタブレットとしても、キーボードを装着してノートパソコンとしても使える、Windowsを搭載した2in1デバイス「Surface」シリーズを2012年より投入してヒットを記録。これを機として他のパソコンメーカーも、2in1スタイルのWindowsパソコンに力を入れるようになった。

マイクロソフトの「Surface」シリーズのヒットにより2in1スタイルのWindowsパソコンが急増。ビジネスに使えるタブレットという新たな市場を切り開くこととなった

その結果、2in1パソコンがビジネス利用もできるタブレットという新しい市場を開拓し、パソコンだけでなく、タブレットとしても存在感を高めるようになってきた。そこでアップルも、iPadの販売を伸ばしSufraceに市場を侵食されないためには、ビジネスでの利用を強化する必要があると判断。iPad Proシリーズを強化することで、Surfaceが獲得しているビジネスニーズを奪う戦略に打って出たといえる。

もちろん、アップルにはビジネスやクリエーティブ用途に活用するパソコン「Mac」シリーズが既に存在している。そしてOSの違いやタッチ操作の有無などがあるとはいえ、iPad Proの12.9インチモデルなどは、12インチのMacBookと重複するラインアップにも見える。だがアップルは、iPadの販売低迷を止めるためには、多少の重複があってもパソコンに近づける必要があると判断し、現在の戦略を貫くに至ったといえそうだ。

そうしたアップルの戦略を見るに、iOSに関しても今後は、iPad独自の機能や、iPadで使いやすい機能を急速に増えていくものと考えられそうだ。しかしながら一方で、同じOSで複数のデバイスに向けた機能が用意されることは、これまで共通してきたiPhoneとiPadとの操作性を大きく変え、分断をもたらすことにもつながりかねない。双方の操作性を維持したまま、異なる進化をうまく進められるかが、アップルにとって大きな課題になってくるだろう。

佐野正弘
福島県出身、東北工業大学卒。エンジニアとしてデジタルコンテンツの開発を手がけた後、携帯電話・モバイル専門のライターに転身。現在では業界動向からカルチャーに至るまで、携帯電話に関連した幅広い分野の執筆を手がける。
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