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工事請負契約書、ここをチェック 安易に押印しないで 弁護士 柴田亮子

2017/10/25

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子供が来年、小学校に入学するのを機に、両親が所有する都内の土地に戸建ての住宅を建てることにしました。地元の施工業者に設計からお願いし、プランと予算が決まり、いざ契約という段階です。先日、施工業者から簡単な説明を受け、工事請負契約書を渡されました。「次回までに署名と印をお願いします」と言われましたが、よくわからないままに印を押してしまっていいのか、高い買い物なだけに心配です。

■建築主と施工業者の約束を文書に

そもそも工事請負契約書とはどんなものなのか、順を追って説明しましょう。

工事請負契約書とは、こういう家を建てたいという注文者(建築主)と請負者(施工業者)との約束を文書にしたものです。このため請負契約書と添付書類で、どんな家を建てる約束をしたのかがはっきりわかることが大切です。通常は請負契約書の冒頭に「工事請負契約約款、設計図書(設計図○枚、仕様書○冊、現場説明書○枚、質問回答書○枚)、見積書に基づいて工事契約を締結する」といった記載があり、添付書類の種類が書いてあります。まず、それらの添付書類がそろっているか確認することが大切です。

工事請負契約約款は、契約書に記載できない取り決めを記載しています。工期が延長してしまったり、当初の約束通りの家ではなかったりといった、トラブルが生じたときの対応方法についても記載があります。工事請負約款には「民間連合協定工事請負契約約款」「住宅金融支援機構契約約款」「住宅建築工事請負契約約款(日弁連)」などがありますが、ハウスメーカーの場合はメーカー独自の約款が使用されていることが多くあります。

ここからは、工事請負契約をめぐるトラブル事例と対処方法についてQ&A形式で解説します。

■トラブル事例1:システムキッチンの仕様が違う
Q 引き渡された家に備え付けられたシステムキッチンが、施工業者と一緒に選んだものと違うような気がします。どのように確認したらいいのでしょうか。
A 仕様書が請負契約書に添付されていませんか。仕様書と見積書にシステムキッチンのメーカー、品番の記載がありますので、実際に入っているシステムキッチンのメーカー、品番と合っているか確認してください。分からなければ、現場監督や設計者、工事監理者に問い合わせてください。
■トラブル事例2:コンセントが足りない
Q 家が完成し引き渡しを受けたのですが、ベッド横に予定していたコンセントがありません。
A コンセントの記載は設計図面にあります。ベッドの横にあるかどうか確認してください。また、見積書のコンセントの数はどうなっていますか。設計図と見積書記載のコンセントの数と引き渡しを受けた家のコンセントの数が違っている場合、施工業者にコンセントを増やすように請求する、あるいはコンセント分の減額請求が可能となります。

【解説】 設計図書というと、設計図にばかり目が行きますが、仕様書も重要です。どんな家を建てる約束かということは、設計図をみるとおおよそわかりますが、それだけでは足りません。仕様書とは、工事範囲や使用する構造などの強度や内外装の仕上げ方法、使用する材料の種類と品番、住宅機器の名称と品番などが記載されている重要なものです。仕様書記載の建材の品番と異なる材料が使用されている場合には施工業者の責任を追及できます。

見積書も請負契約書記載の請負代金の内訳というだけの意味にとどまりません。見積書には単価と数量の記載があり、例えばどのような材種の柱を何本使用するのかがわかります。「一式」としか書かれていない見積書は要注意です。つまり、設計図、仕様書、見積書がそろってはじめてどんな家を建てる約束なのかがわかることになります。

施工業者によっては簡単な図面を作製して請負契約を締結し、その後詳細な設計を経て着工する場合もあります。そのような場合、工事請負契約締結時に詳細な設計図と仕様書がないことになります。つまり、どんな家を建てるのかというところが曖昧なままに大きな金額の契約を締結することにもなりかねません。

請負契約を結んだ後、着工してからも設計が変更されることはよくあることです。しかし当初の設計が明確でないと、それが変更にあたるのか、変更によって金額が変わるのかもはっきりしません。請負契約を締結したときに契約書以外に必要書類がしっかり添付されていることがトラブルが発生したときに自身を守る盾となります。また契約締結後のプランの変更については、その都度、変更にあたり増減額がどうなるかを確認し、了解した場合は文書で取り交わすことが必要です。

■代金の支払い方法と引き渡し日が重要

ところで、請負契約書を読む際、どういった点に注意すればよいのでしょうか。重要なのは代金の支払い方法と引き渡し日です。請負代金の支払いは通常、分割払いになっています。契約当初に大部分の支払いを済ませるような分割払いとなっている場合は、契約解除する場合や施工者が万一破産した場合には、出来高を超えて支払ってしまった金銭の取り戻しは難航します。この点について社団法人住宅生産団体連合会では3回分割の場合は「契約時2割、上棟時5割、完成時3割」、5回分割の場合は「契約時1割、着工時2割、上棟時3割、内装着手時2割、完成時2割」を推奨しています。過剰な前払いにならないよう出来高に合わせて支払うことが大切です。

また引き渡し日についても、今回の相談事例では小学校入学前に引き渡しが受けられるかどうかという点で重要です。工事期間中、仮住まいをする場合にはその費用もかかるので、約款で引き渡しが遅れた場合の違約金についても確認しておいてください。

■トラブル事例3:注文した建物と違うのではないか?
Q 実際に建物が建ってくると、壁の材料が違うのではないか、設備の品番が違うのではないか、こんな細い梁(はり)で大丈夫なのかなど、気になるところがでてきました。誰に相談したらいいのでしょうか。
A 請負契約書または建築確認申請書に工事監理者が記載されていませんか。工事監理者は工事を設計図書と照合し、確認するプロです。このため設計や打ち合わせに対する疑問点は、まずは設計者、工事監理者に聞くことが肝要です。工事監理者がわからなければ現場監督や施工会社に問い合わせましょう。

【解説】 請負契約書に必要な書類が全て添付されていたとしても、専門家でないと建ち上がってくる家と設計図書などとの違いがわかりません。万一、設計図書と違えば、工事中であれば直してもらうように言わなければなりませんし、引き渡し後であっても補修させる、またはお金での解決を検討しなければなりません。いずれにせよ、設計図書と違うのかどうか判断するのは専門家でないと困難です。

家を建てる際、都市計画のない区域やよほど小規模な家でない限り、建築士の資格をもった工事監理者が必要とされます。工事監理者は、主に工事と設計図書とを照合し、設計図書どおりに建築されているかどうか確認する業務を担っています。工事監理がしっかりしていると、設計図書と違う家が建つリスクは減るといえます。逆に、工事監理者が施工業者の社員であったりすると、監理が甘くなることもあるので注意が必要です。

■瑕疵担保の期間に注意

「工事請負契約約款」を読む際にも細心の注意が必要です。これは大量の取引を迅速に処理するために、あらかじめ契約内容を定型化し画一化したものです。これも契約内容となるので、細かい字で書いてあっても重要です。

気を付ける項目は、瑕疵(かし)担保期間です。建物に瑕疵(欠陥)があった場合、瑕疵担保期間の間は、請負人に責任追及することが可能です。また、瑕疵担保期間は「引き渡し後○年」などと定められていることが多いため、引き渡し日を確定するために引き渡し時に引き渡し証などを取り交わすことをお勧めします。また、瑕疵担保期間が経過する前に引き渡された家を点検するのもいいでしょう。

■トラブル事例4:リビングのドアの開閉がしにくい
Q 年々、リビングのドアの開閉がしにくくなっています。これは瑕疵として、施工業者に補修請求できますか?
A 原因が経年劣化でなく、瑕疵担保期間中なら補修請求可能です。

【解説】 瑕疵があるとは、契約内容通りのものではない場合、つまり契約当事者が予定した性能を満たしていない場合や建築基準法などの法律に反する場合をいいます。

このトラブルの場合、まずはそれが経年劣化によるものか施工不良によるものか判断しなければなりません。施工不良とすると、何が原因かを特定する必要性があります。仕様書とは違うドアが施工されていたとか、基礎の地盤対策の不具合によって家自体が傾いていたことが原因かもしれません。それらの原因が瑕疵となります。瑕疵があった場合、瑕疵担保期間内であれば施工業者に対してドアの交換を求めたり、損害賠償請求したりすることができます。

■トラブル事例5:瑕疵担保期間は何年?
Q 引き渡しから4年がたったところで、床のタイルにひびが入っていることに気がつきました。工事請負契約約款には、瑕疵担保期間は2年とあります。施工業者に補修請求できますか?
A 床のタイルのひびの原因によっては補修請求できます。

【解説】約款では2年となっており、実際には引き渡しから4年経過しているので瑕疵担保責任を追及できないようにも見えます。確かに、仕様書と異なるドアが施工されていたということだけならば、施工業者に瑕疵担保責任を問うことは困難です。

しかし、住宅の品質確保の促進等に関する法律(品確法)では家の構造に問題があるとき(構造耐力上主要な部分に瑕疵があるとき)と、雨漏りがあるとき(雨水の浸入を防止する部分に瑕疵があるとき)については、施工業者は引き渡しから10年間は瑕疵担保責任を負うこととされています。つまり、契約書に瑕疵担保期間が2年とあっても、基礎に問題があって床のタイルにひびが発生した場合には、引き渡しから4年たっていても施工業者に瑕疵担保責任を追及できます。

瑕疵担保責任とアフターサービスとの違いもよく聞かれます。アフターサービスは法律により発生するものではなく、当事者の合意により発生します。アフターサービスの場合、瑕疵にあたらなくても、あるいは瑕疵がわからなくても、施工業者に補修等を請求できます。アフターサービスは瑕疵担保責任とは別物ですから、アフターサービス期間が経過したからといって、瑕疵担保責任も追及できなくなるということにはなりません。

■不明な点、専門家に相談を

最後にあらためて注意喚起します。工事請負契約は一生に何度もない大きな買い物の約束です。請負契約書と約款の記載事項だけではなく、添付書類(契約書、約款、設計図、仕様書、見積書)など確認するものはたくさんありますが、万一トラブルが発生したときに判断基準となるものが上記の書類となります。安易に押印せずに、書類に目を通し、分からないことはできれば第三者の専門家に相談することが自らの身を守ることとなります。

(監修 建築家 米田耕司)

■柴田亮子
東京工業大学卒業、キーストーン法律事務所所属。主に建築紛争(欠陥住宅、マンション紛争)を取り扱う。日本建築学会司法支援建築会議調査研究部会、同補修工事費見積検討小委員会オブザーバー、国分寺市建築審査会、同まちづくり委員会委員、中野区建築紛争調停委員会委員、調布市固定資産税評価審査委員会委員を歴任。東京地方裁判所家事調停委員も務め、家事事件も手がける。

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