ほとんどの場合、左右いずれかの神経に沿って痛みや発疹が表れることも帯状疱疹の特徴です。痛みに続いて帯状の発疹が片側だけに出たら、帯状疱疹を疑って皮膚科専門医にかかってください。
後遺症の神経痛が何年も続く場合も
――帯状疱疹の治療はどのように行うのですか。
治療の基本は、ファムシクロビル(商品名ファムビルほか)、バラシクロビル(商品名バルトレックスほか)などの抗ウイルス薬の点滴、あるいは内服です。ただし、現在使われている抗ウイルス薬は主に腎臓から排せつされるので、腎機能が低下しやすい高齢者に使う際は注意が必要です。薬の成分が腎臓で濃縮されて結晶化すれば、副作用として腎不全が起きかねないからです。腎機能によって用量を半分に減らすなど、調節しなければなりません。
2017年9月には、新たな抗ウイルス薬のアメナメビル(商品名アメナリーフ)が発売されました。腎臓ではなく肝臓で代謝されるのが特徴で、今までの薬と違って腎機能の低い人も用量を減らさず使うことができます。腎臓を心配しなくていいというのは大きなメリットで、使いやすい薬だろうと期待されています。
しかし、抗ウイルス薬を使ってウイルスの増殖が止まるのにかかる時間は約2日半。電車のブレーキをかけても瞬時に止まらないように、病気が少し進んでからようやく治まり始めるのです。そのため「薬を飲んで2日たってもまだ治らない、あの医者はヤブ医者だ」と話す人もいますが、それは医師の説明不足だと思われます。
――治療中に、生活上の注意はありますか。
帯状疱疹になるのは、疲れやストレスで免疫力が低下している証し。そんなときは安静あるのみです。抗ウイルス薬の投与期間は7日間なので、その間はゆっくり過ごしてください。
確実に安静を保てるよう、当院ではできる限り入院をお勧めしています。入院中は抗ウイルス薬の点滴を行いますが、仕事の都合で早く退院したい人は、退院と同時に内服薬に切り替えてもいいでしょう。内服薬でも十分な効果が得られます。
――帯状疱疹が進むとどうなりますか。後遺症が残ったりするのでしょうか。
帯状疱疹における最大の問題点は、「帯状疱疹後神経痛」という後遺症が残る恐れがあることです。これは帯状疱疹の発症から3カ月以降に表れる痛みで、長ければ10年以上、耐えられないほどの強い痛みが続きます。帯状疱疹後神経痛を起こしやすいのは、発疹がひどい人や高齢者、そして治療開始が遅れた場合です。神経がダメージを受けた後で薬を使うと、帯状疱疹後神経痛が出やすくなるので早期受診が大切です。
また、ラムゼイ・ハント症候群という、水痘・帯状疱疹ウイルスによって生じる顔面神経まひにも注意を要します。これは目と口の間、耳の穴周辺の「三叉神経第2枝」に症状が出た場合、高い確率で起こる後遺症です。「三叉神経第2枝」は顔面神経と接近しているので、顔面神経も巻き込んで炎症を起こすと、顔が歪むようなまひが数カ月続きます。多くはないもののまれでもない後遺症で、当院でも年に数例見られます。
50歳を過ぎたら「水痘ワクチン」
――帯状疱疹の原因がウイルスなら、予防接種で予防できるのではありませんか。
帯状疱疹にかかりやすいのは、免疫力が低下し始める50歳以降です(図3)。そのため、50歳を過ぎたら水ぼうそうのワクチン(水痘ワクチン)の接種をお勧めします。もともとこのワクチンは小児向けでしたが、2016年より50歳以上の成人に対しても帯状疱疹予防を目的としての適応が拡大されました。ワクチン接種により、加齢に伴って落ちてきた水痘・帯状疱疹ウイルスへの免疫力を再び高めることができます。小児に接種するだけあって安全性の高いワクチンで、自費診療となるので費用は1万円前後です。
ワクチン接種の効果について、ワクチンを接種した人のその後5年間の帯状疱疹の発症を、接種しなかった人と比べた報告があります。それによると、接種した人は帯状疱疹になる確率が半分に減っていました。帯状疱疹後神経痛については、ワクチンを接種すれば発症率を3分の1程度に減らせることも明らかになりました(図4)。
でも、残念ながら、50歳以上でこのワクチンを接種している人はごく少数にとどまるのが現状です。帯状疱疹のつらさを考えれば、50歳を過ぎたら全員がワクチンを接種するべきだと思いますが、まだ認知度は低いようです。今までは小児用の水痘ワクチンが不足することを懸念して制限されていましたが、最近はワクチンの供給が安定しています。今後は成人も積極的に接種することをお勧めします。

(ライター 田中美香)
[日経Gooday 2017年9月28日付記事を再構成]