MVの極意 「アーティストに少しだけ背伸びさせる」
映像作家 二宮大輔氏インタビュー
2017年上半期のYouTube国内音楽動画ランキングで8位となった、三代目J Soul Brothers from EXILE TRIBEの『HAPPY』や、三浦大知の『EXCITE』(19位)のミュージックビデオ(MV)を手掛けるのが映像作家の二宮大輔氏。エイベックスで経験を積み、現在はフリーで活躍している。欅坂46の平手友梨奈のソロ楽曲『渋谷からPARCOが消えた日』のミュージックビデオを例に、「アーティストに少しだけ背伸びをさせることが大事」と言う二宮氏。作品作りで大切にしていることを語ってくれた。
「エイベックスの映像制作部で働き始めた約15年前は、今の状況とは違って、ミュージックビデオの制作やアーティストのプロモーションに、ぜいたくに予算をかけることができた時代でした。海外での撮影や、空撮で何台もヘリコプターを飛ばすなんてことも当たり前でしたからね。1作品に億単位の予算が投入されることも珍しくなかったです。ただ、予算を多くかければいいというわけではなく、大事なのは『いかにして今まで見たことのない映像を作り上げるか』ということなんです。今もそれは僕の信念となっていて、なるべく実写の迫力ある映像にこだわり抜いて、ポイントでCGを使って作品のスケール感を出すことを考えています。
三代目の『HAPPY』も、実際に撮影した素材でほぼ固めていて、CGを使ったのは撮映許可が出なかった花火のみです。今作のコンセプトは、ゴージャスで華やかなファッションに彩られた1920年代の米国。それに合う家を見つけるため、LAにある豪邸トップ10はロケハンで行きました。大変だったのは季節。真冬だったのでカメラが止まる度にメンバーに加えて数百人のキャストにも毛布が配られていました。プールに入ることになった出演者の女性は最後まで嫌がっていたんですが、入ってみると実は温水プールで(笑)。あの空間で一番暖かい場所だったんです」
トータルで見渡せる視点も大事
「三浦大知さんの『EXCITE』は、三代目と違ってシンプル・イズ・ザ・ベストの作品。彼の今までの作品は有名ダンサーと一緒に踊るものが多かったので、あえて今回は大知さんに、その有名ダンサー役もやってもらおうと考えました。カメラのアングルを変えて何度も撮影もしたので、合計100回以上は踊ってもらったと思います。文句ひとつ言うことなく、さすがプロだなと思いました。
欅坂46の2ndシングル『世界には愛しかない』に収録された、平手友梨奈さんのソロ楽曲『渋谷からPARCOが消えた日』も撮影したんですが、彼女から出ていた大人の雰囲気というか肝っ玉の座り方を見て、衣装にスーツを選びました。僕の考えでは、ミュージックビデオの中ではアーティストに少しだけ背伸びをさせることが大事なんです。それがそのアーティストの今後の可能性につながっていくので。
CMの撮影と違い、プランナーやクリエイティブディレクターの役割も、ミュージックビデオの監督は兼ねる必要があるので、映像だけでなく、アーティスト自身をトータルで見渡せる視点も大事かもしれませんね」
(ライター 中桐基善)
[日経エンタテインメント! 2017年10月号の記事を再構成]
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