「おいなりさん」はすしではないのか? 江戸前の流儀
秋の運動会の食べ物(5)
「運動会は給食であった」という、個人的には予想もしない論点が登場した。小中学校時代を過ごした場所、時期によってこんなにも「子どものころの思い出」が違ってくるのかと改めて驚いている。いまの子は足袋なんか履いて走らないしなあ。
もうひとつ「いなり」問題についてです。小生の実家は江戸前のすし店でしたが「おいなりさん」はメニューにございませんでした。従って、小生の中では「おいなりさん」はすしではありません。なぜなら、うちの店にないから。
あの「なれずし」も「すし」がついていることから広義のすしと狭義のすしという分類にすることで、事態の収拾を図れば良いのではないでしょうか。
つまり、すしの仲間として広い意味ではおいなりさんはすし。でも、いわゆる江戸前の中には含めない。どうでしょうか?(かわら屋とたん@神奈川さん)
江戸末期に書かれた「守貞漫稿」に天保のころの江戸で「いなりずし」「篠田ずし」として売られていたとある。「おいなりさん」ではなかった。「すし」であった。戦前昭和の文学作品にも「いなりずし」が登場する。
私の中ではいなりはすしオブすしであるが、あれは甘味屋で売るものですしではないという向きがあっても怒らない。我慢しちゃる。
デスク 僕にはアウトオブすしだが、でも怒らない。我慢しちゃる。
アトランダムに行こう。
いつも聴いているラジオでも今日は運動会の話題でした。10 枚もの宅配ピザを頼んだ人がいて、子供たちに「ピザいる人!!」と声を掛けたら、われもわれもと奪い合いになり大騒ぎだったそうです。時代は変わりましたね(泉州住まい30年さん)
デスクううむ 我が剣道部が柔道部と結託、学校のそばの六本木にあった食べ放題ピザのお店を、食い倒して閉店に追い込んでしまった経験から言うと、ピザは運動後に食べるものです。食べ過ぎると胸焼けします。
そうそう、私もどこかで「運動会の宅配ピザ」の話を耳にして「時代はそこまで来たか」と深い感慨を抱いたことがあった。共働きで弁当を作る人がいないという事情もあるのだろう。そんなときこそお父さんが奮起しなくちゃ。
思い出といえば、世田谷で3年の時、母が祖母の看病のため実家に戻っていて、父が代わりに作ってくれたおにぎりでしょうか? いま思えば大人用のソフトボール大で(つまり3年生にとっては顔の半分くらい)とにかく何か入っていればいいんだろうと昆布だとか梅干とかが詰め込まれ、あぶっていない海苔1枚でくるんでありました。
友人たちはサイズに驚いていましたが、ポマードの匂いがぷんぷんして、子供心に「これを食べたらおなかを壊すんじゃないか」と思いつつ、空腹に負けて食べてしまいました。今となってはいい思い出ですが(ペン・ペンさん)
やっぱりお母さんでないとだめか。お母さーん。
持ってきたお弁当はピンクのでんぶののった「おいなりさん&甘い卵焼きとじっくり味のしみた椎茸などが入った太巻きずし」でした。おいなりさんの油揚げは自家製の大豆を豆腐屋に持って行き肉厚の揚げを作ってもらっていました。今ではお目にかかれないおいしい揚げでしたね。運動会の最後は輪になって「木曾節」を全校生徒に父兄も混ざって踊りました。(寅太の侍女さん)
お母さんのお弁当からはポマードのにおいがしないので安心なのである。
デスク 香水の香りがきつかったりして…。
野瀬 このお母さんは「ももの花」だったと思う。わかんない?
デスク ハンドクリーム!
私の母もほかのお母さんと一緒に、運動会で輪になって盆踊りみたいなことをしていた。母親たちだけでだいぶ練習したようである。白いブラウスに紺のスカートであった。まだ若かった母がむちゃくちゃ緊張していたこと思い出す。
親にはこんな参加の仕方もある。
朝早くから、お父さんたちは場所取りのために並び、門が開いた途端にビニールシートを持って校庭に走り込むという、お父さんたちによる本気の徒競走も恒例でした。
私の兄二人はいつもリレーの選手だったので、父はとにかく一番前の席を取るのに必死だったようです(毛蟹はデザートだったさん)
某鉄鋼会社の企業城下町だった室蘭。週末の運動会には鉄鋼マンのお父さんや専業主婦のお母さんたちが、わが子の勇姿を見ようと朝から大勢詰め掛けたことであろう。
開場と同時に繰り広げられるお父さんたちによる本気の徒競走は、地域の祝祭にふさわしい光景である。
たまたま担任の先生を見つけた母は、お弁当を入れた紙袋を先生に託しました。先生は私にそのでかい紙袋を渡しながらひとこと。「本当はお菓子はだめなのよ。学校で食べないでね」
あわてて中を確認すると、弁当とお茶の水筒とみかんが3つの上、ええ、袋を開ければ丸見えのところにスナック菓子の袋が2つ。家に帰って母に抗議すると、母はのたまいやがりました。「だって、運動会にはお菓子がなくちゃ」。田舎(信州の山奥・志賀高原のふもと)の運動会しか知らない母ってば…。
その日の弁当は特に普段と変わっていませんでした。そこまでするなら、おいなりさんぐらい入れやがれってんでい(さーたーあんだぎーさん)
いいお母さんじゃないですか。運動会の弁当にはお菓子ですよ。もっとも私の場合はお菓子じゃなくて栗であった。短い昼休みに暢気に栗の皮むいてる場合ではなかったが。
(特任編集委員 野瀬泰申)
[本稿は2000年11月から2010年3月まで掲載した「食べ物 新日本奇行」を基にしています]
ワークスタイルや暮らし・家計管理に役立つノウハウなどをまとめています。
※ NIKKEI STYLE は2023年にリニューアルしました。これまでに公開したコンテンツのほとんどは日経電子版などで引き続きご覧いただけます。