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日本の「礼服」は戦後生まれ 実は世界で通用しません 服飾史家、中野香織さんがひもとく「スーツをめぐる誤解と真実」

2017/10/12

 ビジネスマン向けにスーツの歴史や着こなし方を解説するセミナー「NIKKEI STYLE メンズファッションサロン」が9月下旬、東京・丸の内のイセタンサローネ メンズで開かれた。服飾史家で明治大学国際日本学部特任教授の中野香織さんが「スーツをめぐる誤解と真実」と題して講演、スーツや礼服をきちんと着こなすために知っておきたい知識を解説した。中野さんの講演から抜粋して、一問一答形式で紹介する。




Q:日本のフォーマルは世界に通用しますか。

A:日本のフォーマルは、西洋で正装の形式ができあがった過程とは関わりなく日本独自でできあがったスタイルです。世界では通用しません。戦後復興期にアパレル老舗企業のカインドウェア(東京・千代田)が提唱しました。黒い略礼服を1着あつらえて、喪には黒いタイ、婚礼には白いタイを着用すれば便利だという発想から生まれたのです。貧しくて生活にゆとりのない時代だったこともあり、広く普及しました。

 一方、西洋でスーツが誕生したのは17世紀の英国です。国王チャールズ2世が「衣服改革宣言」を行いました。長袖上着、上着の下に着用する下衣、ベスト、シャツ、タイで構成するシステムを「スーツ」と呼んだのです。それ以前の上流階級は全身をリボンとレースで飾りたてるなど華美な装いが一般的でした。当時、ペスト流行やロンドン大火など災厄が相次いだことから、高価な布地を部分にのみ用いるベストを含めたスーツのスタイルを決めることで倹約を進める意味がありました。

■産業革命がドレスコードを生んだ

Q:ドレスコードはなぜ生まれたのですか。

スーツ姿で講演した中野香織さん

A:西洋で19世紀中葉に「ラウンジスーツ」が誕生しました。腰の部分を絞る「ダーツ」のない、ラウンジでくつろぐための着心地のいい服です。これは同時に生まれたドレスコードの副産物でした。ドレスコードは産業革命の進行に伴う中産階級の台頭を背景に生まれました。

 貴族階級に混じって政治や経済の世界でリーダーシップを取るようになった彼らが、身分や資産に違いのある人たちと円滑にビジネスを進めるためにフォーマルウエアのルールが決まりました。ルールを守っていればビジネスの場では対等の立場として扱うという合理的な理由から、ドレスコードができあがったのです。

Q:フォーマルにふさわしくないポケットとは。

A:スーツの上着のポケットには衣服の上に貼り付けた形の「パッチポケット」、ポケット口にふたのついた「フラップポケット」、玉縁かがりがあしらわれた「ジェッティッドポケット」、ふたが斜めについた「ハッキングポケット」などがあります。フォーマルにふさわしくないのは、ふたのついたポケットです。ふたには雨水を防ぐ意味があります。つまり、もともとはアウトドアで着用する上着用のポケットなのです。

 同様に、ベント(切り込み)がついている上着もフォーマルに向いていません。中央に切れ目のある「センターベント」、両サイドにある「サイドベンツ」ともに、乗馬をするときに動きやすいという理由で付けられました。タキシードなどのフォーマルスーツではベントのない「ベントレス」が基本です。

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