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日韓サッカーW杯で料理店主に クロアチア誘致が転機

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NIKKEI STYLE

「スペインやポーランドだったら、全く違う人生になったでしょうね」

こう語るのは、日本で唯一のクロアチア料理店「ドブロ」(東京・京橋)を経営する川崎幸樹さん。どういうことか。

実は川崎さん、2003年に「ドブロ」を開店する前は、一部上場企業のサラリーマンとして新潟県十日町市のリゾートホテルに出向し、やりがいのある仕事に充実した日々を送っていた。ちょうと2002年サッカーワールドカップ(W杯)の日韓共同開催を控え、十日町市と共同して出場国チームの事前キャンプ誘致に励んでいたという。

誘致活動が奏功し、まずスペインチームがキャンプ希望を表明、次いでポーランドチームが名乗りを上げた。ところが、抽選でこの2カ国のキャンプ地は韓国に決まってしまう。川崎さんたちが大いに失望していたところ、十日町市でのキャンプを決めてくれたのがクロアチアチームだった。川崎さんは、施設側の受け入れ責任者として、チーム受け入れ業務に奔走した。

事前に選手たちの食事のオーダーが入っても、どうやって作ったらいいのか分からない。食事だけでなく、生活、社会の習慣さえも含め、そもそもクロアチアという国についてまるで知らなかった。その分、大変な仕事だったが、やり遂げた達成感は何物にも代えられないものだった。W杯日韓大会が終わると、そんな川崎さんに、休暇のご褒美。

「旅行することにしてどこに行こうかと考えたが、これも何かの縁だろう」(川崎さん)とクロアチアに決めた。行ってみると、現地でサッカー関係者らから熱烈な歓迎を受ける。彼らと親しく過ごしているうち、飲み会の席で「脱サラしてそば屋でも開こうか」と冗談のつもりで言ったところ、「やるなら、日本にはないクロアチア料理店だろう」と返された。サッカーで築いた絆から、「シェフを紹介するよ」「レシピも教えてあげる」と関係者が次々と応援に名乗りを上げたという。

アドリア海を挟んだ向こう側はイタリア。同じ地中海気候で、食材や料理もイタリアに似たものが多く、イタリア料理は日本人に広く受け入れられていることから、クロアチア料理も日本人の好みに合うだろうという予感もあって、川崎さんは1年たらずでクロアチア料理店を開業してしまったのだ。

スペインチームがキャンプに来ていたら、川崎さんは脱サラしてスペイン料理店を開いていただろうか。スペイン料理はすでに日本人にとってはなじみがあるし、スペイン料理店も数多くある。おそらく、川崎さんはスペインチーム受け入れにはクロアチアほどの苦労はせず、それゆえスペイン料理店開業にまでは至らなかったのではないか。

こうして川崎さんがクロアチア料理店を開業すると、大使館の関係者が来店したり、どこの国の料理か知らず、たまたま入って興味を持った客に対して、クロアチア旅行の世話をするなど、自然と親善大使的な役割を果たすようになったという。そして、さらに縁は深まる。

2006年のサッカーW杯ドイツ大会では、日本はクロアチアと奇しくも同じグループになり、日本の対戦相手国ということでクロアチアという国に対するメディアでの関心が一挙に高まったのだ。なじみのない国についてメディアが取り上げようとするとき、その国の料理のレストランを探すのが常とう手段。「大会2カ月前から取材が途切れることなく、試合当日は店にスクリーンを設置してみんなで観戦し、その様子が多くのメディアで報じられたのです」(川崎さん)。

今や、クロアチア料理店「ドブロ」と川崎さんは、日本におけるクロアチアの民間交流の拠点となっている。その川崎さんに、クロアチア料理の特徴について尋ねてみた。「よく聞かれる質問です。でも、ずばり一つを挙げることはできないのです」という。

というのも、旧ユーゴースラビアのクロアチアは、政治や宗教、民族の関係から、逆L字型で周辺国と入り組んだ奇妙な地形で分離独立した。内陸部と沿岸部とでは、気候も食文化も全く違う。内陸部は肉食が中心、首都のザグレブでも日常的にはほとんど魚は食べないそう。たまに週末に食べたとしても、干しダラくらい。一方、沿岸部はイタリアと同じようにシーフードが豊富だ。さらに、東側はトルコの影響を、西側はハンガリーの影響などを受けている。

例えば、バルカン半島の内陸部でよく食べられている「チェバビ」。ミニハンバーグやフィンガーハンバーグともいい、見かけは確かに、ハンバーグを細く切ったもののよう。トルコの影響を受けるなど、普通のハンバーグよりも香ばしい。手軽に食べられるので、「チェバビ」をバンズにはさんでハンバーガーのようにして食べるファストフード店も各地にあるという。

それでも、敢えて川崎さんに、クロアチアの特徴ある料理をいくつか挙げてもらい、「ドブロ」で作ってもらった。一品目は、「サルマ」というロールキャベツによく似た料理。だが、味は日本で食べるそれとは、かなり違う。3週間ほど発酵させたキャベツを使い、酸味が効いている。

驚くことに、つけあわせのマッシュポテトといっしょに「ぐちゃぐちゃに」あえて食べるのがクロアチア流だという。最初はびっくりしたが、初めて韓国料理のビビンパを食べたときのことを思い出した。日本では丼もののご飯を混ぜて食べることはしないが、ビビンパは混ぜることによってゴマ油が全体になじんでおいしさが増す、「サルマ」もそのままで食べるとなんだかそっけない味だったが、思い切って混ぜて食べてみると、コクが広がってなんとも言えないおいしさが口の中にじわっと広がった。

「サルマ」は日本でいえば、肉じゃがのような庶民の料理で、各家庭ごとに「お袋の味」を出している。「ドブロ」では通年で提供しているが、クロアチアでは秋の味覚だという。これから厳しい冬を迎えるにあたり、キャベツの漬け物をたくさんつくり、備えるのだという。

「ドブロ」でつくってもらった2品目は、イタリア料理のラザニアのような「シュトゥルクリ」。平たいパスタにフレッシュチーズを重ね、折り畳んでいく。横長の塊になったら、それを縦に切り、オーブンで焼いたり、ゆでたり。それだけだと、何とも淡泊な味で物足りないので、スープに入れたり、ソースをかけたりする。すると、まるでラザニアのようになる。パプリカのクリームソースをかけて提供している「ドブロ」では、リピート率ナンバーワンの人気メニューだという。

クロアチア人は生魚はまず食べない。ただし、例外が2つ。本マグロとカキだ。本マグロは畜養が盛んなため。生といっても、クロアチア人の本マグロの食べ方は、カルパッチョ。「ドブロ」でつくってもらった3品目は、クロアチア産の本マグロを使った「マグロのカツレツ レア仕込み」。本マグロの「刺し身」の味わいを残しつつ、表面にパン粉を軽くまぶして炙り、カツレツ風にしたもの。いかにも、日本人の口に合いそうだ。

さて、その川崎さんが一番気に入っているというクロアチア料理がペカ。ペカは正確に言えば料理名ではなく、鉄鍋の中に食材を入れ、蓋をし、その上に炭を置き、何時間もほおっておくことで鍋の中の具材を蒸すという調理法のこと。内陸地方では肉類を、沿岸部では魚介類を入れる。川崎さんのお薦めの具材はタコ。ジャガイモにタコのだしがしみ込んだ味がたまらないのだという。

ペカは、屋外の大掛かりな設備が必要であるうえ、調理に何時間もかかることから、もっぱら週末にバーベキューなどで楽しむものとのこと。あまり外食で食べるものではないらしい。そんなことで「ドブロ」でもメニューにはない。日本で唯一のクロアチア料理店でも提供しないのに、その店主は一番好きなクロアチア料理だという。ならば、クロアチアに行って、現地で食べるしかない。

しかも、具材はタコなので、沿岸部だ。クロアチア中部の世界遺産の街、スプリットからカタマラン(双胴船)に乗って人気のリゾートアイランド、フヴァル島に渡った。上記の理由から「レストランにいきなり行っても食べられませんよ。予約して行ってくださいね」と川崎さんのアドバイスを受け、2泊予定の民宿のオーナーに事前にリクエストしてみた。「心配ない、来たら手配するから」と返されたものの、やや不安。行ってみると、「今夜はだめだけど、明日の夜、友人のビーチレストランが用意してくれるって」。

鉄鍋から大皿にあけると、タコが丸々2匹。ジャガイモ、ニンジン、ズッキーニがごろごろ入っている。野菜には、タコのだしがしみ込んでいる。うーん、これはおいしい。えーっと何かに似ている。そうだ、おでんだ。まさかしょうゆは使っていないだろうけど、ほのかな薄口しょうゆ味がする。日本だったら、白いご飯を入れておじやにしたいところだったが、付け合わせのパンに汁をすべて吸わせてたいらげ、これまた満足。

タコのペカはとても完食できる量ではなかったので、民宿に持ち帰り冷蔵庫に入れたところ、翌朝、なんと煮こごりになっていて、びっくり。やはり白飯がなかったのは残念だったが、パンに載せておいしい朝食を味わった。うまみがぎゅっとゼリーにつまった煮こごりのおいしさは、クロアチア人でも知らないのではないか。

川崎さんの言った通り、沿岸部の街では、魚介類が豊富で、まずはハズレがなかった。手長エビ、ムール貝、タコ、イカ、サバ、サーモンなど、いろいろ入っている。これも、なつかしい薄口しょうゆ味。

もう一つ、川崎さんは「ドブロ」では食べられないクロアチアの宝を教えてくれた。メレンゲのようなふわっとしたカスタードクリームをサクサクのパイ生地ではさんだ「クレムシュニテ」。ザッハトルテなどウィーン菓子の流れを組むクロアチアのスイーツだ。

クロアチアを代表するスイーツではあるが、首都のザグレブでも本物にはほとんどお目にかかれないという。というのも、「クレムシュニテ」は本来、出来立ての温かいもものを食べるもの。ザグレブのレストランでもメニューにあることはあるが、出来立ての温かい「クレムシュニテ」ではなく、コールドチェーンで配送された冷たいケーキと化している。

「クレムシュニテ」の本物を食べるには、このスイーツが名物の、ザグレブから20キロほど離れたサモボルという小さな町に行かなければならないという。やはり、これも行くしかない。ザグレブの中央バスターミナルからバスに乗ること40分。あいにくの雨で人もまばらだったが、入ったカフェレストランではどの席もみな、「クレムシュニテ」を食べている。そして、しばらくすると会計の際に、袋の包みを受け取っている。なるほど、遠くからわざわざこの町に来て「クレムシュニテ」を食べ、お土産にも買っているのだと分かった。

日本で食べる洋菓子より一回り大きく、一瞬こんなに食べられるかなと思いきや、ふわっと軽い食感に、ぺろっと食べられた。ウィーン菓子よりも甘さ控えめで、素朴な味わいが印象的だった。わざわざ行って食べる価値はあまりある。

(中野栄子)

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