
安倍晋三首相は、国難を突破するという理由で衆院を解散した。不意を突かれた野党は、希望の党を中心に政権奪取に躍起となっている。しかしながら、国民の将来への漠然たる不安は解消できないであろう。
日本人の生活は1980年代のバブル期と比べても恵まれているが、豊かさの実感が乏しく、将来において慢性的な不安を抱えている。つまり、社会は「心のデフレ」を病んでいるのだ。
この心のデフレの打破なくしては、むしろ物価上昇を目標とする日銀の金融緩和は日本人の生活にとって負の要素になる。物価が上昇すると、相対的に価値が下がる現金を大量に保有している国民が圧倒的に多いからだ。
お金を使わず抱える込む日本人
日本人はお金好きである。日銀の資金循環統計によると、2017年6月末の時点で日本の家計が保有している金融資産は約1830兆円で、うち半分以上の944兆円が現預金だ。日銀がマイナス金利政策に踏み切ったことを背景に、16年3月末と比べても現預金は33兆円も増えている。
経済合理性の観点では、これは本来おかしなことだ。仮に日銀が2%の物価目標を達成し、それが20年間続いたとしよう。金利をゼロとして計算すると、1万円の価値は20年後に実質的に6676円に目減りする。目に見える額面は1万円のままであるが、物価高によって購買力は3分の2に低下していることになるのだ。
こうした状況では現金を手放して他の資産へと変えた方がいいに決まっている。モノやサービスなど消費に回してもいい。お金が循環することによって経済が活性化され、デフレから脱却できる。寄付でもいい。寄付先はそのお金を社会課題の解決に使ってくれる。
しかしながら、ほとんどの国民は経済合理性に従って行動をしていない。賢い国民は日本がインフレになるわけがないと信じているのかもしれない。日本の人口が減るということは国内需要が減るということだ。供給の調整がなければ、モノやサービスの価格は常に安い方向へと引き寄せられてしまう。日本経済がこうした構造問題を抱えているのも事実だろう。実際、日銀は物価の押し上げに苦労している。
成長する世界に視野を広げる
確かに、国内だけしか眼中にない場合はそうかもしれない。これから人口が減り続ける日本は経済成長が乏しいデフレ社会しか見えないであろう。将来的な不安が消えないのも道理だ。ただ、視野を世界へ広げると異なる風景が見えてくる。