エコなのにおしゃれ 再生原料が最新ファッションに
宮田理江のおしゃれレッスン
ファッションの世界で「エシカル(倫理的)」な装いを選ぶ人が増えてきました。生産地の支援やフェアトレード(公正な貿易)などさまざまな取り組みがある中、一般消費者に最も身近なのはリサイクルでしょう。洋服関連のリサイクルというと「古着」のイメージが強いのですが、実は技術とデザインの両面で近年は格段の進歩が見られます。
H&M、リサイクルに先進的取り組み
ペットボトルを原料とするリサイクル繊維を使って服を作る試みとしては、ワイシャツや作業着、フリース(起毛素材)などが知られています。でも、全体として実用的な服が主流で、いわゆる「おしゃれ」な服では採用が進んでいないところがあります。ところが、世界的なアパレル大手のH&Mはリサイクルに積極的で、サステイナブル志向を柱に据えたコレクション「コンシャス・エクスクルーシヴ」を設けているほどです。
トレンド感の高い服を提案することで知られるH&Mだけに、今年発表された同コレクションの服にもモードの「今」が感じられます。甘く見えがちな花柄を黒系の色で落ち着かせるダークフラワーのトレンドを写し込んだワンピースはさまざまなシーンで使えそうです。
このワンピースは、海洋投棄されたプラスチックをリサイクルした素材で仕立てられています。実用本位と見られがちだったリサイクル素材にモード感を注ぎ込んだ点で画期的です。社会貢献に前向きなスーパーモデルのナタリア・ヴォディアノヴァさんを起用した本格的キャンペーンも、リサイクルウエアでは異例と呼べるでしょう。
布を躍らせたり垂らしたりする演出は近ごろの目立った傾向です。ラッフル(大きいフリル)をあちこちで弾ませたワンピースには優美さとポジティブ感が同居。地色のイエローは次のトレンドカラーとみられています。肩を出す「ベアショルダー」にも今のおしゃれ気分が感じられます。こちらも同じリサイクル素材の製品です。
性別にとらわれない「ジェンダーレス」はファッション界の大きなうねりとなりつつあります。大ぶりの張り出しポケットを備えたジャケットはメンズテイストの薫るつくり。フェミニンを象徴する花柄や、きらめきを帯びた縞模様を配して、「強い女」ムードを醸し出しています。海に沈んだペットボトルが原料とはとても思えないような、トレンド感の高い仕上がりです。
「服から服へ」のリサイクル、技術開発で可能に
H&Mは技術面でもリサイクルの可能性を広げています。H&M ファウンデーション(非営利財団)を通じて資金協力している、香港繊維アパレル研究開発センター(HKRITA)と共同で、綿とポリエステルの混紡からそれぞれの繊維を分離する技術の開発にも成功しました。
これまで混紡は分離できなかったので、せっかく回収しても廃棄するか、そのままカーペット類に再生するしかなく、服地としての再利用の道が閉ざされていました。つまり、洋服をリサイクルすると繊維の質が落ちるので、洋服には作り替えることができなかったのです。でも、生物化学を応用した新技術のおかげで「服から服へ」の再生が可能になったわけです。
「サステイナブルであることは、お金をもっと払う必要があったり、デザインがナイスでないなど、あまりよいイメージがありませんが、その状況を変えたいと思っています」と、H&M ファウンデーションのプロジェクト・マネジャー、エリック・バン氏は語ります。見すえる将来像は「すべてのファッションの選択がサステイナブルである仕組み」です。HKRITA代表のエドウィン・ケー氏は「衣服の質を保ちながら、回数に限りのないリサイクル」を目指したといいます。さらに、食べ物の残りかすからポリエステルを作るような技術開発にも成功しているそうです。
一般的に、店頭持ち込みのリサイクルでは自社が過去に販売した商品だけを受け付けることが多いのですが、H&Mは自社商品か否かを問いません。回収された服から繊維を再生したジーンズやTシャツも販売しています。H&Mの全商品のうち、約20%にサステイナブルな素材が採用されているそうです(2015年時点)。同社はこの割合を高めていく方針で、「持続可能なファッション」の選択を消費者に提案しています。
エシカルな装いをブランド側が打ち出す背景には、消費者側のエコや人権などに関する意識の高まりがあります。どうせ着るのであれば、生産・流通のプロセスがクリーンで、地球にやさしい服を選びたい。そんな気持ちを抱く消費者の存在がエシカルファッションを盛り上げているようです。エシカルルックのよさは、まとっていても罪悪感を覚えず、むしろそういう選択をした自分を誇らしいという気分になれるところにもあります。
「病は気から」といいますが、おしゃれも本人の気の持ちようというところがあります。自分が納得して、自信や愛着を持っていれば、着姿も一段とさまになって見えるものです。そうした気分で過ごせる服は、その日の行動にもプラスの効果を与えます。エシカルファッションのよさは、自分を肯定する感覚をもたらしてくれる点にもありそうです。
[画像協力]H&M www.hm.com/
ファッションジャーナリスト、ファッションディレクター。多彩なメディアでランウェイリポートやトレンド情報、リアルトレンドを落とし込んだ着こなし解説などを発信。バイヤー、プレスなど業界での豊富な経験を生かした、「買う側・着る側の気持ち」に目配りした消費者目線での解説が好評。自らのTV通版ブランドもプロデュース。セミナーやイベント出演も多い。著書に「おしゃれの近道」「もっとおしゃれの近道」(学研パブリッシング)がある。公式サイト http://riemiyata.com/
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