先日、ある会合に参加しました。テーマは「禅とマインドフルネス」です。マインドフルネスは禅の瞑想法が起源で、米国で研究が進み、精神医療や企業の研修などに利用され始めています。米グーグルが社員研修に取り入れて有名になりました。米アップルの創業者の故スティーブ・ジョブズ氏も禅に影響を受けていたそうです。
リーマン・ショック以後、資本主義経済の行き詰まりを感じた海外の経営者から注目されている禅の価値観ですが、逆輸入のような形で最近になって日本のビジネスパーソンの間でも関心が高まっているようです。会合では臨済宗のお坊さんにお話をうかがい、投資家としていろいろ刺激を受けました。
投機という言葉は禅が由来
確かに、禅の世界の研ぎ澄まされた知恵を得ることは、現代を生きる私たちにとっても役立つように思います。投資家に馴染み深い言葉のなかにも、禅の言葉が由来となったものがあるのです。「投機」という言葉です。
投機は相場の短期的な値動きに注目した売買行動、という意味合いでよく使われます。「投機=ギャンブル」といったように世間ではあまりポジティブなイメージが持たれていない言葉かもしれませんが、本来は禅の言葉でした。
ちゃんと、辞書にも載っています。
1)利益・幸運を得ようとしてする行為 2)将来の価格の変動を予想して、現在の価格との差額を利得する目的で行われる商品や有価証券などの売買 3)禅宗で、修行者の機根が禅の真精神にかなうこと。師家の心と学人の心とが一致投合すること(小学館大辞泉より)
3)はなにやら難しいですよね。禅宗用語で「機」とは心の働きを指すそうです。悟りに至るには指導者である師家と弟子の機が重なり合う必要がありますが、その互いの心の作用が投機だそうです。これはいわゆる「禅問答」のことを指しています。
禅の世界では 「人が生きることはなんぞや」 「食べて食って寝ることだ」 「食べて食って寝ることとは何か」 「生存の本能です」 「生存の本能とは」 ――といったように師と弟子が無限のやりとりをしながら修行していきます。このように師と弟子が言葉(深い思索をへた珠玉の言葉)を交わしながら、だんだんと高みに達していきます。これこそが投機だそうです。
市場は参加者が問いを投げかけ合う
さて、この言葉がどうして相場用語として使われるようになったのでしょうか。それは相場もまた、「売り手と買い手の無限の問いかけ」であるということです。市場では「この株をこの値段で買いたい」「この株をこれで売りたい」という、さまざまな思惑を持った人がわーっと大勢集まって、「問答」していくことで価格が決定します。
つまり、市場参加者が問いを投げかけ合っていく過程が投機なのです。無数の売り買いの情報が結合したところで価格を形成していくということに対して、投機という言葉をあてた昔の日本人は天才だと思います。