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為替予想は「貿易収支」が基本 黒字国に通貨高圧力 すご腕為替ディーラーの至言(野村雅道氏)

2017/10/3

 解散・総選挙に湧く世間一般とは対照的に、外国為替市場の関心は相変わらず米国に向いている。安倍晋三首相が提唱した経済政策「アベノミクス」に新鮮味があり、貿易赤字が円安・株高をアシストした2012年末~13年とは違うと達観しているからだ。「すご腕為替ディーラーの至言」、今回はFX湘南投資グループ代表の野村雅道氏。野村氏は為替相場を読むうえで、反対売買が基本的に起こらない貿易取引などのアウトライト(買い切りと売り切り)に強いこだわりをもつ。

■為替予想は難しく考えない

 為替予想は難しく考える必要はないんです。買い切りと売り切りの流れを見ていればよい。各国の貿易収支と貿易相手国を定点観測し、傾向をきちんと判断できれば相場の方向性がおおむねわかると思います。例えば足元で貿易黒字国の日本の円には取引相手国である米国のドルなどに対して常に上昇圧力がかかるはずです。

 市場には12年終盤以降にしばらく続いた円安局面について「『アベノミクス』と13年春に始まった日銀による異次元の金融緩和策がきっかけとなった」との解説を多く聞きます。でも実際には11年3月の東日本大震災後に原発が相次いで停止し、代替エネルギーとして原油や天然ガスの輸入が増えたからではないでしょうか。アウトライトの円売り需要が積み上がり、アベノミクスをはやす取引が成功しやすくなっていたと考えるべきです。貿易収支が黒字転換すると次第に円安圧力は収まりました。

■金利重視の取引は「水もの」

 金利の低い国から高い国、成長力の大きい国に向かう投資マネーの流れはあるものの、野球の打線と同じで「水もの」です。国際紛争や金融危機などで市場が混乱すればすぐに止まり、お金の出所に戻っていきます。為替相場への影響はプラスマイナスゼロです。

 円を元手にした高金利通貨建て資産での運用(円キャリー取引)をやめろは言いませんが、日本と比べて少し高い程度の利回りだったら見送るべきだと思います。例えば08年のリーマン・ショックの前はオーストラリアの政策金利のピークが7%超、ニュージーランドは8%超も付いていたので、長期投資なら為替レートの変化はあまり気にしなくても大丈夫でした。一方、17年9月の時点ではそれぞれ1.50%と1.75%にとどまります。

 先進国だけでなくブラジルやロシア、インド、中国、南アフリカ(BRICS)などの主要新興国の経済もすっかり成熟し、ここから先は高成長や一段の金利上昇が望めなくなってきました。どの通貨も為替変動リスクはそこそこ大きいので、長期運用でもあまりメリットはないでしょう。

■高まる「円キャリー相続」のリスク

 20年ほど前に買った南アフリカの超長期国債は表面利回りが10%を超えていて、南ア・ランド相場の大幅な下落をものともせず極めて高い収益を得られました。高金利債の発行国には経済情勢に問題を抱える国が多く、時には債務不履行(デフォルト)に遭遇します。ただギリシャ危機に対して欧州連合(EU)や国際通貨基金(IMF)が積極支援に乗り出したように、それなりに存在感の大きい国だと国際機関や日米欧が償還や利息支払時に手をさしのべてくれたので、100%丸損の事態は確率としては高くはなかったのです。

 足元では08年のリーマン・ショック以降、日米欧の金融緩和マネーが新興市場にも向かった結果、国の信用リスクにそぐわない低金利をひんぱんに目にします。利回りが低いと為替変動の悪影響を十分に吸収できず、収益を生み出せない期間が長期化しかねません。中高年の個人投資家はそのまま相続財産になってしまう「円キャリー相続」の危険と背中合わせです。

■ディーラーはお人よしでは務まらない

 為替の世界に30年以上も身を置いてみてつくづく思うのはディーラーはお人よしでは務まらないということです。ディーラー間では自らの持ち高に有利な話(ポジショントーク)が飛び交い、メディアが流すファンダメンタルズ(経済の基礎的条件)に関わるニュースは後講釈の域を出ず、ヘッジファンドなどの投機筋の動きを誇張します。取引をする際にはこうした情報を疑ってかかる心構えが必要です。

 貿易ではドル建ての取引が多く、米市場では米企業の為替ニーズがさほど高まらないため、相対的には投機売買が目立つかもしれません。でも対米貿易が多い国の企業が母国市場でドルを売り買いすれば貿易収支に沿った基調に帰ります。投機マネーは割合短いスパンで回転売買を繰り返すだけで、そんなに恐れなくてもよいんです。

野村雅道

 1979年東大卒業後、東京銀行(現三菱東京UFJ銀行)入行。85年のプラザ合意時には本店の為替資金部でチーフディーラーを務める。87年に外資系金融機関に転じ、BNPパリバ銀行の東京支店を最後に銀行ディーラーを退いた。その後は定期的に外為証拠金(FX)業界向けの情報配信やセミナーの講師をこなす。

【記者の目】

 野村氏はFX草創期にあたる2006~07年にかけ、プロ野球球団のヤクルトなどで監督を務めた野村克也氏の「ID野球」になぞらえて「ID為替」を標榜し個人にデータの重要性を説いた。インターネット社会の到来でヘッジファンドの取引手法や資金規模が明らかになると、かつて正体不明の恐ろしさから「妖怪」との異名をとったファンドの影響力は後退。野村氏が常々唱えてきた、オーソドックスな貿易アウトライト重視の機運が戻っている。この間、個人に対し「ID為替」が果たした役割は大きい。

〔日経QUICKニュース(NQN) 編集委員 今晶〕

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