昔の番組ばかり見てしまいます
脚本家、大石静さん
昔懐かしいアニメやドラマばかり見ています。みんなテレビやスマホで最新の情報を仕入れているのに、自分は進歩がない気がします。最新の情報を知りたいとは思いますが、昔の番組の方が面白いと思ってできません。わたしはこのままで良いのでしょうか。(愛知県・30代・男性)
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昔のアニメやドラマは面白いです。私もそう思います。
ではなぜ、昔のものが面白いのか? その理由をあなたは考えたことがありますか?
理由はひとつ。昔のドラマには「毒」があったのです。
人物にも物語にも「毒」がありました。つまり、きれい事ではすまされない人間の心の闇にも踏み込んだものを、視聴者に提供しようとしていました。
しかし、バブルがはじけて不景気となり、テロが横行し、大きな災害に次々と襲われ、みんなテレビに明るさや癒やしを求める傾向になったと感じます。テレビはお気楽に、ながら見できてこその存在になりました。
さらに昨今、婚外の恋愛をまるで殺人のように裁く人が増え、常識や道徳の向こう側にある"やむなき想い"を認めなくなりました。それこそがドラマやアニメの原点なのにです。
創り手も視聴者のニーズに応えて、わかり易い共感と曖昧なやさしさを提供するようになっていきました。
お笑い芸人もアナーキーなギャグは控え、ニュースさえ情緒的な音楽に乗せて、「絆」というよくわからないものをうたい上げるようになって、テレビ全体が幼稚になったと私は感じています。
あなたはそのヌルさが嫌いなのでしょう。人間の「毒」を憶することなく描いていた時代のものが、あなたの胸を打つのでしょう。
素晴らしい感性をお持ちではないですか。
何も悩むことはないと思います。
新しいものだけが尊いわけではないのです。新しいものを受け入れなければ、遅れてしまうと恐れることもありません。
あなたは堂々と、ご自分の感性を信じて生きていらしたらいいと思います。
ただ、私のドラマも見ていただきたいな、とは思いました。私は私で今の時代に、人の心の「毒」を描こうと努力はしています。私だけでなくドラマにもアニメにも、そういう創り手は他にもいます。
そういう作品が、あなたのお目に留まればいいな、と思う気持ちはありますが、しかし、それはそれ。
あなたはあなたです!
[NIKKEIプラス1 2017年9月30日付]
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