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ハワイでも秋はサンマ 受け継ぐ味の記憶 早見優さん 食の履歴書

NIKKEIプラス1

2017/10/6

日本に生まれ、幼少期はグアム、ハワイで過ごす。1982年デビュー。代表作は「夏色のナンシー」(83年)など。90年上智大卒。最近は親子で英語に親しむCDをプロデュース。「Dining with the chef~Authentic Japanese Cooking~」(NHK WORLD)出演中。 吉川秀樹撮影

 南の島で過ごした子供時代、食卓はにぎやかで豊かだった。日本の旬の食材を意識した母、プロ顔負けの洋食を作ってくれた祖母。「食べること」を大切にした2人の味の記憶をたどるうち料理が趣味に。元祖バイリンガルアイドルは、和食も洋食もお手のものだ。

■料理好きの祖母と母

 3歳の時に両親が離婚。グアムで仕事を始める祖母に母とともに同行した。4年後にハワイに移住。母がツアー会社を立ち上げるためだった。

 父不在の寂しさは感じたことがない。「凜(りん)としてちょっと怖い祖母と、自由奔放で姉のような母。にぎやかな生活でしたね」。楽しさは食卓にもあふれていた。

 ヨーロッパ生まれで5カ国語を話す祖母は「ものすごく料理上手。トマトソース系が得意で、ラザニアとかチキンのカチャトーラが絶品」。母は日本育ちで和食担当だった。「日本人なのだから、ちゃんとした和食を食べないと」と白いご飯がいつも食卓に上がり、秋になると「日本で秋に食べる魚よ」とサンマが出てきた。ハワイのローカルフードといえば、グレービーソースをかけたハンバーグ丼「ロコモコ」が有名。でも「ハンバーグは大根おろしとぽん酢で食べていました」。

 おにぎり、空揚げ、卵焼き、と定番のおかずが詰まった母の弁当には、同級生が「おいしそう! これなあに?」と集まってきた。友達のランチはツナサンドとりんごなどがほとんど。母の手料理は彩りが美しい。2人の「食育」によって食べることに興味津々の娘に育っていった。

■アイドル時代、地方巡り支えたステーキサンド

 14歳のある日、母との買い物帰りに「写真を撮らせて」と、モデル事務所の女性から声がかかった。「モデルより歌が好き」と伝えたら、日本の事務所に写真が送られ、日本から再スカウトがきた。帰国してオーディションを受け、「あれよあれよという間にデビューが決まった」。

 アイドル全盛期の1980年代の中でも松本伊代さん、石川秀美さんら多くのアイドルを輩出した「花の82年組」。隙間のないスケジュールに寝る間も食事の時間も削られ、深夜に向かうのは焼肉店ばかり。「アイドル時代で何を覚えているかといえば、食生活が乏しかったということ」

 シングル発売→地方でプロモーション→レコーディング→地方、の繰り返し。「何か食べられれば幸せ。ひもを引くと温まる釜飯弁当がうれしかったのを覚えています」

 唯一の楽しみが一緒に住むようになった母の手料理だった。地方にでかける朝には、「これだけ食べて行きなさい」とステーキを焼き、食パン、バター、ソースでステーキサンドを作ってくれた。

 25歳のときに母が他界し、一人暮らしを始めた。当時はコンビニが少なく、レストランで1人で食事をするのも恥ずかしい。「母の味、おばあちゃんの味が恋しくて。自分で作ればその味に出合えると思ったのが料理に目覚めたきっかけ」

 小松菜と厚揚げのいため物、きんぴらと最初は数品。29歳で結婚してからは、レギュラー出演していた情報番組「はなまるマーケット」で登場したレシピを再現しては腕を磨き、おせち料理に挑戦するまでレパートリーを広げていった。

■「祖母のトマトソース」を娘にも

 忘れられない「父の味」もある。母亡き後、近くに引っ越してきた父が時折、作ってくれたチャーハンだ。ジャズシンガーだった父は静岡で中華料理店を経営していた。「固めにご飯をたくのがこだわり。ぱらぱらで本当においしくて、作り方を録画したのですが、テープをなくして残念。今でもまねできない」

 料理は「必要に迫られて作っていたのが、いつしか楽しみとなり、いまは苦になっている(笑)」。ほぼ毎日、夫、娘2人のために料理する。「家族が褒め上手で、乗せられちゃうんです」

 10年ほど前に始めたブログには総菜からパーティー料理、タイ料理までがずらりと並ぶ。料理自慢のタレントのブログが数多く存在していることに刺激され、「これからは盛りつけのレベルを上げたいですね」。誕生日に何がほしいかと家族に聞かれ、インスタグラム用の照明をリクエストした。

 料理番組出演を契機に、日本料理も探究中だ。「料理好きなのは、結局、食い意地がはっているから」。ラザニアを食べたいとこが「おばあちゃんの味!」と驚き、最近は娘から「ママのトマトソースの作り方教えて」とせがまれる。「味は3代」の言葉通り、祖母や母の味覚はしっかり受け継がれている。

■熟成肉の前にさっぱり

「BLOCKS」(東京・中目黒)の「生で食べるマッシュルームのサラダ」

 「肉が大好き」という早見さんが5年ほど通い詰めている、東京・中目黒の「BLOCKS」(電話03・5724・3461)。フレンチをベースにした鉄板レストランだ。熟成肉を堪能する前に、「必ずオーダーする前菜」が、「生で食べるマッシュルームのサラダ」(1600円)で、「おいしくて、すぐにレシピを教えていただき、家で作りました」。

 厚めにスライスしたマッシュルームをオリーブ油やレモン汁であえた、さっぱりした一皿。ポイントは新鮮で硬くしまったマッシュルームを使うことで、味がなじむように表面の皮をむいている。エシャロットとガーリックがほのかに香り、食感も楽しい。

 同店では家族で食事を楽しむほか、テークアウト用の肉を頼むこともあるそうだ。

■最後の晩餐

 祖母のトマト味のパスタです。トマト、にんにく、オリーブ油、塩コショウでシンプルに。1.6ミリのスパゲティーニが好みかな。子供のころ「おなかすいたー」と学校から帰ると、ぱぱっと作ってくれて。今でも疲れた時に無性に食べたくなるのはこの味。

(編集委員 松本和佳)

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