定年後の起業 立ち上げのコツは「ギブオンリー」から経済コラムニスト 大江英樹

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ビジネスというものは常に「ギブアンドテイク」という概念で成り立っています。取引は価値を等価で交換するのが基本ですから、どちらか一方にだけメリットがあるということであれば、取引そのものが成り立ちません。

最近では「ウィンウィン」という言葉もごく日常的に使われます。いずれもビジネスとして双方が満足する形でないと取引は永続しないということを示しています。

「ギブアンドテイク」は最初は無理

ところが、ビジネスをスタートした当初はギブアンドテイクは成り立ちません。考えてみれば当然です。品物やサービスを購入するときは、誰でも一定以上の評価があるから購入するわけです。新たにビジネスを始めた人が提供するサービスは誰も知りませんし、評価もしてくれません。取引が最初から成立するのは極めて難しいのです。

これは定年を迎えた後にビジネスを始める際にもいえることです。私もかつて定年後に起業したとき、昔のツテを頼ってあちこちに営業してみましたが、ほとんど仕事が来ることはありませんでした。

だとすれば、一体どうすればいいのか。答えはギブアンドテイクではなく当面は「ギブオンリー」でやるということです。

例えば、食品会社がその技術を使って医薬品部門に進出するというように、そこそこ名前の通った企業ですら、新しい分野に出ていくときにはそれなりの準備が必要です。試供品を配ったり、お試し期間を設けたりして自社の製品やサービスの品質を無料で体験してもらっています。まして、個人が商売を立ち上げるときに、最初から「ギブアンドテイク」などというのはとても無理です。

ただし、ギブオンリーというのは別に社会貢献とかボランティアという意味ではありません。あくまでも自分の能力と提供するサービスや商品の良さを知ってもらうための準備ということです。

私も起業して半年くらいの間はほとんど仕事らしい仕事がありませんでした。たまに仕事の依頼は来たものの、その多くは極めて報酬が低いか、場合によっては無償の仕事でした。

プロに対して無償で仕事を要求するというのは失礼な話ですが、こちらにもまだプロと言い切れるだけの自信はありませんでした。何もしないよりはたとえ報酬がほとんどなくてもやるべきだと考えて引き受けていったのですが、結果としてそこから次につながる仕事がいくつも出てきました。

報酬が低くても仕事は手を抜かず

ただし、こうした仕事を引き受けるにあたっては注意点が2つあります。1つ目は「ギブオンリーの仕事は絶対に手を抜いてはいけない」ということです。逆に思えるかもしれませんが、通常のギブアンドテイクの仕事の場合は、報酬に見合う分だけのレベルの仕事をすればいいわけですが、ギブオンリーの仕事は通常の仕事に比べて格段に手間暇をかけてやるべきなのです。ここがとても重要なポイントです。

ギブオンリーの仕事は、依頼先に満足してもらわなければ次の仕事はありません。いわば、採用試験のような意味合いがありますから、いくら報酬が少なくても最高のパフォーマンスを出すべきなのです。

2つ目は少し背伸びをするということです。自分にとっては少しハードルが高いかなと思われる仕事でも思い切って引き受けることが大切です。もちろん、はなからとても無理だと思えるような仕事を引き受けることは無責任ですが、少し頑張ればクリアできるものであれば、大いにチャレンジすべきでしょう。これを積み重ねていけば、着実に仕事のレベルアップにつながります。

「急がば回れ」でビジネスに取り組む

ギブオンリーの仕事は、自分でビジネスを立ち上げる上で何よりも大切な「人脈」をつくることにもつながります。それも単に名刺交換しただけの人脈ではなく、商品やサービスの内容を実際に体験して理解してくれた人です。味方になってくれれば強い人脈になることは間違いありません。

起業して少しでも早くテイク(収益化)したい気持ちはよくわかりますが、定年後の起業はギブオンリーで「急がば回れ」が最終的には近道になると思います。特に定年後に起業すれば、退職金や年金などももらえるわけですから、大がかりに事業展開しない限り、直ちに生活に困るということはありません。余裕を持ってビジネスに取り組んでください。

「定年楽園への扉」は隔週木曜更新です。次回は10月19日付の予定です。
大江英樹
野村証券で確定拠出年金加入者40万人以上の投資教育に携わる。退職後の2012年にオフィス・リベルタスを設立。著書に「定年男子 定年女子 45歳から始める「金持ち老後」入門!」(共著、日経BP)など。http://www.officelibertas.co.jp/
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