不動産・住宅ローン

転ばぬ先の不動産学

遺産が少ないと「争族」になりやすい そのカラクリは 不動産コンサルタント 田中歩

2017/10/4

PIXTA

「ウチはたいして財産がないので、相続でもめることはまずない」。このように話す人はとても多いのが実情です。一方、「財産がたくさんあるから相続でもめる」と思っている人も多いでしょう。しかし、財産が少ないほうが相続人同士がもめる「争族」となるケースが多いのです。

■遺産分割事件、5000万円以下が8割弱

全国の家庭裁判所に持ち込まれた遺産分割事件のうち、遺産額別の認容・調停成立件数(2015年)をみると、遺産額が1000万円以下の事件が全体の32%、5000万円以下が同44%で、約8割弱が遺産額5000万円以下の事件となっています。自宅の土地と建物に加え、多少の現金があれば遺産額が5000万円弱になることは珍しくないでしょうから、多くの人にとって「争族」は人ごとではないのです。

司法統計(2015年)から筆者作成

では、なぜ遺産額が少ないほうが「争族」となるケースが多いのでしょうか。相続税は遺産額が大きいほど税率も大きくなる仕組みですが、一定条件のもとで自宅や事業用の土地の評価額を8割減額できる特例があります。「小規模宅等の特例」といい、居住用の宅地は330平方メートル以下、事業用の宅地は400平方メートル以下といった条件を満たす必要があります。

■遺産額が少ないと「やる気」も出ない

ただし、特例の適用を受けるためには原則として、相続が発生してから10カ月以内の申告期限までに遺産分割協議が成立していることが必要です。つまり、税務署に申告する際、相続人同士が遺産分割について合意した遺産分割協議書と実印、印鑑証明書を申告書に添付して提出することが条件となっているのです。このため、相続人同士で遺産分割について合意しようというインセンティブが働きやすくなります。

しかし、遺産額が少ない場合、特に基礎控除額よりも少ないと、こうしたインセンティブが働きません。基礎控除額とは遺産額から差し引くことができる金額のことで、3000万円+600万円×相続人の数で計算します。例えば遺産額が4500万円で相続人が3人ならば、税金を計算する基となる課税対象額は0円となり、相続税は課されません。こうなると、相続人同士で調整し合おうというインセンティブは働かなくなります。

遺産額が少ない場合、主な相続財産は被相続人の自宅の土地と建物となることが多くなります。しかも、財産が少ないがゆえに「争族」になることはないと考えてしまい、遺言を書いていないケースも多いのです。相続人が複数いる場合は相続が発生した後、ひとつしかない自宅の土地と建物の分け方を協議しなければなりません。

■土地と建物を「分割」する4つの方法

分ける方法は4つあります。土地を物理的に分割する「現物分割」ができればよいのですが、小さな敷地だと分割が難しいケースも多いですし、建物を解体しなければならないという問題もあります。売却して得たお金を分ける「換価分割」は分割しやすい面はあるものの、被相続人と同居していた相続人がいるような場合、その相続人は住み続けたいと考えるので、換金したい別の相続人と対立してしまいます。

こうした問題に対応するために「代償分割」という方法があります。住み続けたいという相続人が土地と建物を承継する代わり、他の相続人に対して自身の現金やその他の資産などを支払うことで調整する方法です。しかし、この方法は承継する相続人に資力がなければ実現は困難です。

最後は「共有物分割」です。複数の相続人がひとつの不動産を共同で所有する方法です。一見すると円満解決できる方法に思えますが、売りたい人とそうでない人で対立しやすく、次に相続が発生すると共有者がさらに増え、処分や管理にかかる意思統一が一層、難しくなるという問題があります。

このように相続税がかからない程度の遺産額で、自宅が主要な相続財産という状況が重なると「争族」に発展する可能性が高まります。さらに、両親のうちどちらかがすでに他界している場合、精神的支柱となる親がいなくなり、兄弟姉妹での分割論争が激しくなるケースも散見されますので注意が必要です。

■生前から家族でコミュニケーション

相続が「争族」となってしまう原因はたくさんあります。同居していた相続人が親の現金を使い込んでしまったのではないか、という疑いからもめ始めてしまうケースもありますし、介護負担の有無や親からの支援の有無がきっかけとなってもめることもあります。

大切なことは、生前から家族でコミュケーションをしっかりとっておくこと。民法では「遺産の分割は、遺産に属する物または権利の種類および性質、各相続人の年齢、職業、心身の状態および生活の状況その他一切の事情を考慮してこれをする」としています。これは、なんでもかんでも「法定相続」にしなければならないということではなく、様々な事情と背景を斟酌(しんしゃく)し、公平に遺産を分割しようという「心」を示しているといわれています。そのためには、相続人同士がお互いの状況を理解し、思いやりを持つことがとにもかくにも大切です。財産をのこす親世代も同様で、子供たちがもめない公平なのこし方を家族でコミュニケーションを取りながら考えておくことが大事なのです。

「ウチは関係ない」。そう思っている人こそ、改めて相続について考えてみてほしいと思います。

田中歩
1991年三菱信託銀行(現・三菱UFJ信託銀行)入行。企業不動産・相続不動産コンサルティングなどを切り口に不動産売買・活用・ファイナンスなどの業務に17年間従事。その後独立し、ライフシミュレーション付き住宅購入サポート、ホームインスペクション(住宅診断)付き住宅売買コンサルティング仲介などを提供。2014年11月から個人向け不動産コンサルティング・ホームインスペクションなどのサービスを提供する「さくら事務所」に参画。

不動産・住宅ローン 新着記事

ALL CHANNEL