佐藤健 本広克行監督が見た、俳優としての「強さ」
現在28歳の佐藤健は、『るろうに剣心』で開花した圧倒的身体能力を生かしたアクションだけでなく、重厚な人間ドラマから恋愛もの、日常を切り取った等身大の若者まで、幅広い役柄にフィット。大作での主演が指定席となっている。彼が求められる理由はどこにあるのか。最新作『亜人』の本広克行監督は、役へのストイックな取り組みや、何でもやろうという前向きな姿勢を高く評価する。
思えば、『仮面ライダー』シリーズが「若手俳優の登竜門」として広く認識されようになったのは、2007年放送の『仮面ライダー電王』に主演した佐藤のその後の活躍があったからに他ならない。
画面での存在感、誰もが納得する演技、目に見える数字といった結果を残し続けてきたからこそ手にしたトップ俳優の地位。東宝の川村元気プロデューサーらヒットメーカーからの信頼も厚い佐藤は、映画『亜人』の後も、瀬々敬久監督(『64 ロクヨン』他)による感動実話ものの『8年越しの花嫁』、佐藤信介監督(『アイアムアヒーロー』他)によるアクション大作『いぬやしき』など3本の映画が待機。さらに18年4月のNHK朝ドラ『半分、青い』出演と引っ張りだこだ。
役者・佐藤健を「会ったことのないタイプ」と語るのは、映画『亜人』の本広克行監督だ。まず、特技のアクションについては、「ワイヤーは最初から完璧。ダンスをやっていたからか、運動神経だけでなく、平衡感覚がすごくいいんです。自らアクションをやる俳優さんといえば、V6の岡田(准一)さん、小栗旬さんですが、彼もすば抜けてすごい1人」
撮影時のたたずまいも独特だという。「男性俳優さんは、よく話をする女性的なタイプが多いんですが、彼は引いていて、全体を俯瞰(ふかん)しているんです。性格的にはすごく真面目。台本も読み込んできますが、現場では一切そういう姿は見せず、さらっとやる。とにかく作品を良くするためにめちゃめちゃ考えている印象です」
その一端が、『亜人』でテロリストの佐藤(綾野剛)との対決時に永井が全裸になるシーンだ。「最初、こちらからお願いするのをためらったのですが、『やりますよ、台本に書いてあるのだから』と言いに来てくれて。結果、撮影時にはバキバキに鍛えてありました」
自分の仕事を冷静に判断
佐藤の役へのストイックな取り組みは他の作品でも見て取れる。『ROOKIES』では原作マンガ同様ドレッドヘアに、一流料理人を演じた『天皇の料理番』では、手元のカットを含むすべての料理シーンに自ら挑んでいる。
「今回、共感しづらいキャラクターだったこと、またアクションチームがいたこともあって、役者さんとは内面的な芝居で向き合うことが多かったんです。健君はストイックですが、しっかりと話し合いもできるタイプ。みんなが彼とやりたがる理由が分かりました」と本広監督。
佐藤自身は、「役者が向いているか向いてないかは分からない」としながらも、「自分の強みを聞かれれば、作品の『勝算』が分かることかなと。例えば、作品の本質や、過去の成功作の理由を、今なら言語化できる」と言い切る。あくまで冷静に、しかし貪欲に作品に向かえるところが、佐藤の真価なのだろう。
人気者ゆえに周囲と比べられることもあるが、「同世代はあまり意識しない」(佐藤)といたってマイペース。「下の世代のほうが目につくかな。時代を感じたり(笑)。数年前、月9で菅田将暉君を見たときに絶対にくると思ったし、その後舞台で共演させてもらって、やっぱりいいなって」と、新たな才能について楽しそうに話す姿には余裕も感じられる。
「彼はコメディ、ラブストーリー、アクションと何でもできるし、最近は特に何でもやろうという前向きさも感じる」(本広監督)と評される佐藤。今後も自身の能力を最大限に高め、作品をヒットに導く原動力となりそうだ。
(ライター 山内涼子)
[日経エンタテインメント! 2017年10月号の記事を再構成]
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