佐藤健 「全ての作品が転機」と言い切る役選びの眼力
映画『るろうに剣心』3部作、ドラマ『天皇の料理番』などヒット作への出演が続き、20代男優のトップランナーとして走り続けている。その裏には「全ての作品が転機」と言い切るほど、作品や役を選ぶ際のしっかりしたポリシーがあった。最新作の『亜人』まで、役者として変わり続けてきた足跡を振り返ってくれた。
2006年の俳優デビューから、今年で12年目を迎えた佐藤健。07年、18歳のときに『仮面ライダー電王』に主演しその甘いルックスで一躍注目を集めると、以降テレビドラマに映画も制作された『ROOKIES』(08、09年)、時代劇初挑戦となったNHK大河ドラマ『龍馬伝』(10年)などの大ヒット作に次々と出演。
さらに、主人公の緋村剣心を演じた映画『るろうに剣心』シリーズ(12、14年)では、アクロバティックな殺陣アクションで観客を魅了し作品をけん引。シリーズ3作で累計125億円を超える興行収入を叩き出すなど、名実共に若手俳優のトップに躍り出た。
近年は、大正・昭和時代を一途な信念で生き抜いた実在の人物を演じた『天皇の料理番』(15年)や、就職活動中の大学生の心理戦を巧みな演出で見せた『何者』(16年)などでの演技が高い評価を受け、役者としての幅を広げている。
アイドル的人気に始まるも着実に演技で魅せ、大友啓史監督(『龍馬伝』『るろうに剣心』)、TBS石丸彰彦プロデューサー(『ROOKIES』『天皇の料理番』他)、そして東宝の川村元気プロデューサー(『バクマン。』『何者』他)など、エンタ界を代表するヒットメーカーに主役を任されるように。最新作『亜人』も、『踊る大捜査線』、そしてアニメ『PSYCHO-PASS』シリーズで新境地を開いた本広克行の監督作だ。
役者という仕事が飽きない理由
ここに至るまでにはどんな考えがあったのか。まずは、自身の転機となった作品を聞いた。
「転機と言われると難しいですけど…、1つに『るろうに剣心』はありますね。ありがたいことに、この作品を見て僕をキャスティングしようとしてくださる方が多くなったのではないかなと思います。アクションをすごく評価してもらったんですけど、アクションは得意というよりは嫌いじゃないし、好きなので、アクションといえば僕の顔が浮かんでくれているならうれしいです。
でも、転機と言ったら『るろうに剣心』だけじゃなくて、『仮面ライダー電王』とも言えるし、『龍馬伝』や『天皇の料理番』と言うこともできると思うんです。1つの作品の終わりによって、意識がはっきり変わることはないですね。どの作品も転機になっていて、どんどん変わり続けていった感じ。
芝居をするのが楽しくて、役者という仕事が飽きない理由はそういうところにあると思います」
冷静に客観的に自身の歩みを振り返る佐藤。彼が「全ての作品が転機」とはっきりと言い切るのには、自身の状況を見定めながら、野心的に今やるべき作品選びを行ってきたからにほかならない。
「3段階のポイントがあったと思います。まず第1段階としてデビュー間もないときは、出演作を積み重ねるごとに役者としてのステージが上がっていないといけない、ということはすごく考えていました。そのうえで、イメージが固定されないような役選びとか、作品の注目度を意識してましたね。正直、上に行けないならやらないほうがいい、というくらいに」
面白くならないならやらない
「第2段階、主演をさせていただくようになってからは、『やるからにはいい作品を作りたい』と考えるようになって。役者って、特に主演ともなれば、作品に深く関わるプロデューサー的視点が、もっと求められていくと思うんです。そんな考えも相まって、『自分が演じて面白くならないならやらない』と思っていました。その意識は今も変わっていません。勝算のあるもの──数字が確実に取れるとか、絶対に評価されるものとか、そういう視点で作品を選んでいた時期もありました。
そして今は第3段階ですね。特にここ1~2年は気持ち的にも余裕があるので、逆に何をやってもいいのかなって。もっと言うと『20代の自分を残しておきたい』というエゴもあったり。やりたいことや、やると決めたことは一生懸命やるだけかなと。それが、次につながると思っています。30代になったらどうなっているかは、自分でも分からないですね(笑)。
この12年、どういう役者を目指してきたかと言われると、ないとしか言えないけど、僕の作品を見て面白いと思ってもらいたいという気持ちはずっと変わらない。幸運にも、人も仕事もいい出会いがたくさんあって、事務所とも話し合いながらやってきた感じです」
しかし、この理論に当てはまらないのが、近年映画界を席巻するマンガ原作の作品だという。これまで出世作となった『るろうに剣心』をはじめ、『バクマン。』(15年)などに出演。死なない新種の人類〈亜人〉と人間との攻防を描く最新作『亜人』も、『good!アフタヌーン』(講談社)で連載中の有名マンガが原作だ。
「そもそもマンガが大好きなんです(笑)。日本が世界に誇れる財産だと心から思うし、なんなら今、エンタテインメント界で一番すごい才能、クリエイターたちが集まっていると言ってもいいと思うんです。だからそこは、さっき話した作品選びとはちょっと感覚が別で。例えば超人気作のオファーを頂いて勝算があったとしても、俺じゃないと思ったらお断りします。
父親が『サンデー』や『マガジン』を毎週買っていて、それを読んで育ったし、今もいろいろな作品を読んでいるので、せっかく実写化するならファンとして作品やキャラクターのイメージを大事にしたいという気持ちが強いんです」
『亜人』ならではのアクション
「『亜人』は、原作を読んですぐに、『見たことのないアクションができる』と心動かされたんです。演じる永井圭も相対する佐藤(綾野剛)も死なない人類〈亜人〉なので、死んでリセット(生き返る)してさらに戦い続けるという全く新しい設定のなかで戦いが繰り広げられていた。例えば、普通は銃で撃たれたらそこで終わりだけど、いくらでも被弾できるし、さらにその先もある。このアクションを実写でどう作って見せるのかを、監督、アクション部、役者がそれぞれ考え話し合いながら形にしたのが今作です。
マンガは長期連載になるほど、作品のいろいろな面が描けるし、キャラクターも多く出せる。『亜人』も、何が悪で何が善か、死なないとはどういうことか、友人への贖罪(しょくざい)の気持ちであったり、アクション的要素もそう。でも映画は時間的制限があるなかで、完結させないといけないんですよね。そうなったときに、『何を描くのか』という作品のソウルが明確じゃないと中途半端なものになってしまう。
そういう意味では、映画『亜人』はエンタテインメントに振った作品を目指していたし、実際に完成した作品は、圭と佐藤のバトルに軸を置いたジェットコースターのような映像に仕上がっていると思います」
研修医としてごく普通の生活を送っていた永井圭(佐藤健)は、ある日交通事故に遭い死んでしまうも、その場で復活。死なない新種の人類〈亜人〉としての過酷な運命に巻き込まれていく。亜人vs人間、亜人vs亜人と様々な対立構造のなかで、圭が選ぶ道とは。圭と敵対する佐藤役には綾野剛。公開中/東宝配給 (C) 2017映画「亜人」製作委員会(C) 桜井画門/講談社
(ライター 山内涼子)
[日経エンタテインメント! 2017年10月号の記事を再構成]
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