育児も仕事も「自分で決める」が大事 治部れんげ
みなさん、こんにちは、治部れんげです。最近、少子化対策の観点から子育てを語り、経済再生の文脈で女性活躍を語る場が増えています。そんなわけで私も「仕事と育児の両立」や「男性も女性も働き続けること」をテーマに講演する機会があります。
誤解されることが多いのですが、子どもを持つのも仕事を続けるのも、政府や社会のためではなく、個人の幸せのためだと私は思います。確かに出生率が2を切る社会では、人口が減っていきます。女性も働けば納税者が増えて財政が潤います。
自分でやりたいからやる
ただ、私たち一人ひとりは、子どもが欲しいから持つのであって、少子化対策のために子育てをしているわけではありません。育児中の女性が働くのは、自己実現や社会とのつながりや、収入を求めているのであって、GDPを上げるためではありません。
子育てや仕事が「国のために大事」と言われる今だからこそ、これは「自分でやりたいからやる」という発想を強く持つことが必要だと思います。
私は、子どもを持つかどうか、そもそも欲しいと思うかどうか、仕事を続けるかどうか、といったことについて、他人から尋ねられても、答える必要はない、と考えています。特に人の自己決定を尊重できない人ほど、善意の押しつけで色々なことを言ってきます。その時は、ぜひ、勇気をもって無視してほしい、と思います。
「なぜ、結婚したくないか」「なぜ、子どもを持たないか」「なぜ、仕事を続けるか」「なぜ、家庭に入るか」「なぜ、離婚したのか」……。いずれも、あなたが、あなたのパートナーと共に決めることであって、それ以外の人にとやかく言われる筋合いはありません。
そうは言っても、無視するのは難しい……と思うかもしれません。こうしたことについて、うるさく尋ねてくるのは親族や上司など、目上の人であることも多いからです。無視が難しい場合、嫌なことを聞かれたら、ゆっくり3回、深呼吸してみてください。その間に時間が経ちますから、答えずに済むかもしれません。
くれぐれも、上手に答えようとか、相手を納得させなくては、と考えないでください。こうしたことについて、あなたが他人に説明する責任はありません。人の心に土足で入ってくる人に「靴をそろえてください」と言うのは無駄なので、黙ってその場を立ち去り、自分の心を守る権利が自分にはある、と知ってほしいと思います。
自己決定をした人は、「満足している」
様々な立場の人と話をしていて感じるのは、自己決定をした感覚のある人は、現状がどうあれ、「満足している」ということです。子どもがいるかいないか、仕事を続けているか家庭に入っているか、結婚生活を続けているかいないか。満足度は属性より「私が決めたこと」という意識の有無にかかっています。
30歳過ぎまで仕事最優先で生きてきた私が、子どもを持ちたい、と思ったきっかけの一つに、ある女性の言葉がありました。この方はコンサルタントとして活躍した後、大学の先生になった2児の母。15年以上前、インタビューの際、「メディアは子育ての大変さだけでなく、子どもの素晴らしさを伝えてほしい」とおっしゃいました。
育児や家族のため、職種を変え、短時間勤務も経験したこの女性は言います。「子どもたちと一緒に過ごしたいから、職種を変えました。仕事時間の大半を飛行機に乗って過ごすのではなく、私は夕食を子どもと一緒に食べたかった。つまり、自分はそういうキャリアを『選ばなかった』という意識があるので、何かを諦めたとは思わないのです」
30代半ばから40代くらいになると、皆、それなりの意思決定を積み重ねてきているでしょう。前述の女性が言うように、何かを選ぶということは、他のことを選ばない、ということです。また、現状を維持するということは「変えない」という意思決定をしているのと同じことです。
高学歴女性に関して言えば、本人が望むなら、育児しながら働き続けられる職場は、確実に増えています。ただし、出産後の人事評価などの問題は少なくありません。そういう中で、いかに納得感をもって仕事を続けていくのか、またはいったん辞めるのか。
私自身を振り返ってみると、環境要因で恵まれていたことに加え、人生の重要な事柄を、「自分で決めたこと」が納得感につながっていると思います。
「自分が選んだもの」「選ばなかったもの」は何か?
例えば四半世紀前、「女の子は浪人すべきじゃない」とか「女の子は親元から大学に通うべき」という考えの人も多かった頃、私の両親は男女問わず教育の機会を与えてくれました。大学を選ぶ時、学費だけでなく仕送りが必要な一人暮らしをさせてくれたことで、私の人生の選択肢は明らかに増えました。これは環境が恵まれていた、と言うことができます。
ただし、そこから先は自分で決めて選んできた、と思っています。就職先を選ぶ時「女性は●●の仕事をしていただきます」と性別で職種が決められる企業ではなく、男女差のない実力主義の企業を選んだこと。20代の頃「女性にはダメ出しをしにくい」と上司から言われたときも「平等に扱ってほしい」と食い下がったこと。20代後半でパートナーが海外留学した時、一生ひとり暮らしかもしれないリスクを理解した上で、東京に残り仕事を続けたこと。
それぞれの意思決定において「最悪の場合、こうなってしまうかもしれないけれど、別の選択肢よりこちらのほうが自分には合っている」と考えて決めたことは、納得感につながっています。
もし時間があれば、自分が選んだものと選ばなかったものを、書き出してみて下さい。その結果、獲得したものは何でしょうか。別の選択肢をとっていたら、もっと良い人生だった、と言えるでしょうか。あなたが心から望む意思決定をはばんでいるのは、何でしょうか。
昭和女子大学現代ビジネス研究所研究員。1997年一橋大学法学部卒業後、日経BP社入社。経済誌の記者・編集者を務める。14年からフリーに。国内外の共働き子育て事情について調査、執筆、講演などを行う。著書『稼ぐ妻・育てる夫―夫婦の戦略的役割交換』(勁草書房)、『ふたりの子育てルール』(PHP研究所)。東京都男女平等参画審議会委員などを務める。
[日経DUAL 2017年8月22日付記事を再構成]
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