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中国資金も流入 高成長続くマレーシア、フィリピン 世界のどこに投資する?(8)東南アジア・後編

2017/9/29

クアラルンプールのシンボル、ペトロナスツインタワーの夜景 写真=PIXTA

世界の諸地域の経済動向と、日本の個人投資家にとっての投資妙味を探る本連載。前回の「成長軌道に乗る東南アジア 内需拡大、銀行株に期待」では東南アジアの潜在成長力の大きさを紹介した。後編の今回はマレーシアとフィリピンの現地エコノミストのインタビューをお届けする。

■5.3%成長を維持のマレーシア

1人目はマレーシアのケナンガ・インベストメントバンクのワン・スハイミ経済リサーチ長だ。スハイミ氏はエコノミストやアナリストとして約20年の経験を持ち、今はマレーシアを中心にした経済予測を手掛けている。

――マレーシア経済の現状と見通しはどうか。

「2017年4~6月期の実質GDP(国内総生産)成長率は5.8%(前年比。1~3月期は5.6%)と、事前の市場予想より高かった(注:日本の4~6月期は1.4%)。内需の成長は緩やかだったが、外需部門の強さがGDP成長率を押し上げた。業種ごとに見ると、農業、鉱業・採掘業部門は緩やかな成長速度にとどまっているものの、製造業やサービス・建設業の成長は速い。内需の減速がマレーシア経済の成長を押し下げる可能性はあるものの、17年のGDP成長率5.3%は維持するとみている」

――マレーシアの株式相場は今年に入り堅調な伸びだ。このまま上昇傾向が続くのか。

「17年7~9月期はおおむね横ばい圏になるだろう。一方で米国と北朝鮮の緊張関係は続くと見ており、マレーシアも地政学上の影響を受ける。加えて世界の市場がリスクオフに転じると見る。アジアの株式市場からも海外資産の流出は避けられず、クアラルンプール総合指数は1750まで下がる局面もあるだろう(9月27日時点で1764)。その後、株式市場は堅調さを取り戻し、年末は1850になると見ている」

――日本企業の存在感はどうなっているのか。

「マレーシアにいると、日本企業には強い競合国がいるように見える。中国だ。彼らは広域経済圏構想『一帯一路』によりさらに勢いを強めていく。日本企業がマレーシアで存在感を高めるには、確たる主導権を握る必要がある。中国が足がかりを築き影響力を強めるほど、日本企業は伝統的な方法と既存のブランドには頼れなくなる。日本企業に提案したいのは、マレー半島東海岸のクランタン州、トレンガヌ州での事業機会だ。これらの地は若年層の労働力が豊富。文化の面からも進取の気性に富み、かつ勤勉なのだ」

■フィリピンでは銀行や不動産株に妙味

2人目はフィリピンの運用会社レジーナ・キャピタルでセールス・ヘッドを務めるルイス・リムリンガン氏だ。フィリピン経済・株式市場のリサーチ経験が豊富で、現地の新聞やテレビで解説するなど活躍している。

――フィリピンの株価指数「PSEi」は17年末にかけてどのぐらいの水準になると予想するか。

「今は7800近辺にとどまると見ている(9月27日時点で8222)。ドゥテルテ大統領就任に伴う期待などで株価指数は上昇しているが、今後相場を上げる大きな要因はあまりない。今の株価は1株当たり利益に比べ割高だ」

――どの業種に投資妙味があるか。

日本企業からの業務一括受託も進む(マニラ首都圏にある大手海運のグループ会社の拠点)

「銀行や不動産だ。中央銀行の政策金利の引き上げペースが早くなく、金融機関の貸出利率はまだ低い。ビジネス・プロセス・アウトソーシング(BPO、業務の一括受託)業種も注目に値する。米トランプ大統領の保護主義政策の影響でBPOのニーズが減るという懸念もあったが、その可能性は今や低いだろう」

――具体的にはどの銘柄が狙い目か。

「不動産大手のアヤラ・ランド(ALI)は価格上昇やインフラ投資拡大の恩恵を受け、事業が急拡大している。鉱物大手のセミララ・マイニング・アンド・パワー(SCC)も4つの商業発電施設を稼働させており、成長が著しい。鉱物価格は変動するが、量の拡大の勢いが強く、力強い成長が見込める。最初のフル稼働の1年で、エネルギー販売の伸びが見込まれる。フィリピン最大手の銀行、BDOユニバンク(BDO)はITによる効率化と人材強化を進めて、生産性を高めている」

――フィリピン経済は7%成長を維持するのか。

「7%程度のしっかりした成長を達成すると思う。ミンダナオ島の紛争により軍が同地へ増強されれば、市民の安全性が高まる印象を与え、これも前向きな材料になる」

■製造業の育成が鍵。日本からは投信で

マレーシアは東南アジアの中でも成熟しつつある国で、日本や中国の投資マネーを多く受け入れてきている。首都クアラルンプール(KL)を歩くと、日本企業の存在を感じずにはいられない。筆者が昨年冬に訪れた際は、三越伊勢丹がクールジャパン機構と共同で新感覚の高級店をオープンしたのが地元経済界の話題だった。三井不動産が現地資本とともに、KL国際空港でアウトレットモールを増床。さらにKLの中心部では、あの日本のカレーチェーン「壱番屋」が「パビリオン」というモールに新店を開業しようとしていた。

マレーシアのジョホールバルでは「イスカンダル計画」という政府主導の大型インフラ開発計画が進む。25年までに約10兆円を投資して2200平方kmの土地を開発する。計画の実現性には疑問符も付く

シンガポールに隣接するマレーシア南部の都市、ジョホールバルに足を向けると、そこは中国の投資マネーの温床となっていた。広大な林野の中に高層マンションがポツポツと造られていた。筆者はジョホールの町で若い不動産営業員に呼び止められ、「あなたは中国人か。退職後のために投資用マンションを買ってはどうか。ここは着実に価格が上がる。今、空いている部屋の間取りは……」と熱心な勧誘を受けた。経済の縮小段階を迎える日本とは対照的に、成長が続く中国の資金余力の大きさも感じた。

フィリピンも不動産投資が急ピッチで進む。マニラ首都圏では伝統的な金融街のマカティだけでなく、ボニファシオなどの新しい拠点が次々と整備されている。母国語の1つが英語で、低廉な労働力を確保できることから、日本を含めた外資系企業のビジネス拠点が拡大。慢性的な交通渋滞の解決につなげるため、道路などのインフラ整備も進んでいた。同国には鉄道があまり走っていないが、日本や中国の投資資金を背景にした高速鉄道の建設計画も出始めている。

ただしいずれの国も海外の進出・投資需要を取り込もうとしているにすぎず、自国の新産業育成は心もとない。マレーシアでは電子・電気機器産業が新規性のある部品生産に対応しきれず、国民車プロトンの販売も落ち込む。さらに原油は市況の変動に左右される。フィリピンは建設やハウスキーピングなどの職種を担う出稼ぎ労働者が同国GDPの約1割を稼ぐほどのサービス産業立国。一方で製造業がなかなか育たない。

東南アジアは比較的日本から近く、ものづくり立国の日本が同地の新産業育成に働き掛ける素地はある。英語が比較的通じやすいのも強みだ。製造業が勃興すれば、同地のGDP成長率はさらに上昇し、インドに続く有望な新興国地域に育つ可能性がある。

日本の個人投資家にとっては、東南アジアの個別銘柄のなじみは薄いだろう。ツールとしては東南アジアや個別国の投資信託を通じて、中長期での成長の果実を狙いたい。成長性のある製造業のニュースが出たときこそが、重要な投資タイミングとなるのではないだろうか。

(マネー報道部 南毅)

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