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子供にお金の話をしよう

「残った卵」が利益生む 分散投資の格言、その真意

日経マネー

2017/10/19

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日経マネー

[親父の悩み]分散投資が重要とよく言うが、リーマン・ショックでは世界中の株が下がり、分散投資した資産全てが損になった。それを経験した身として、分散投資が大切と子供に言い切れない。本当に分散が重要と言っていいのか?

◇  ◇  ◇

イラスト:ふじわらかずえ

リーマン・ショックの時は確かにどの資産クラスも損失になっていて、「資産を分散しても意味がなかった」といわれたものです。でもその後の回復局面まで考えると、意外にしっかりとした分散投資の効果があったと思います。

「分散投資」の効用は、資産を複数の種類に分けて保有することで、リスクを軽減することにあるといわれています。資産形成のセミナーなどでは、収益の変動の波が逆になる資産を持つ方がよいとか、違う資産クラスに投資対象を分ける際には相関係数の小さいもの同士がよいとかいった表現が使われます。でも金融教育を受けていない子供さんに説明するにはちょっと難しいものです。

といって、簡単に投資の格言「卵は1つのかごに盛るな」を使って説明しようとすると、今度は十分に説明できないことが多いのです。

「卵は1つのかごに盛るな」の意味は、下の図にある通りです。9つの卵を持ち運ぶ際に1つのかごに入れていると、万が一落としてしまったら全てが割れてしまいます。その危険を避けるために3つのかごに盛り分ける(分散投資する)と、1つのかごを落としても6つは無事だという内容です。

でも、投資のことを知らない人がこれですぐに理解できるとは思えません。例えば、9つある卵が全部割れるのは確かに嫌ですが、といって3つに盛ったかごを1つ落として3つの卵が割れてしまっても大きな損失です。投資の世界で考えてみても、落として割れることを損失と考えると、9つ全部割れても3つ割れても損は損です。確かに損失の大きさは違うけれど損失であることに違いはありません。

■長期投資と合わせて意味がある

この格言で本当に重要なのは、実は残った6個の卵の「その後」なのです。実際にその格言で話されるストーリーではありませんが、卵はその後にヒナにかえって親鳥になり、そして親鳥は卵を産みます。例えば、9個のうち割れずに残った6個の卵のうち4つが親鳥になり、その親鳥がそれぞれ3個の卵を産めば合わせて12個の卵が手に入ります。

最初の9個の卵から見れば途中で割れる卵があっても、少しでも卵が残っていたことで12個の卵に増えたわけです。投資で考えれば3個もうかったということになります。

このもうけをもたらしたものは、卵からヒナにかえり、親鳥に成長し、そして再び卵を産むというプロセスです。すなわち時間の経過がもうけにつながったわけです。

この点で、卵を3つのかごに盛るという「分散投資」は、卵から時間をかけて親鳥になるという「長期投資」の要素も併せ持って、初めて意味があることが分かります。

「分散投資をしていれば投資のリスクは軽減される」という言葉はリーマン・ショックの直後には否定されましたが、その後の回復過程ではその効果も見直されたことは言うまでもありません。

■市場に居続けることが大事

イラスト:ふじわらかずえ

ところでもう一つ、この格言には大切なポイントがあります。それは分散するものが卵という「収益を生む」ものでなければならないということです。

卵の代わりに、卵製品のカステラを考えてみれば分かりやすいと思います。3つのかごに分けて1つ落としてしまった後に残った6つのカステラは、時間をかけても増えることはありません。収益を生み出すものに分散投資をしてこそ、長期投資も意味があるのです。

長期投資にとって「収益を生み出すもの」とは何でしょうか。それは長期保有に耐え得る成長資産ということになると思います。

それはより信頼できる投資対象でなければなりません。そう考えると、個別企業よりも業界全体、業界全体よりも日本の産業界全体に分散した方がよいことになります。さらに言えば、日本経済、アジア経済、世界経済……と投資対象をより大きくして分散投資した方が、その成長に対する信頼感は高まることになります。

筆者は、以前勤めていた会社の自社株を15年以上買い続けてきました。しかしその会社は倒産し、全て「紙切れ」になってしまいました。単に1つの企業の株式を持ち続けることが長期投資ではないのです。投資を継続するという意味で「市場に居続けること」が長期投資なのではないでしょうか。

「卵は1つのかごに盛るな」という分散投資を説明する投資の格言は、単に分散投資の話だけでなく、長期投資と結び付けて説明してほしいと思います。また長期投資の対象として考えるべきなのは、より信頼感を増すためにも「資産を分散した対象」のはずです。改めて、分散投資と長期投資は不可分なものと言えます。

【こんなふうに伝えよう】

分散投資は、実際に効用のある投資のリスク軽減策です。でも長期投資と組み合わせてこそ、その意味が分かりやすくなるものです。一つひとつの話ではなく、併せて理解してもらえるように子供に話すのがいいでしょう。

イラスト:ふじわらかずえ
野尻哲史
フィデリティ退職・投資教育研究所所長。一橋大学卒業後、内外の証券会社調査部を経て2006年にフィデリティ投信入社、07年から現職。アンケート結果を基にした資産形成に関する著書や講演多数。

[日経マネー2017年11月号の記事を再構成]

日経マネー 2017年11月号

著者 : 日経マネー編集部
出版 : 日経BP社
価格 : 730円 (税込み)


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