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9月11日に開催された「人生100年時代構想会議」は、テレビなどのメディアで大々的にとりあげられたこともあり、様々な場所で議論を呼んでいます。特に、ワーク・シフト、ライフ・シフトの著者でもあるリンダ・グラットン英国ロンドンビジネススクール教授を招へいしていることも話題の一つではないでしょうか。

グラットン教授は学んで、働いて、やがて引退する、という人生ではなく、より多くの選択肢をもったマルチステージな人生に準備をしようと問いかけています。では今現在すでに企業で働いている私たちは、どのように備えればよいのでしょうか。そのひとつに、教育への接し方があります。

教育って本当に役にたつの?

研修とか座学などの教育を受けることは仕事では役にたたない。そう思う人は多いようです。

出世の観点でいえば特に、同じ会社の中で課長や部長や役員を目指すには、教育を受けるよりも少しでも売り上げを上げるとか、社内でネットワークを作ったりすることの方が重要視されてきました。

しかしこれからはそういう時代ではなくなるのかもしれません。

たとえば建設コンサルタントという業種があります。私たちが普段利用する道路や橋などを設計する業種です。

建設コンサルタントに求められる資格に、技術士というものがあります。しかし資格は必ずしも必須ではなく、実務で得られる経験でも十分に対応できると言われていました。たしかに、業務をすすめるためにはそれでもよかったのですが、やがて業務を発注する側の公共機関が有資格者であることを前提に、より具体的な実績を求めるようになりました。

「資格なんてなくても仕事の成果には関係しない」

そううそぶいていた人たちは今や、資格を持っている若手の下で働くようになってしまったのです。今日では建設コンサルタント業界で出世しようと思うのなら、技術士資格は必須になっています。

MBAなんて不要だ、という声もまだまだ強いのですが、さまざまな資格と同じような道をたどるかもしれません。たとえば内閣府の教育再生実行会議資料(2013年)によれば、アメリカの部長クラスのうち、約40%は大学院卒が占めるそうです。日本ではケタ一つ違うくらいの少なさではありますが、やがて部長に昇進するために、MBA取得が必須要件になる時代がくるのかもしれません。

経験だけではだめなのか

経験と教育。どちらがより重要なのか、と考えた時、人によって意見はまちまちです。

しかしマトリクスで考えてみれば答えは明白です。たたき上げの人は信頼感がありますが、その人にさらなる教育を受けて知識の裏付けがあれば、信頼感は一層高くなります。また教育だけ受けている人は現場で結果を出しづらいかもしれませんが、経験を積めば、教育だけを受けている状態よりももちろん結果を出せるようになります。

「学者」よりも「たたき上げ」の方がもちろん実績は出せるでしょう。しかし教育の実効性を検証するためには、相反する両者を比較するのではなく、両方の要件を兼ね備えている人と、一方の要件しか備えていない人を比較しなくてはいけません。

その上で、両者を兼ね備えた人になるために、どちらを優先すべきか、ということを考えることはありでしょう。自然科学系の領域であれば先に大学院まで出たのちに企業で経験を積む方が良いのかもしれませんし、社会科学系の領域であればまず企業経験を積んだのちに教育を受けることの方がより成長しやすくなると考えられます。

競争相手は社内の同期ではない

なぜこれまで経験の方が教育よりも重視されてきたのかといえば、出世の基準が社内にだけあったからです。競争相手は同期の誰かであり、認められるべきは社内の上司の誰か。そういう状態であれば、社内の商品やビジネスで経験を積み、社内の暗黙のルールに従って行動し、時には上司に媚を売ることで出世ができていました。

けれども人生100年時代ともなれば、同じ会社の中だけで生きていくことは難しくなります。それまでいくら上司との関係をうまく築いていたとしても、別の会社にその上司はいません。

だから、たとえ会社が変わったとしてもわかりやすい、デキる証拠が必要になります。それが資格であったり、MBAであったり、努力して学んだ結果得られる何かになるのです。

もちろん資格やMBAだけでは、マトリクスで言えば右下の「学者」としての扱いしか受けないかもしれません。しかし経験も教育もない「素人」よりはずいぶんとましですし、一定の経験があれば「たたき上げ&学者」の枠に入れるかもしれません。それは「たたき上げ」だけの人よりは、ずいぶんと高く評価されるのではないでしょうか。

経験よりも標準を重視する

重要なことは、標準化された知識を体系的に学ぶということ。その対義語は、経験から学ぶということですが、これらはいずれか一方だけでは不十分であるということに気づかなくてはいけません。

何よりも必要なことは、軸にそって議論ができることです。

お互いに経験だけで実績を上げてきた人同士は、それぞれの議論がどうしてもかみ合わない場面が出てきます。たとえこれからの営業手法をどうすべきか、という共通のテーマを議論していたとしても、一方がBtoBビジネスしか経験しておらず、一方がBtoCビジネスしか経験していないようだと、どうしてもかみ合わなくなってしまいます。

しかしここで営業に関する理論的なフレームワークの知識があれば、互いの経験の違いを認識したうえで、現在着目すべき課題を明確にし、解決のための方向性を具体化するための議論ができるようになるのです。

平康慶浩
 セレクションアンドバリエーション代表取締役、人事コンサルタント。1969年大阪生まれ。早稲田大学大学院ファイナンス研究科MBA取得。アクセンチュア、日本総合研究所をへて、2012年から現職。大企業から中小企業まで130社以上の人事評価制度改革に携わる。大阪市特別参与(人事)。

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