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究極の重厚長大オペラ「リング」 日本人に受けるワケ

東京・春・音楽祭に新国立劇場、びわ湖ホール… 上演相次ぐ

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NIKKEI STYLE

ひとつの物語が完結するのに最低4日、総上演時間15時間を費やす音楽史上最長のオペラ、ワーグナーの「ニーベルングの指環(リング)」全4部作の上演が2010年代後半の日本で突然、はやり出した。まず東京・春・音楽祭が今年4月までの4年間で全作完走したのに続き、10月には新国立劇場が「神々の黄昏(たそがれ)」で3年がかりの上演を締めくくる。滋賀県立芸術劇場びわ湖ホールでは今春から関西圏初の全曲サイクルに乗り出し、アマチュアの愛知祝祭管弦楽団も2年目の今年6月、「ワルキューレ」に挑んだ。「リング」がなぜ今、日本人の心をとらえるのだろうか?

 ◇   ◇   ◇

正式には「序夜と3日間のための舞台祝典劇」と銘打たれた「リング」は1848~74年の26年をかけ、ワーグナー自身が台本を書き、作曲した「総合芸術(ゲザムトクンストヴェルク)」の最高峰。北欧神話に基づく叙事詩風の楽劇で序夜「ラインの黄金」、第1日「ワルキューレ」、第2日「ジークフリート」、第3日「神々の黄昏」の4作からなる。自身の理想を体現するために建設した、バイロイト祝祭劇場での通し上演を念頭に置いていた。

全世界を支配できる黄金の指輪をめぐって神や英雄、妖怪風キャラクターらが争いを繰り広げた果て、黄金は再びライン川の底へと沈み、地上に愛と平和が訪れる。あらすじを極端に要約すれば、5分程度で済む起承転結を15時間あまりのスペクタクルに拡大したワーグナーの発想は桁外れ。最大の支援者だったバイエルン国王ルートヴィヒ2世すら、尻込みするほどだった。

日本で4作セットの上演が始まったのは、ドイツの世界初演から100年あまりを経た1984年。朝比奈隆が新日本フィルハーモニー交響楽団を指揮、すべて日本人のキャストで年1作ずつ、87年まで4年がかりの演奏会形式上演を貫徹した。87年には旧西ベルリンからベルリン・ドイツ・オペラが来日、当時の総裁だったゲッツ・フリードリヒの演出により、4作通しの舞台上演がついに実現した。

新国立劇場 フリードリヒ演出で「神々の黄昏」

その10年後の97年、日本初の本格的オペラハウス、新国立劇場が開場した。同劇場は2001~04年にキース・ウォーナーのポップな演出、準メルクルの指揮で「トーキョー・リング」を制作した(09、10年に再演)。14年、長くバイロイト音楽祭の音楽助手として活躍した飯守泰次郎がオペラ芸術監督に就くと、15年から3シーズンの間に4作の上演を改めて計画。フリードリヒ(2000年没)が「私にとって、最後の『リング』新演出になるだろう」と語っていた97年、フィンランド国立歌劇場のための舞台に手を入れ、飯守指揮で上演してきた。完結編の「神々の黄昏」は10月1日に初日を迎える。

日本各地で「リング」の上演が相次ぐ背景を、飯守に聞いた。

「ワーグナー自身、産業革命以降のヨーロッパ社会の急激な変化を『良し』とだけする肯定の風潮に疑問を抱き、人類が人類を滅ぼしかねない未来への警告として、『リング』を発信した。今の日本社会の背後にも、様々な危機が迫っていて、人々は終末思想に近いものを感じている。音楽による救済をどこまで意識しているかは別としても、これだけ多くの上演に観客が集まり、ワーグナーに引き込まれる現象は、社会全体の危機と無関係ではないだろう」

フリードリヒは旧東独出身で、当時の「西側」に亡命した。問題意識の根底には「2つの世界の対立」があり、80年代まではレジーテアーター(演出劇場)と呼ばれた過激なオペラ演出の先端を走っていた。87年にベルリン・ドイツ・オペラが日本で上演した「リング」も巨大なトンネルを駆使した斬新なものだった。東西ドイツ統一から7年を経たヘルシンキ版では奇抜さが影を潜め、美しさが際立つ。序夜「ラインの黄金」では演出家の不在が舞台の鮮度を薄めていたが、フリードリヒを身近に知る飯守が「現場でどんどんアイデアを出し、演出に変更を加えていた生前の本人の流儀に従い、再現ではなく再創造でいこう」とフィンランド側に提案。「ジークフリート」あたりからがぜん、迫力のある上演に生まれ変わった。

「神々の黄昏」ではオーケストラが、新国立劇場デビューの読売日本交響楽団(読響)に替わる。飯守は72~76年の読響指揮者が、日本で最初に得たポストだった。すべての破壊の後に声が消え、オーケストラのみで奏でる「最後の7小節」の着地めがけて今年で77歳となる指揮者の全知全能を注ぎ、世界の名歌手、旧知の楽団とともに最上の成果を目指す。

東京・春・音楽祭 ヤノフスキ指揮N響で完走

プロバイダー大手、インターネットイニシアティブ(IIJ)の鈴木幸一会長兼最高経営責任者(CEO)が実行委員長を務める民間主導のフェスティバル、東京・春・音楽祭では「2010年の第6回に『パルジファル』をとりあげて以来ワーグナーにこだわり、結局、主要作品すべてを演奏会形式で上演していく方針を掲げた」(鈴木委員長)。「リング」はバイロイト音楽祭でも同作品を手がけたベテラン、マレク・ヤノフスキ指揮のNHK交響楽団(N響)に委ねて年1作ずつ。今年4月の「神々の黄昏」まで完走した。「ラインの黄金」はヤノフスキのハードボイルドな指揮とN響がかみ合わず心配したが、次第に調子を上げ、「神々の黄昏」では突然の歌手の交代があったにもかかわらず、圧倒的な管弦楽が勝利を収めた。

「物語は荒唐無稽ながら、年をとるとともに色々な聴き方ができる。『神々の黄昏』まで通して聴き進むうち、音楽そのものに深い意味があることに気付く。本当は同じ年に4作を通して上演することに、『リング』の究極の醍醐味がある」と、鈴木委員長。ヤノフスキやN響とは何度か通し上演の可能性を探ったものの、スケジュール調整に難儀して断念。来年の音楽祭のワーグナーは1話完結の「ローエングリン」だが、「『リング』を通し上演する」との夢は捨てていない。

音楽祭の運営母体がIIJを中心とする多くの民間企業という関係で、客席には普段は音楽と疎遠な経営者の姿が目立つ。鈴木委員長も一瞬、長大な「リング」を敢行して「大丈夫か?」と迷ったという。だが完走後は、「皆さん素晴らしく謙虚な受容の姿勢に徹して一生懸命、すごい集中力で聴き入った。我々の世代の男子は勉強優先で、音楽など『軟弱なもの』から遠ざけられもした。一連のワーグナー上演を通じ、日本の経営者が案外、音楽好きだという手ごたえも得た」と満足している。

びわ湖ホール ベテラン演出家ハンペが「リング」初制作

4作の連続上演を積み重ねてきた首都圏に対し、関西圏では「ワルキューレ」などの単発上演にとどまっていた。98年に開場した滋賀県立芸術劇場びわ湖ホール(大津市)は日本でのワーグナー初演に功績のあった指揮者、若杉弘のアイデアを生かした優れた舞台機構を備え、当初からオペラの自主制作を発信の核に据えてきた。

07年、第2代芸術監督に就いた沼尻竜典は現在、ドイツのリューベック歌劇場音楽総監督を兼ねており、びわ湖でもワーグナーに力を注いでいる。これまでに「トリスタンとイゾルデ」「タンホイザー」「ワルキューレ」「さまよえるオランダ人」を成功させ、17年はついに、「びわ湖リング」4年がかりの連続上演に踏み切った。3月4~5日の「ラインの黄金」ではすでに、2つの大きな方向性が打ち出されていた。

一つは演出。1935年ドイツ生まれのミヒャエル・ハンペは同ホールの「タンホイザー」「オランダ人」も手がけた80代のベテランだが、「リング」に挑むのは意外にも初めて。美術・衣装のヘニング・フォン・ギールケともども「槍(やり)といえば槍、火といえば火が出てきて、ワーグナーが台本と作曲の両面から望んだ視覚がそのまま出てくる」(沼尻)との基本に、どこまでも忠実であろうとする。レジーテアーターが行き着くところまで行った最近のドイツでは「地元の議会対策もあって、一過性の話題で全国の注目を集めようと、奇抜さに走り過ぎた演出がオペラをひどく、わかりにくいものにしている」という。ハンペとギールケの仕事は「今のドイツでは『説明過剰』と言われそうだが、『リング』の連続上演に初めて接する関西のお客様には最適だ」と、沼尻は自負する。

「ラインの黄金」の幕切れ。神々たちが虹の橋を渡り、ワルハラ城へ入っていく場面の最初は生身の歌手たちが演じ、中空に歩を進める瞬間にCG(コンピューターグラフィックス)の動画に替わる。ベテランの仕事であっても最新技術を随所に使い、台本通りの視覚の精度を高めている点も見逃せない。新国立劇場のフリードリヒ演出(97年)と比較したとき、舞台の映像技術・表現が21世紀に入って格段に進歩したことにも気がつく。

「びわ湖リング」、もう一つの特徴はキャスティングにある。東京・春・音楽祭や新国立劇場の上演では「主役から上位5人が外国からのゲスト歌手で、日本人が脇を固める」が、びわ湖は「まだ欧米で大役を経験していない外国人、すでにワーグナーを歌い込んだ日本人が混ざり合うようにして合宿けいこ。チームワークの良さでグローバルスタンダードを目指す」(沼尻)態勢を整えている。イタリア歌劇に強い藤原歌劇団の歌手も、びわ湖ではワーグナーを歌う。地方のホールによっては特定の歌手団体にキャスティングを「丸投げ」したりもするが、びわ湖はすべて個人契約で、一人一人の出演料まで情報を開示する。「ラインの黄金」ではフライア役の砂川涼子の初ワーグナー、米国のバリトン歌手ロッド・ギルフリーのヴォータン役デビューなどが重なって素晴らしい成果を上げ、三菱UFJ信託音楽賞を授かった。

次作「ワルキューレ」の上演は18年3月3~4日の予定。沼尻は「リング」の魅力について「特に深い歴史知識がなくても、ゲーム感覚で入れるロールプレイングの世界。八百万(やおよろず)の神が入れ代わり立ち代わり現れるのも、日本人にはわかりやすい。しかも神々が実に人間的で、へまも嫉妬もする。絶対音楽や神話世界の本質を究めるまでいかなくても、十分に楽しめる」と指摘する。

名古屋ではアマチュア楽団が全曲に挑む

東京と大津の中間地点、名古屋市でもアマチュアオーケストラの愛知祝祭管弦楽団がバイロイト音楽祭で研さんを積んだ指揮者、三沢洋史の薫陶を受けながら「リング」の演奏会形式上演に挑んでいる。すでに「ラインの黄金」「ワルキューレ」を終え、18年に「ジークフリート」、19年に「神々の黄昏」を演奏してシリーズを完結する予定だ。歌手は地元勢に東京からの客演を交えた全日本人キャスト。同管弦楽団がホームページで公開している動画を見ても、非常に真摯で熱のこもった演奏を繰り広げており、日本の「アマオケ」文化の奥深さを思い知らされる。

 ◇   ◇   ◇

よく「オペラを初めてみるなら、どの作品がいい?」と、質問を受ける。少し前なら、モーツァルトの「魔笛」やヴェルディの「椿姫(ラ・トラヴィアータ)」、プッチーニの「蝶々夫人」「トゥーランドット」あたりを挙げていたが、最近は「リング全曲」と答えるようにしている。世の中すべてをワンクリックで理解できるとの幻想が広がるなか、たった一つの金の指輪の争奪物語に4日あるいは15時間強を要する重厚長大の究極、「リング」の壮大な浪費と非日常世界の連続こそが極上のデトックス(毒抜き)に思えるからだ。

(コンテンツ編集部 池田卓夫)

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