文学賞に落ち続けています
作家、石田衣良さん
ある文学賞に応募を続けて8回(8年)。落ち続けています。毎回かなり多数の作品が集まり、生涯応募を続けても受賞できる可能性はほとんどゼロ。このまま頑張り続けた方がよいのか迷います。(愛知県・50代・女性)
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ぼくはいくつか小説の新人賞で選考委員を務めています。これまで送りだした新人作家は50人をくだらないでしょう。それでも選考会は毎回水もので、誰が受賞するのか、ふたを開けてみるまでわからないのが正直なところ。
ネットでは文学賞について政治的な配慮や取引があるような陰謀説が語られていますが、実際にはその手の裏はまず存在しません。選考会の流れで、思わぬ結果が生まれることはあっても、菊池寛のいうとおり「審査は絶対公平」なのです。
そういう文学賞事情を踏まえたうえでいいますが、作家志望の人間が他人に書き続けるべきかを質問してはいけません。
あなたは作品を書いていてたのしいですか。たのしいなら、迷わず書き続ければいい。たのしくないけど書かないと生きていけない、自分ではなくなる。その場合も迷わず書けばいい。
さてどちらでもない場合、8年間もはずれが続いて自信を失ったというなら、プロではないのだから1年でも2年でも休筆して、書くことより読むことや生活をたのしむことで、気分転換をしてみませんか。
その過程でもう終わりにしてもいいと決心がつくかもしれないし、また書きたくなるかもしれない。あまり頭でだけ考えずに、ゆっくり時間をかけて心と身体に決めてもらえばいいのです。
ただ正直にいいますが、これまでの8回のトライで1次選考を一度も通過していないようでは、なかなか受賞の可能性は低いと思います。これまでの成績を考慮し直し、賞によって向き不向きもあるので応募先もこれからはよく選んだほうがいいでしょう。
ちなみにぼくはホラー、純文学、ミステリー、ファンタジーと応募して、ミステリーで新人賞をとりました。新人は自分でもなにを書いたらいいのか、なにがフィットするのかわからないものです。
今のあなたには作家としての成功か失敗しか目にはいらないかもしれませんが、応募作を書くことで、文章を書く力も本を読む力も人の心を推し量る力も抜群に伸びているはずです。芽がでなくとも書き続けてきたのは、なにかしらのごほうびがあったからですよね。すべてを心に受けとめたうえで、結論はあなたが決めてください。
[NIKKEIプラス1 2017年9月23日付]
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