今月のテーマは「投資の誤解」です。最後に解きほぐしておきたい大きな誤解は、「会社員なのだから投資はしてはいけない」という暗黙のルールです。
誰もがなんとなくそう思っていることが、投資をスタートする最後のハードルになっているのかもしれません。
株主は超富裕層や金融機関というイメージ
なんとなく、「会社員」と「投資家」には大きな隔たりがあるように感じている人が多いものです。
投資家というのは超富裕層であって、会社員などを搾取の対象としている、というような古いイメージも根強いせいか、会社員と投資家を別物と考えてしまうのかもしれません。
確かに、会社に役員を送り込んだり、株主総会で発言権を持つような大株主は超富裕層か金融機関であるかもしれません。しかし、それが株主のすべてではありません。
個人が1株だけを保有することもできます(最低投資単位である単元株が1株の会社の場合)。かつて単元株といえば1000株でしたが、10株や100株の会社が増えてきました。中には1株の会社もあります。また株式分割などで1株あたりの株価を引き下げることで、個人が株主になりやすいよう取り組む企業が増えています。今では5万~10万円程度で株主になることが容易な時代になっています。
個人株主が増えることに期待し、株主優待を充実させている企業も増えています。個人株主が多いことで有名なカゴメなどは、株主数の99%を個人株主が占めているほどです。
運用業務や報道業務に従事している会社員は契約で投資の制限が設けられているケースがありますが、インサイダー取引などの違反でない限り、一般的には会社が社員に対して投資を制限することはありません。
賃金は伸びなくても、配当を得る
株式投資をすると、株価の上下動だけではない運用益があります。それは配当です。企業が利益の一部を株主に還元するしくみですが、実はこれ、年1.6%(東証1部上場企業の平均配当利回り、9月20日時点)にも相当します。
配当利回りとは株価に対する配当の割合です。配当金額が同じ場合、株価の上下動により利回りは変化するため、株高の時期には利回りが低くなります。それでも年0.01%の定期預金と比べれば驚くほどの「高利回り」です。
この数十年、会社員の賃金はあまり増えませんでした。日本では労働分配率(企業の生む付加価値のうち従業員の取り分を示す数値)はすでに高く、これ以上取り分を増やすことも難しいと思います。しかし、一方で企業は株主への配分を強化してきた結果、配当利回りは上昇し続けてきました。
配当をもらう権利があるのは株主であることです。株主の多くは会社にお金を融資する銀行などだとしたら、お金を貸して利息を取ってもうけているうえ、株主として配当ももらっているということになります。しかし、あなたも株主になればその配当を受け取るチャンスがあります。そう、投資をして株主になればいいのです。
確定拠出年金は自ら運用する
日本の会社の企業年金には、あらかじめ給付額が決まっている確定給付型と、自ら運用して成績次第で金額が変わる確定拠出型があります。確定給付型であれば、資産の多くは有価証券に投資されています。企業年金連合会の調査によれば、おおむね25%は国内外の株式投資に回されています。不動産やプライベートエクイティ(未公開株)などにも6%が投資されているほどです。さらに40%は国内外の債券に投資されており、合わせれば会社員の老後の財産の75%以上が投資されていることになります。
また、確定拠出年金を採用している会社の場合、自ら投資をして増やさなければなりません。定期預金の金利環境を見る限り、物価上昇(インフレ)にも勝てませんので、投資を検討する必要があります。
22歳から60歳まで毎月1万円の掛け金があったとします。1人の社員は全額を定期預金、もう1人の社員は過半を投資信託に振り向けたとしましょう。60歳時の受取額は定期預金が約465万円(年平均の利回りは0.1%と仮定)、投信は約1068万円(同4.0%と仮定)になります。
退職金額に2倍の差がついていますが、2人の差は仕事の業績の差ではありません。リスクを多少取って運用したかどうかの差です。
会社員は投資をするべきではない、といっている人は投資をした人と比べて、自分の財産の老後格差が生じることになるはずです。
9月4日付コラム「投資は悪いことなのか 日本人の大いなる誤解を解く」では、投資は経済成長を支えその果実を分け合う仕組みであることを説明しました。また、18日付コラム「『投資は借金直結』の誤解 コツコツ少額で資産づくり」では、少額からの長期分散投資を志向すれば投資で借金漬けになる心配もないとお話ししました。
「会社員兼投資家」なら上手にお金と付き合える
ピーター・ドラッカー氏(日本では『もしドラ』でも有名ですが)は『見えざる革命』という本で、米国の企業年金が米株式市場の主要株主になったことを、勤労者が資本を支配し、ある種の社会主義が実現されたと評価しました。その是非はともかく、会社員が投資をすることで、超富裕層や金融機関のわがままに待ったをかけることができるかもしれません。
会社員が投資家になることは、賃金上昇率よりも高い利回りが期待できる株式を自身の資産形成に生かせる、ということでもあります。そして、働きながら投資することは、投資をノルマにしなくていいということです。よく専業投資家であるデイトレーダーに憧れる人がいますが、「投資が仕事」の場合は、生活費を投資から必ず稼がなければなりません。マーケットは良いときも悪いときもありますから厳しい仕事といえます。
「会社員兼投資家」なら、生活費は仕事の収入から賄い、資産形成のみ投資の力を借りるというスタイルで投資と付き合うことができます。相場の短期的な値下がりがあっても、回復をのんびり待つこともできます。
実は「会社員兼投資家」は、上手にお金と付き合うための絶好のライフスタイルなのです。「会社員だから投資はちょっと……」と思う人ほど、発想を転換して投資をスタートしてはどうでしょうか。
