鳥インフルエンザに潜む危険 野生動物の獣医師育成を

それにしても昨シーズン、多種の野鳥で感染が確認されました。高病原性鳥インフルエンザも明らかに性質が変わってきています。罹患種による病原性や種による感受性の部分です。近年、国のスタンスは人に対しての危険性を強調しない傾向にありますが、インフルエンザウィルスは変異していきます。そのせいもあってか、保護される野鳥の扱いにも危うさを感じます。インフルエンザウイルスは変異していきます。警戒を緩めてはいけないと思います。

フクロウでの感染も確認される中で、九州のある場所で「フクロウが保護され回復を願っています」といい、目をぱっちりと開けた「かわいらしいフクロウ」と警察の方が一緒に写った写真をまじえた新聞記事がありました。このフクロウは、一般の開業獣医師に預けられたとのことでした。さらに、このフクロウは特に外傷もなく人を警戒する様子もないため「飼育されていたフクロウの可能性もある」と書かれていました。

僕は3回、唖然(あぜん)としました。まずこの時期に人に捕らえられる状態のフクロウが無防備に保護され、行政機関が何の危機意識も持たないこと。次に捕まえた(保護した)のが人だから生きていますが、キツネなら食べられています。一見きょとんと無抵抗な状態は、かなり衰弱が進行している可能性が高いと考えられる状態です。最後に、開業獣医師が人に対してを含めた院内感染の危険性を認識していないことです。

閉鎖環境で密に接しないことが、人への感染を防ぐ要です。このフクロウの状態が尋常ではないこと、衰弱ならば鳥インフルエンザのスクリーニングが必須であることなどを行政機関が認識せず、開業獣医師に届けられたのであれば、持ち込まれた獣医師が県や専門機関に届け出なければいけないと、私は思うのです。

8月12日に生まれたアムールヒョウの赤ちゃん。2頭とも順調に成長している(桜井省司撮影、提供:株式会社LEGION)

野生動物に関しては、初歩的なことにも知識の共有を欠くのが実態です。たとえば、何らかの原因で追い詰められたトビが「死んだふり」をしてスキをうかがうことなど、野生動物の診療をする獣医師ならば当たり前に知っていなければならないことが、獣医師全体が共有する知識の基盤として存在しないのです。

野生動物に関わる獣医師は、ほんの一握りしかいません。高病原性鳥インフルエンザは、野鳥が持ち運びます。病気だけではなく、野生動物の生態も含めた知識を持つ獣医師の養成が望まれます。人と動物の共通感染症に関しては、人のお医者さんの中でも手薄な分野です。専門化が進んだ人の医学の中では、たとえばエキノコックスといっても、正しい疫学知識を持つお医者さんが意外と少ないのです。高病原性鳥インフルエンザもしかりです。

前回に続いて、「獣医学教育に対する提言」みたいになってしまいました。

北海道は秋の観光シーズンです。旭山動物園では冬に備えて冬囲いが始まり、来シーズンに向けた施設のリフォームにも着手します。冬にかけてデビューするアムールヒョウ、レッサーパンダの赤ちゃんも、スクスクと成長しています。お近くにお越しの際にはぜひ、お立ち寄りください。

坂東元
1961年旭川市生まれ。酪農学園大学卒業、獣医の資格を得て86年から旭山動物園に勤務。獣医師、飼育展示係として働く。動物の生態を生き生きと見せる「行動展示」のアイデアを次々に実現し、旭山動物園を国内屈指の人気動物園に育てあげた。2009年から旭山動物園長。
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