新ウォークマン、高音質路線でスマホと住み分け狙う
アップルが「iPod nano」と「iPod shuffle」の販売を終了するなど、携帯音楽プレーヤーの市場が冷え込むなか、ソニーはウォークマンの新製品を発表した。1979年に登場し携帯音楽プレーヤーという分野を作り上げたウォークマンは、どんなコンセプトで挑むのか。AV評論家の折原一也氏が分析する。
発表会ではスライドだけ
ソニーは9月にドイツで開催された家電見本市「IFA 2017」で、さまざまな新製品を大々的に披露した。しかし、同社の発表会で、わずかにスライドに掲載されるだけのデビューにとどまったのが、ウォークマンの新しい「A40シリーズ」と新製品「NW-ZX300」だ。
2016年のIFAでは「黄金のウォークマン」として「NW-WM1Z」が大々的にデビューしたことを考えると、エントリー・ミドルレンジの製品とはいえ、控えめな露出となった。
ポータブルオーディオ製品全体のトレンドを見ると、今、音楽を聴くための機器をけん引しているのはスマートフォン(スマホ)。ユーザーはスマホ購入をきっかけにして、さまざまな音楽周辺機器を購入するようになる傾向が強い。
特にソニーが「1000Xシリーズ」という目玉商品を投入したワイヤレスヘッドホン・イヤホン市場は、前年比200%前後という規模で拡大を続けている。
もちろん同社が推進する「ハイレゾ対応」など、高音質の訴求は一定の成果をあげており、ハイレゾ対応の携帯音楽プレーヤー、ヘッドホン、スピーカー合計で110%程度と市場は緩やかに拡大している。
しかし、携帯音楽プレーヤーの市場だけを見ると2017年は前年比87%にとどまると見込まれている。今年7月にはアップルが「iPod nano」および「iPod Shuffle」の販売を終了したことも、市場全体の需要の落ち込みを感じさせずにはいられない。
市場に逆風が吹くなかでデビューを飾ることになったウォークマンA40シリーズとNW-ZX300だが、音楽をカジュアルに聴くための主役の座を譲ったからこそ見られる差異化が、随所に見てとれる。
入門機にもさまざまな機能を投入
高音質モデルとして発売される新製品がNW-ZX300だ。ソニーはミドルレンジ機として「NW-ZX100」(約8万円)を発売しており、製品ラインアップ上はその後継となる。昨年発売されたハイエンド製品のNW-WM1A(約13万円)をベースにコンパクト化を狙ったモデルだ。
ソニー独自のハイレゾ対応フルデジタルアンプ「S-MasterHX」を内蔵しただけでなく、ヘッドホン端子は昨年からスタートした4.4ミリの「バランス接続」(従来の接続方式よりノイズに強いといわれている)にも対応。オーディオ愛好家向けにハイエンドの高音質技術をミドルレンジ機に盛り込んだというわけだ。価格は約6万5000円と、高付加価値製品として展開していくことになる。
ハイレゾウォークマンとしての入門モデルとなる、新しいA40シリーズも豪華な内容だ。
A40シリーズは、イヤホンの付属しない最安モデル「NW-A45」で2万2000円前後だが、ソニー独自のハイレゾ対応フルデジタルアンプ「S-MasterHX」に高音質ハンダという部品構成は、実は先述のNW-ZX300と同じ。またA40シリーズは付属イヤホンを接続するとノイズキャンセルも使えるが、新たに外の音が聞こえるよう調整できる「外音取り込み」機能も追加されている。
NW-ZX100と共通の仕様になる、PC接続時にUSB DACとして動作する機能も搭載。さらにワイヤレスヘッドホン・イヤホンの高音質化コーデックとして、ソニーが主導する「LDAC」に加えて、業界的には主流の「apt-X HD」にも対応。ハイレゾ対応に加えて、ノイズキャンセル、USB DAC対応と、入門モデルにもかかわらず、さまざまな取り組みがなされている。
スマホにはない付加価値を
ミドルレンジ機のNW-ZX300では、オーディオマニアを想定した超高音質。ウォークマンA40シリーズは入門モデルにもかかわらず、高音質構成、ノイズキャンセル、USB DAC、ワイヤレスと全方位で付加価値を付けたソニー。
当たり前の音楽再生はスマホで済む時代になった今、携帯音楽プレーヤー市場は、アップルがiPodでは成し得なかったスマホとの差異化にウォークマンが挑み、生き残りを掛けた形といえるだろう。日本国内では10月7日に発売を予定している。
(文 折原一也)
[日経トレンディネット 2017年9月8日付の記事を再構成]
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