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最低賃金、200円超の地域差 地方は人口流出を懸念

2017/9/26

最低賃金が全国で上がり続けている

最低賃金が上がっています。いい話のように聞こえますが、地方からは懸念の声が出始めています。どういうことでしょうか。

最低賃金は年に1回、見直されて10月ごろから適用されます。今年の見直しでは全国平均で25円増の848円に。10年前に比べて161円も高くなりました。安倍晋三政権の「一億総活躍プラン」では全国平均1000円を目指しているので今後も上がりそうです。

ですが、地域ごとにみると最低賃金の差は拡大しています。最低賃金は都道府県を経済状況で4ランクに分けて国が目安を示し、それを基に各都道府県が金額を決めます。最高の東京は958円。最低の沖縄は737円です。その差は10年前は121円だったのが、今は221円まで広がりました。1日8時間・週5日働けば、年間でおよそ46万円の差になります。

「東京一極集中を誘引しないか。制度のあり方を見直すべきだ」。福井県の西川一誠知事は6月の県議会で、フランスが全国一律の最低賃金であることに触れつつ、こう述べました。「最賃の格差が人口流出につながる」という県議の意見に応えました。岩手や長野などの地方紙も、社説などで最低賃金の差を問題視しています。

新潟県では最低賃金を話し合う会議が紛糾した結果、「関東甲信越の中で新潟が低いままでは人口流出につながる」などの観点から、国の目安よりも1円上乗せして上げることになりました。

経済学者の見方は異なります。経済産業研究所の森川正之副所長の分析によると、見かけの金額差は開いていても、物価を考慮した実質の格差は縮小しています。「住宅などの物価水準を考えると妥当な差。今まで都市部が低すぎた」と指摘しています。地方では最低賃金に近い時給で働く人が都市部より多いので、最低賃金を大きく上げると企業が雇用を減らすなどの影響が出るかもしれません。

一方で最低賃金を上げても雇用は減らないという米国の研究もあります。東京大学の川口大司教授は「引き上げの影響は地域ごとに慎重に分析する必要がある」と話します。もっと細かい地域分類や年齢による設定が必要との見方もあります。

■川口大司・東大教授「最低賃金、所得保障には不十分」

日本だけでなく、米国や英国など世界の先進国でも最低賃金を引き上げる流れが続いています。なぜでしょうか。東京大学の川口大司教授(労働経済学)に話を聞きました。

――日本の最低賃金の地域間格差が広がっています。

川口大司・東京大学教授

「2007年に最低賃金法が改正されました。その肝は生活保護との逆転現象を解消することです。生活保護費は地域によって異なります。住宅費などを考慮して、都市部では高いのです。それに合わせて最低賃金を見直していっているので、最低賃金が都市部で上がっているのです」

――全国一律になるように地方の最低賃金を上げていくとどのような影響があるでしょうか。

「まず理論的には、最低賃金を上げると雇用が失われるという説と、失われないという説の両方があります。1990年代に、雇用は失われない、という米国の著名な論文が出たことで、今は雇用は失われないという見方が増えてきています。その流れに乗って世界でも最低賃金を上げる動きが続いています。ただ、地域の経済構造によって影響は異なります。日本の地方では、おそらく雇用が失われると思われます。これは2010年初頭までの分析に基づく推測です。最新の状況は調べる必要があります」

――最低賃金を上げると失われるのは低スキルの人の雇用という側面もあります。

「そうですね。単純労働は機械に置き換えられる可能性があります。昔はファミレスで席を回ってコーヒーをついでいる人がいましたが、今はドリンクバーに替わりました。今後は宅配する人がドローンに置き換わるなどの現象があるかもしれません。賃金が上がりすぎると雇用の受け皿になっていた中小・零細企業が潰れてしまう可能性もあります」

――最低賃金は貧困対策として政治的に受け入れられやすいようです。

「最低賃金だけで所得保障政策をしようというのには無理があります。例えば、時給1000円で週に40時間、年に50週、働いても年収は200万円です。それだけで生活するのは大変です。それに上げれば上げるほど、貧困世帯に多い低スキルで働いている人の雇用が奪われる可能性があるのです。まだスキルがない若者の職業訓練の機会を減らすという研究もあります」

(福山絵里子)

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