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次期ベルリンのペトレンコ バイエルン国立歌劇で来日

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NIKKEI STYLE

世界屈指のオペラハウス、ドイツのバイエルン国立歌劇場(ミュンヘン)が6年ぶりに来日し、9月21日から29日にかけて東京で7公演を行う。演目はワーグナー「タンホイザー」とモーツァルト「魔笛」。17世紀半ばに誕生した歴史ある歌劇場とゆかりの深い作曲家2人の名作が並ぶ。だが今回の注目の的は何と言ってもベルリン・フィルハーモニー管弦楽団の次期首席指揮者・芸術監督に内定した同劇場音楽総監督の指揮者キリル・ペトレンコ氏だ。同氏の初来日で同歌劇場日本公演への関心は一段と高まっている。

世界一注目を集める指揮者によるオペラ公演

2013年から音楽総監督を務めるペトレンコ氏は1972年旧ソ連(ロシア)オムスク生まれのユダヤ系ロシア人指揮者。現在45歳の同氏は15年、世界最高峰のオーケストラといわれるベルリン・フィルの次期首席指揮者・芸術監督に選ばれ、一躍その名が世界に知れ渡った。19年に就任する予定だ。メディアの取材は一切受けず、指揮した演奏の録音もごくわずかなことから、今回の来日公演への音楽ファンの関心は最大級に高まっている。世界で最も注目を集める指揮者であることは間違いない。

17日に東京文化会館で開かれた記者会見には、3連休の真ん中の日曜日の夕方、台風が接近する最中にもかかわらず主要メディアや音楽評論家がこぞって詰めかけた。ペトレンコ氏はこの日、東京文化会館大ホールで開かれた日本で初めての指揮となるバイエルン国立管弦楽団との演奏会で、ラフマニノフ「パガニーニの主題による狂詩曲」とマーラー「交響曲第5番」を指揮した。バイエルン国立管弦楽団とはバイエルン国立歌劇場の座付きオーケストラのことであり、両者は同じである。

同オーケストラは「タンホイザー」「魔笛」の二大オペラの上演を前に、得意のマーラーの交響曲で、南ドイツ特有の豊穣(ほうじょう)なサウンドをペトレンコ氏の緻密な指揮で鳴り響かせたことになる。同じ時間にインタビュー取材が重なったため、この演奏会を会場で聴くことはかなわなかったが、東京文化会館の楽屋に「交響曲第5番」の第3楽章「スケルツォ」が流れてきたのを聴いただけでも、その豊かな響きが想像できるほどだった。

演奏会を終えてまもなく記者会見場に姿を見せたペトレンコ氏は小柄で、ボタンダウンの半袖シャツにズボンと、直前まで舞台に立っていたことを全く感じさせないカジュアルないでたちだった。できる限り自分自身に注目を集めたくない、というペトレンコ氏の強い思いの表れのようにも見えた。同席したバイエルン国立歌劇場総裁のニコラウス・バッハラー氏も、ペトレンコ氏の来日が決まって以来、インタビューの申し込みが殺到したが、一つも受けなかったことを明かした。メディアのインタビューを受けない状況は地元ドイツでも同じのようだ。

それだけに質問はペトレンコ氏に集中した。その答えからペトレンコ氏の音楽に対する信念が伝わってきた。「リハーサルを一番大事にしている。リハーサルでオーケストラと一つになることが重要だ」という発言は印象深い。演奏本番では指揮者のすることが少ない方がいいとの考えだ。彼の実力と知名度の割に今なおレコーディングが少ないことについては「ライブ演奏が重要と考えているからだ」と理由を語った。

緻密な指揮と入念なリハーサルを歌手が称賛

一方、共演する歌手たちの目にペトレンコ氏はどう映るのか。多くが指摘するのは「緻密」であることだ。「タンホイザー」で題名役を務めるクラウス・フロリアン・フォークト氏は「とにかく緻密で、リハーサルでも納得できなければ何度でも同じ箇所を繰り返す。その入念な準備が本番に生きていると実感できて、とてもやりがいがある」と評価する。

ドイツを代表するバリトンで、今回の「タンホイザー」ではウォルフラム・フォン・エッシェンバッハ役を演じるマティアス・ゲルネ氏は「これほど楽譜を正確に読みとる人はいない」とペトレンコ氏を称賛する。同じロシア出身のソプラノでヴェーヌス役のエレーナ・パンクラトヴァさんは「1分の無駄もない、正確なリハーサルでの準備」をこの指揮者の特徴に挙げるなど、リハーサルでの入念な準備には歌手も一目置く。

そんなペトレンコ氏が今回指揮する「タンホイザー」への期待は大きい。公演初日の3日前、東京・渋谷のNHKホールで行われた「タンホイザー」のリハーサルをのぞいた。「舞台美術と演出の魔術師」と呼ばれるイタリア人のロメオ・カステルッチ氏が手がけ、今年5月に完成したばかりの新しい演出だ。壮麗な序曲が奏でられるなか、トップフリー(上半身裸)の射手たちが登場し、大写しになった目に向かって一斉に矢を放つ。トップフリーの表現は現代欧州の自由思想の反映とみられ、加えて射手であることは、のちの「ワルキューレ」にもつながるワーグナー好みの強い女性が描かれているとも解釈できそうだ。

ヴェーヌスの肉欲まみれの異界を描く第1幕は、官能的というよりも滑稽なほどグロテスクで奇抜な演出であり、賛否が分かれるところだろう。しかし度を越えた異界ぶりだからこそ、第2幕でタンホイザーとエリーザベト(ソプラノのアンネッテ・ダッシュさん)が再会し、第3幕で彼女の死によってタンホイザーが罪から救済されるという感動ドラマが大きく浮かび上がるともいえる。オーケストラは弦楽器を中心にどこまでも流麗に鳴り渡り、浮き上がるようなかすかな弱音での響きは官能とロマンの繊細な表現に合っている。

タンホイザー役のフォークト氏は人気テノールで、「ローエングリン」など多くのワーグナー作品に出演してきたが、いよいよ日本でもタンホイザー役に挑む。

「何年も前からタンホイザー役のオファーはあったが、まだ早いと断り続けてきた。今、バイエルン国立歌劇場とペトレンコ氏と共に演じる機会が得られて、この時まで待っていたのは正しかったと喜んでいる。タンホイザーはとてもドラマチックで力強いキャラクターの持ち主な上、何せ出番が多く歌も長い。ランナーがマラソンを走るには十分な準備をしなくてはならないように、この役を引き受けるには時間をかけた準備が必要だ。自分の声が、タンホイザーを歌う準備ができたと知らせてくれたので、引き受けた」

最新演出の「タンホイザー」と伝統の「魔笛」

衣装から舞台装置まで本番同様の通し稽古(ゲネプロ)で、フォークト氏はタンホイザー役の苦悩とは裏腹に、楽々と伸びやかな歌声を披露した。一方、ペトレンコ氏はオーケストラの演奏や歌手の歌にも細かい指示を出しながら、気に入らないと演奏を止めては入念に音を確認していた。音楽だけでなく舞台にも目を光らせていて、あるシーンでは照明が暗くて演者とコミュニケーションが取れないと注文を付け、急きょ照明の調整が行われる場面もあった。

全幕を通しての演出についてフォークト氏は「まるで絵の展覧会のように様々な場面が描かれていてユニークだ。物語を伝えるというよりは、見る人が想像力を働かせ、自由に解釈できるつくりになっている」と解説する。170年以上前に初演されたドイツロマン派オペラの傑作が、最新の奇抜な演出でどのような姿に変わるのかも見どころの一つだ。

出演者が記者会見した「タンホイザー」とは対照的なのがもう一つの演目「魔笛」だ。1978年の演出のままに上演される。新しく制作される作品が多いバイエルン国立歌劇場でも例外で、あまりにも観客に愛されているため変えられないのだという。王子タミーノ役のダニエル・ベーレさんは「作品のイメージ通りの舞台が作り上げられている、観客の期待に応えられる演出だ」と評価する。主役の一人、王女パミーナ役のハンナ=エリザベス・ミュラーさんは「おとぎ話のようなストーリーで、舞台も夢の世界が描かれていて本当に美しい」と話す。

「魔笛」を指揮するのは、オペラとオーケストラの演奏ともに評価が高いイスラエル生まれのアッシャー・フィッシュ氏。「魔笛」ではペトレンコ氏は音楽総監督として監修するにとどまる。ただ、ミュラーさんはペトレンコ氏についてかつて自身が体験したエピソードを聞かせてくれた。

「何度かペトレンコ氏の指揮するオペラに出演してきたが、彼のような指揮者は珍しい。どんな音が欲しいのか、明確なイメージを持っていて、そこに近づくための緻密な準備を欠かさない。通常はオペラ公演の準備に6週間ほどかかるが、このうち最初の4週間は演出家と舞台上での動きを確認し、残る2週間で指揮者が加わって歌やオーケストラを合わせていく。ところがペトレンコ氏は練習初日から最後まで、6週間ずっとリハーサル現場にいる。おかげで最初から音楽と合うような動きの演出になり、とてもやりやすい」

ミュラーさんはさらに語る。「十分に準備しているので、本番でステージに上がっても安心して演じることに専念できる。精神的に余裕があるので、自分なりのアイデアや表現を加えることもできて、それが舞台上で共演者やオーケストラとうまくかみ合うと、花が開くように特別な空気が生まれる時がある。その感覚は観客にも伝わるようで、演奏が終わっても舞台の余韻でしばらく静まり返っていて、それから一気に拍手が湧き起こる。そんな瞬間が生まれるのが、ペトレンコ氏のつくる舞台だ」。「魔笛」が伝統的な演出の中からどんな新鮮味を出すかも注目点だ。

キリル・ペトレンコ氏が記者会見で初めて語る

最後に、貴重な肉声となったペトレンコ氏の17日の記者会見での発言をほぼすべて紹介する。ロシア出身のペトレンコ氏は、日本人には比較的聞き取りやすい明瞭な響きのドイツ語で語った。

(まずあいさつを求められて)「皆さまこんにちは。私は今ここに座ることができてとてもうれしく思っている。私の今までの人生のうちで初めて日本を訪れた。来日して今日(17日)で4日目だが、本当に素晴らしい国だと思う。東京の街も人もすてきで、食事が最高においしい」

「今回はオペラだけでなくコンサートも開き、バイエルン国立歌劇場のレパートリーを幅広く見て聴いてもらう機会を得た。モーツァルトとワーグナーのオペラに加え、今日はマーラーの交響曲も聴いてもらったが、これはバイエルン国立歌劇場が主軸にしている作曲家の作品だ。それに今回は超一流の歌手と一緒に日本公演を行うことができる。皆さんの期待を裏切ることなく、日本公演ができると信じている」

「私は今回初めて来日できたことが本当に名誉だと思っている。これまでのバイエルン国立歌劇場日本公演の長い歴史の中で、その一部を私が音楽総監督を務めている期間中に実現できたこと、ミュンヘンのオペラとこうして来日できたことがうれしい」

10月1日にNHKホールで開かれるNHK音楽祭ではペトレンコ氏の指揮でバイエルン国立管弦楽団がワーグナーの楽劇「ワルキューレ」第1幕を演奏会形式で上演する。「タンホイザー」出演のフォークト氏、ゲルネ氏、パンクラトヴァさんらがこの「ワルキューレ」でも歌う。

――演奏会形式「ワルキューレ」公演への意気込みは。

「楽劇『ワルキューレ』の第1幕をコンサート形式で演奏する。ただし私はこうしたオペラの1幕をコンサート形式で演奏する際には、オペラとして演奏することを必ず想定して指揮している。ワーグナーはよくいわれるように総合芸術としてこのオペラを書いている。だから本当は(音楽や美術や演劇などすべてを含む)総合芸術として演奏すべきだと私は思っている。しかし『ワルキューレ』の第1幕に関しては、コンサート形式もとても良いものになると思っている」

――音楽について信条としていることは何か。

「信条と言っても特別のものはないが、私はリハーサルでも公演でも、とにかく音楽に真摯に向かい、十分な時間をかけて準備する。十分なリハーサルをしてその作品の公演に取り組んでいる。だから私の信条を挙げるとしたらリハーサル、これが一番大事ということかもしれない」

「リハーサルの段階でオーケストラと一つになることが大事だ。準備をしっかりして、本番の際にはできるだけ指揮者はすることが少ないほうがいい、というのが私の考えだ。実際のコンサートでの指揮者の役割は、単に音楽を聴き手に伝える役割、橋渡しの役割だけだと思っている」

――レコーディングが少ない理由は何か。

「録音よりもライブでの演奏・上演のほうがより重要であり、価値があると考えている。ライブでは音楽の生き生きとしたところが出る。そしてその時その場にしかない音楽の状態がライブで創り出される。やはり音楽はライブであるべきだ。(やり直しや調整が利く録音のような)確実すぎる状態で音楽をすべきではないと思う」

――インタビューを受けない理由は。

「様々な理由があるが、いちばん大切な理由は、やはり私は自分の仕事について語らないほうがいいと思っているということだ。指揮者は指揮台から自分の仕事を音楽を通じて聴き手に語るものだ。だから仕事についてはできるだけ語らないようにしている。私の仕事にはできるだけ秘密があったほうがいい」

新たにつくり上げられた「タンホイザー」と、伝統の魅力を伝える「魔笛」。まだまだ「秘密」を抱え続けるつもりのペトレンコ氏だが、ひとまず厚い「秘密」のベールを脱いで日本に姿を現したのは確かだ。世界一流のオペラハウスであるバイエルン国立歌劇場の音楽家やキャストでつくる今回の舞台は、オペラの魅力を様々な角度から伝える見逃せないものになりそうだ。

(映像報道部 槍田真希子、シニア・エディター池上輝彦)

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