有機ELテレビ比較 同じパネルでも際立つ4社の個性
「年の差30」最新AV機器探訪
「次世代のテレビ」といわれる有機ELテレビ。2017年に東芝、ソニー、パナソニックが製品を発売したことで、有機ELパネルを生産しているLGと合わせて4社の有機ELテレビが店頭に並ぶようになった。オーディオ・ビジュアル評論家の小原由夫氏によると、それぞれのテレビにはメーカーごとの特徴があるという。実際に実機を確認すると、メーカーごとの得意分野があることが見えてきた。
パネルは同じでも際立つ個性
小沼理(平成生まれのライター) 有機ELテレビのパネルは、国産3社もLG製のものを使っていると聞きました。ですが、家電量販店などで見比べると、それぞれに映る映像が違うように思います。なぜでしょう?
小原由夫さん(昭和世代のオーディオ・ビジュアル評論家) 各社が画質エンジン(映像を高画質化する回路)を変えることで個性を出しているんです。車のボディーは一緒だけどエンジンは違う、というイメージでしょうか。
小沼 それぞれ、どんな特徴があるのでしょうか。
小原 黒の濃淡がしっかり表現できているのがパナソニック。ソニーは反対に明るいシーンが得意で、東芝は細やかな色彩表現が得意。LGはデザインコンセプトや音響が素晴らしいです。
小沼 では、メーカーごとにお話を聞きましょう。
夜のシーンがきれいなパナソニック
小沼 まずはパナソニックです。「黒の濃淡がしっかり表現できている」とのことですが、黒がくっきり表現できるのは、そもそも有機ELの特徴ですよね(前回「有機ELは液晶と何が違う? TVの進化と未来を探る」参照)。「電源をオフにしたような」と言われるくらいだし、どのくらい差が出るのかと思うのですが……。
小原 「どの段階でオフにするか」で違ってくるんですよ。パナソニックはその点にこだわっている。僕も感心しました。
小沼 黒の描写が得意ということは、向いている映像は?
小原 夜のシーンがきれいに映りますね。デモ映像では、月明かりの中で忍者が戦う映像が流れていました。暗闇の中で、刀の刃と忍者の瞳がキラリと光る。黒の濃淡をしっかり表現できていると思います。
小沼 僕が見たのはディズニー映画「モアナと伝説の海」ですが、たしかに夜の海のシーンが一番印象に残っています。誰もいない海辺でモアナが見上げた星空が、ハッとするほどきれいでした。
床置き型のソニーはライフスタイルを変えるか
小沼 僕が一番気に入ったのがソニーでした。床に置いて使うようなデザインは斬新です。
小原 キャッチフレーズは「Slice of Living」。生活を切り取るという意味だそうですが、新しいライフスタイルをイメージさせます。
小沼 LGの取材では、映像のきれいさ以上に、薄さや軽さ、曲げられるといった点に有機ELの革新性を感じました。だったら、それがデザインにも落とし込まれているほうがいいと思います。ソニーは1枚の板みたいでかっこいいですね。
小原 ソニーは音の出し方もユニークです。
小原 スピーカーをパネルの後ろ側にくっつけて設置し、パネル自体を振動させてスピーカーとして使っているんです。これは有機ELのシンプルな構造だからできたこと。ステレオ音声のL/Rチャンネルもきちんと振り分けられています。
小沼 最近のテレビは薄さを追求した結果、スピーカーを下向けにつけることが多く、音が悪くなるという話を聞いたことがあります。
小原 ソニーはそれを解消しようとしたわけですね。一般的な液晶テレビのスピーカーよりはずっと自然です。外付けの高級スピーカーとくらべると質は落ちますが、スピーカーを本体横などに設置するより、デザインのインパクトをとったということでしょう。
小沼 映像はどうでしょう? ソニーも「モアナ」の映像で見ましたが、色味がパナソニックとくらべ鮮やかで、昼の海の透明感にも引きつけられました。
小原 明るいシーンのメリハリが利いていますよね。輝かしさやまぶしさはソニーの独壇場だと思います。
細やかな色彩表現にたけた東芝
小原 東芝は4社の中で、色の濃密さが一番です。ソニーやパナソニックにくらべると、色数が増えたように感じるほど細かな色彩表現ができます。
小沼 東芝は熱帯雨林の映像やアマゾンにひそむカラフルな鳥の映像が流れていました。
小原 夜の遊園地のような、いろいろな色彩がある映像がいいですよね。同じ赤でも光沢のある赤、ちょっと影になっている赤など、濃淡を細かく表現できますから。
小沼 そのお話を聞くと、東芝が一番すぐれているということでしょうか。
小原 そんなことはないですよ。黒の鮮やかさはパナソニックが勝りますし。ただ東芝は画質エンジンのパラメーターをすごく細かく設定している。それで繊細な色の表現ができるんです。「アラビアのロレンス」みたいな映画を見るときにいいですよね。中東の民族衣装や、自然の色味が堪能できるので。
「壁貼り」コンセプトと音響が強みのLG
小沼 最後はLGのハイエンドモデルW7P。僕はやはり「壁掛け」ならぬ「壁貼り」のスタイルが衝撃的でした。
小原 パネルの製造元ではありますが、正直、映像の質としては3社にやや劣ると思います。ただ僕ら評論家のように重箱の隅をつつくような見方をしない、一般の人たちが見るには十分なクオリティーです。それに壁貼りの先進性は、映像のマイナスを補ってあまりあるもの。最近はデッドスペースを有効に活用したいという人が多く、壁掛けテレビの需要が大きく伸びていますから。
小沼 ソニー同様、リビングの作り方まで変えそうですね。
小原 あとLGのW7Pシリーズは音響が素晴らしいんです。
小原 W7PシリーズはDolby Atmosという映画館でも使われている音響システムを採用しており、サラウンドの効いた、迫力ある音が出る。パネルとスピーカーを分離させることで、パネルの薄さだけでなく音響のクオリティーも獲得しているんです。
テレビは「嗜好品」化が進む?
小沼 ちなみに小原さんが「ラ・ラ・ランド」を見るなら、どれを選びます?
小原 「ラ・ラ・ランド」に限定すれば東芝かな。僕はあの映画、好きじゃないですけど(笑)。新旧の映画全般という意味で万能なのはパナソニックだと思います。小沼さんが買うとしたら?
小沼 僕はソニーでしょうか。やっぱりデザインにひかれます。ただ最小の55インチでも僕の部屋には大きいなあ。もう少し小さいものがあればいいんですが。
小原 現時点では、古い液晶からの買い替えニーズに対応するのが先決なので、小型化するメリットがあまりありません。それでもゆくゆくは40型程度まで広がってくるでしょう。4Kや、4Kの次世代技術といわれるHDR(High Dynamic Range)に対する適合性という点で有機ELは大きなアドバンテージを持っています。最新の映像作品を有機ELでじっくり見れば、きっと小沼さんも大画面有機ELテレビがほしくなりますよ。
生活必需品ではなく嗜好品に
以上、4社の有機ELテレビを比較した。それぞれ個性はあるものの、どれも色彩表現の美しさ、大画面の迫力は共通して魅力的だった。
しかし、大画面ゆえにサイズが大きく、一人暮らしの広くない部屋に置くことは想像しにくかった。小原さんの言うとおり、今後40型程度まで小型化したものが登場する可能性もあるが、大画面も有機ELテレビの魅力の一つ。そして、世界的にはそれが受け入れられている。
前編で話を聞いたLGエレクトロニクス・ジャパンの金敬花(キム・キョンファ)さんは「日本はテレビから離れる人と、高画質で大型のテレビを持つ人と二分化していく」と指摘していた。今後、テレビは生活の必需品ではなく、嗜好品になっていくのかもしれない。
嗜好品としての魅力は、VODのインフラが整備されることでも高まっていくだろう。その時、日本でも有機ELテレビの真価が問われることになりそうだ。
(ライター 小沼理=かみゆ)
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