活躍の場に年齢は関係なし 世代間の断絶深刻化に思う
ダイバーシティ進化論(村上由美子)
毎年9月の敬老の日。この国民の祝日が制定された半世紀前の日本では人口の6%が65歳以上の高齢者だったが、今では4人に1人。さらに半世紀後には日本人の4割が高齢者になり、それをほぼ同数の現役世代が支える形となる。
日本のように儒教の影響を受けた国は、欧米諸国よりも高齢者を敬う傾向が強い。高齢者から学ぶべきことは多くあろうし、社会や家庭への長年の貢献に感謝の意を表すことに異論を唱える人は少ないだろう。しかし現実には、世代間の断絶は深刻化している。高齢化社会に伴う財政負担を背負う若者は「逃げ切り世代」と呼ばれる高齢者に対し反感を感じ始めている。
終身雇用や年功序列に縛られた硬直的な雇用慣行を盾に、既得権を手放さない昭和世代。他方で若年層や子育て世代は経済格差が拡大している。日本の子どもの貧困率はすでに先進国平均を上回り、特にひとり親家庭の貧困率は56%と、経済協力開発機構(OECD)加盟国中最悪である。このような現状下で、ミレニアル世代が高齢者層に対し素直に尊敬の念を抱けなくなりつつある。
保育や教育など次世代への社会保障を拡充させ、受益者のバランスを世代間で調整する方法もある。しかし、世代間格差の最も有効かつ抜本的な解決は、年齢という要素が個人の活躍の機会を限定しない環境づくりではないだろうか。年功序列が有能な若者の昇進を妨げる職場では、人材活用の最適化ができず、企業価値の低下要因となりうる。若手は実績をあげても報酬や昇進が限定されるため、社会および経済階層の上昇移動は当分望めない。
年齢ではなく能力に基づく成果が昇進の最大要因となるのが機会平等社会だが、その実現には労働市場の流動性を伴う構造改革が必要だ。成果主義や自由競争の導入で「負け組」入りを恐れる中高年代にとっては気乗りしない話かもしれない。しかし年齢の呪縛から自由になれるのは老若同じだ。能力と体力があれば高齢でも容易に転職でき、定年に縛られず活躍できる。
まずは、職場での「X年入社の××です」という挨拶からやめよう。できれば、採用面接で年齢を聞くこともやめよう。私は寄稿の際に年齢を記載するのをやめさせてもらった。年齢の呪縛から日本を解放することに一役買ってくれた人生の先輩にこそ、敬老の日には、深く感謝したい。
経済協力開発機構(OECD)東京センター所長。上智大学外国語学部卒、米スタンフォード大学修士課程修了、米ハーバード大経営学修士課程修了。国際連合、ゴールドマン・サックス証券などを経て2013年9月から現職。米国人の夫と3人の子どもの5人家族。著書に『武器としての人口減社会』がある。
[日本経済新聞朝刊2017年9月18日付]
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