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東京案内ボランティア さびついたスペイン語で困った

立川談笑

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NIKKEI STYLE

前2週の弟子たちのマクラ話を受けて、いよいよ師匠である私の番です。テーマは「困ったこと」。

今回は、「日本で困っている外国人観光客を助けようとしてみた。東京駅スペシャル」として、私の経験を話します。

移動に便利な鉄道は私も頻繁に利用します。駅の表示は丁寧に分かりやすく工夫を凝らしてあるし、外国語表記も格段に増えました。先日、都営地下鉄の券売機を見て、外国語対応の充実ぶりに驚きました。英語、中国語、韓国語。さらに台湾向けの中国語(繁体字)、スペイン語、フランス語、タイ語。すごい!

そこまで充実していても、まだまだ困っていそうな外国人観光客を見かけることって、結構あります。渋谷と北千住、これは私がいつも乗り換えで迷う駅です。東京に住む日本人の私が困るんだから、初めて訪れた外国人はどれほど困っていることか。

東京駅の八重洲口でデイバッグを背負ったお兄ちゃんが、ひたすら路線図とにらめっこしていました。彼はアフリカ系の米国人。私は英語も話す日本人。

「こんにちは。どこに行きたいんですか?」

「あのぉ、ここから近いはずなんですが。どうしても築地駅が見つからないんです」

「ああ、いま見ているこれはJRの路線図。築地は地下鉄の駅だから、東京メトロの駅にいらっしゃい」

これは、東京案内ボランティアとしての私がまともに機能したときの話です。考えてみれば、東京都内だけでもJR東日本、東京メトロ、都営地下鉄、私鉄各線とあって、駅には基本的に、それぞれの会社の路線だけが表示されています。あれはずいぶん不便なものだなあ、と思います。とはいえ、都内の鉄道各社すべてを1枚に網羅したら、それは膨大な駅の数になってしまうし、便利な乗り換えアプリでちょちょっと検索すればいいのに、とも思うのですよ。でも、それだったらあの駅に掲示している「わが社限定」の路線図の意義は何なんだろうと。

また、同じ地域でありながら別の会社の線に乗り換えるたびに初乗り運賃がかかるのは、私たちには当たり前ですが、外国人はなんだかモヤモヤすると聞いたことがあります。この点、海外の都市によっては、範囲限定で電車もバスも会社に関係なく、何日間乗り放題きっぷなんていう、便利なシステムがあるそうです。

これも東京駅でのことです。こっちはちょっと失敗した話。東海道新幹線のホームでアメリカ人っぽい親子連れに声をかけられました。困り顔のパパが新幹線の切符を出して、

「これは何番線の何号車に乗ればいいんですか」

券面にこまごまとした文字が並んでいて、鉄道に詳しくない私には、一見して全く理解できない内容でした。おやおや。今度は私が困っちゃった。大きめの字で「指定特急券」と記載があるのに、列車名も発車時刻も書いてない。指定といいながら、号車や座席の番号もありません。

「ちょっと待ってくださいねえ」

券面の文字と格闘することしばし。

「うーん。私にはお手上げです。駅員さんに聞いてくださいな」

この日本人は切符の日本語すら理解できないのですよ。わはは。情けないけど、駅員さんに任せたのは我ながら賢明な判断でした。後でよく考えたら、どうやらあれは指定席の回数券か何かだったようです。たぶんあの親子はその後、いったん改札を出てみどりの窓口なりでオープンの回数券から乗車を確定させた指定券に改めて、夢の超特急で名古屋なり京都、大阪なりに楽しく出発したことでしょう。

今や新幹線の切符にも外国語表記のものがあるそうです。それでも、たとえば旅行業者が間に挟まって「ちょっとでも安いプランがありますよっ」てんで、格安で入手した回数券を手配したとします。その結果、切符は日本語表記だけで外国人にはまるで使い方が分からない、なんてことになっているのかもしれません。もっとも、予備知識もなしにいきなりあの券面だけ見せられたら、日本人だってよく分からないもの。

 最後にもうひとつ。これは完全に失敗したパターン。別の日に、やっぱり同じ東京駅の新幹線ホームでのこと。60歳代くらいのおばちゃんが一人でJRの職員さん数名を相手に、何やらエネルギッシュに訴えていました。見た目はメキシコだとかベネズエラだとか、そんな中南米から来た観光客。興奮したおばちゃんがまさに口角泡をとばすばかりの勢いでしゃべっているのは、スペイン語です。この日本では英語をしゃべる人はいても、スペイン語はなかなか通じません。職員さんたちも激高するおばちゃんを前に、一様に困り顔でした。

ところが、私は少々スペイン語をかじったことがあるのです。学生時代、語学として履修しました。それも、厳しい先生だったなど事情があって、当時は英語よりもスペイン語の方が得意という特殊な学生でした。そんなスペイン語とも疎遠になって30年。すっかりさび付いてはいますが、いくらかは分かります。

「スペイン語もごぶさただから、もう今は助けてあげられないよ」

と、マシンガンのようにまくしたてるスペイン語のリズムだけを聞くともなく聞いていました。

その時、「オイ(今日)」「マニャーナ(明日)」という、ごく基礎的な単語につられて思わずそっちを見た瞬間、おばちゃんとまともに目が合いました。

「いかん!」

慌てて目をそらしましたが、おばちゃんは「日本でやっと、私の言葉を理解する人を見つけた」とばかりにかけ寄ってきて、今度は私に向かって猛然と何ごとかを力説し始めたのです。ターゲット変更。いよいよラテンの血がたぎるのか、興奮したおばちゃんは目に涙をためて私に力いっぱい訴えかけます。ところが、私ときたらほとんど意味が分からない。それでもおばちゃんのスペイン語はなおもヒートアップする一方です。「なに? なに? このおばちゃんの確信ぶりはいったい何だ?」と思ったら、原因は私でした。

「スィ。スィ。ベルダ?(Si . Si . Verdad ?=はい。はい。本当?)」

なんて、おばちゃんにスペイン語で相づちをうっていたのです。

要するにおばちゃんの主張としては、「今日乗るはずだった新幹線の切符を紛失してしまった。駅の窓口で紛失届を出したのだけど、やっぱりどうしてもその新幹線に乗りたかったのだ」と。まあ、これは職員さんが私に教えてくれたのだけど。で、さらに職員さんによると「このお客さんは、もうどうにもならないことは自分でも承知しているんだけど、感情的に収まりがつかなくて、私たちに訴えているだけなんだ」と。

「ですから、お引き取りいただいて大丈夫ですよ」

職員さんにうながされて、私が少しずつ立ち去ろうとすると、おばちゃんは逃がすものかと追いすがって、ますますスペイン語をまくしたてます。そんなおばちゃんを職員さんたちは3人がかりで両側からガッチリと押しとどめると、すばやく私に言いました。

「いいから、早く逃げて!」

おばちゃんは涙を流しながら、もはやこの世の終わりのような表情です。この場に何かふさわしい言葉を探し続けていた私の脳裏に、ひとつのフレーズが浮かびました。

「ディスクルパメ!」

ふう。まもなく出発した新幹線のシートで、さきほどの嵐のようなひとときを思い返しました。さっき、とっさにおばちゃんに言ったスペイン語、どんな意味だっけ。確か…。

「ごめんなさい」

ううむ。間違っちゃいないが、困ったもんだ。

 ◇   ◇   ◇

次回は、「危なかったけど、助かった」。ヒヤリハット話を聞かせておくれ。笑二から、行ってみよう!

(次回9月24日は立川笑二さんの予定です)

立川談笑
 
1965年、東京都江東区で生まれる。海城高校から早稲田大学法学部へ。高校時代は柔道で体を鍛え、大学時代は六法全書で知識を蓄える。93年に立川談志に入門。立川談生を名乗る。96年に二ツ目昇進、2003年に談笑に改名。05年に真打昇進。古典落語をもとにブラックジョークを交えた改作に定評がある。十八番は「居酒屋」を改作した「イラサリマケー」など。

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