英首相訪日 浮かんだ日本株高の予感(武者陵司)武者リサーチ代表

英国のメイ首相(左)はNSCの特別会合にも参加した(8月31日午後、首相官邸)
英国のメイ首相(左)はNSCの特別会合にも参加した(8月31日午後、首相官邸)
「強固な米国との関係に加えて英国との協力加速は日本にとって大きな意味を持つ」

英国のメイ首相が8月末に来日し、安倍晋三首相とともに安全保障や経済協力をうたった日英共同宣言を発表した。北朝鮮の弾道ミサイルが日本の上空を通り越した直後であり、同時に北朝鮮に対する非難の声明も出された。強固な米国との関係に加えて英国との協力加速は日本にとって大きな意味を持つ。浮かび上がるのは長期的な日本株高のシナリオだ。

日本を選んだメイ英首相

メイ氏は首相就任後初めてのアジア訪問に中国ではなく日本を選んだ。就任以来10年にわたってほぼ毎年中国を訪問しながら日本には2回立ち寄るだけであったドイツのメルケル首相とのコントラストが際立つ。

欧州連合(EU)離脱決定後の英国にとって、日本の戦略的重要性が大きいとの認識によるものであろう。経済面では約1000社の日本企業が英国に進出しており、16万人の雇用を生み出している。EU離脱後も日系企業が英国にとどまってくれることは極めて重要である。また、英国がめざす日本との自由貿易協定(FTA)締結は、EU離脱後の英国の世界戦略の基軸にもなり得る。

英国の経済構造の特徴は(1)世界で最もサービス業化・脱工業化が進んだ経済(例えば、雇用に占める製造業の比率は8%と先進国で最低、銀行の資産規模の対GDP=国内総生産=は800%と世界で断トツ)、(2)世界で最も開放が進んだ経済(例えば、海外から英国への直接投資の対GDPは70%と世界最高)――が挙げられる。

このため、英国はサービス輸出と直接投資で巨額の貿易赤字をカバーするという国際収支構造を持つ。これほどまでに開放的経済大国化した英国が、ブレグジット(英国によるEU離脱)が現実化したからといって、ちまたで語られるような閉鎖主義、排外主義に陥るとは考えられない。

むしろ英国はEU以外の諸国・地域との連携を強め、別な形でのグローバリゼーションの深化を図るであろう。いうまでもなく今後の世界経済成長をけん引する地域・国は、米国、インド、東南アジア諸国連合(ASEAN)、アフリカなど非EU圏にある。大英帝国の遺産である英連邦を基礎とした国際的ネットワークの翼をそれらの国・地域に広げるという選択肢が浮上してくるとすれば、EU側も離脱後の英国を冷たくあしらうわけにはいかないだろう。

今回のメイ首相訪日で際立ったことはその安全保障重視の姿勢であろう。滞在中、メイ氏は海上自衛隊横須賀基地を訪れ、護衛艦「いずも」に乗艦した。また、安倍首相が主催する国家安全保障会議(NSC)の特別会合にも出席した。さらに、共同宣言では英国の空母のアジア派遣、2020年に運用が開始される新鋭空母「クイーン・エリザベス」を南シナ海に派遣するなど、アジア太平洋地域に対する英国関与の強化方針を鮮明にした。南シナ海などへの中国の海洋進出をけん制する狙いがあることは明白である。

英は米と並ぶ世界秩序の国

日本と英国は法の支配、自由と民主主義、人権擁護などリベラルデモクラシーの価値観を共有している。また、日本と英国は航海の自由を尊ぶ海洋国家でもある。トランプ政権により米国の国際的プレゼンスが一時的に低下している中での日英協力は、大きな意義を持つ。

グローバリゼーションの主要素である資本主義、市場経済、民主主義の母国は米国とともに英国である。英語、諸法体系、ビジネスプロトコル(手順)も含めて米国と世界秩序の双璧を成し、多様な国際関係の中核国である。

トランプ政権の世界戦略軸が定まれば、米、日、英という戦後のリベラルデモクラシー擁護の国際連携が見えてくるはずだ。メイ首相訪日は、国際秩序を書き換えようとする中国、ロシアなどの勢力に対する対抗軸の構築として歴史的意義を持ってくるかもしれない。

安倍政権の改革の推進力に

強固な日米関係に加えての日英協力は、日本にとって世界の秩序を決めている米英両国のパートナーとしてのポジションを強化する。近代日本の経済繁栄は地政学、つまり世界秩序を支配するスーパーパワーとの関係性に依存してきた。例えば、近代日本黎明(れいめい)期、明治時代後半から大正時代の繁栄は日英同盟が、戦後日本の繁栄は東西冷戦の下での日米同盟が基盤となった。

地政学の観点からすると、米英との良好な関係は近代日本が第3の繁栄期に入りつつある兆しとも考えられるのでないだろうか。安倍政権が安定すれば、政権が取り組む構造改革の強い推進力になる。これは大きく向上した日本企業の稼ぐ力とともに、日本株高を長期的に促すファクターに他ならない。

武者陵司
武者リサーチ代表。1949年長野県生まれ。73年横浜国立大学経済学部卒業。大和証券入社。企業調査アナリストを担当。大和総研アメリカでチーフアナリスト。97年ドイツ証券入社、調査部長兼チーフストラテジスト、2005年副会長。09年武者リサーチ設立。著書に「超金融緩和の時代」(日本実業出版社)など。
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