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転ばぬ先の不動産学

築54年の空き家、再生できるか 賃貸で投資を回収へ 不動産コンサルタント 田中歩

2017/9/20

空き家の前にプランターを置き、住民が野菜を育て「食べられる景観」をつくる

 人口減少や新築増加の流れの中、空き家が増えています。2013年時点での全国の空き家は約820万戸、空き家率にすると13.5%にものぼり、東京都区部でも10%を超えるところが多く、全国平均を上回る区さえあります。都心、郊外に関係なく、空き家は全国的な問題となっているのです。空き家が増えると防犯上のリスクが高まるだけでなく、街の雰囲気が見た目にも悪くなります。それなのになぜ、空き家のまま放置されるのでしょうか。

東京都都市整備局「空き家の現状と取り組み(資料集)」から筆者抜粋

■解体すると大幅な増税に

 住宅の場合、建物を解体してしまうと固定資産税や都市計画税の軽減が受けられなくなり大幅な増税となりますし、誰かに貸そうと思っても修繕や改修の費用がかかってしまうこともあります。また、空き家の所有者が経済的に逼迫しているといった事情がなければ、売る必要がありません。結果として空き家は放置されたままとなってしまうのです。こうした中、筆者はこれまで何件かの空き家の再生に携わってきました。

白い外壁の建物が再生に取り組んでいる空き家。なんと築54年

 現在取り組んでいるのは、JR常磐線松戸駅から徒歩5分ほどの場所にある、なんと築54年の木造店舗兼住宅で、1階が約14.5坪、2階が約7.5坪という小さな空き家です。写真の通り、この空き家は非常に古く、劣化が相当進んでいます。外壁はひび割れ、雨漏りしている箇所もあり、シロアリによる食害が激しいところも散見されます。1963年(昭和38年)築ですから、旧耐震建物となり、大きな地震で倒壊する危険性もあります。

■改修工事などに600万円

 調べたところ、外壁と屋根の修繕、耐震改修工事、柱や土台のうち食害がある部分の交換で約600万円程度かかることがわかりました。当然、風呂やキッチン、そのほかの内装をすべて最新のものに変えるとなれば、もっと費用はかかります。下手をすると建て替えたほうがよいという判断もあるかもしれません。しかし、建物は駅までの通勤・通学路に面していて人の往来が多い場所にあるため、店舗や街の「交流ステーション」としての機能を果たせると考えました。つまり、上手に運用すれば一定の収入が得られる立地なのです。約600万円の投資で建物の屋根、外壁、主要構造部分、耐震性能は問題のないレベルに再生できます。15年に1回程度、防水などのメンテナンスを実施すれば、あと20年でも30年でも使えるのが木造建築物なのです。

外壁モルタルのひび割れ。雨水が内部に浸透
食害を受けている柱
小屋裏の雨染み。雨漏りが疑われる

 店舗として賃貸するのであれば、風呂やキッチンなどの設備は不要ですし、内装もテナントが自己負担で施工するのが普通です。この建物は少なく見積もっても月額12万円程度の家賃で貸すことができそうです。管理費や公租公課などの賃貸経費を2割程度とし、10年間賃貸するとすれば、年間の税引き前利益は約115万円。投資回収期間は600万円÷115万円で約5.2年、直接利回りは約9.2%((年間税引き前利益115万円×10年-600万円)÷10年÷600万円)となり、採算としては決して悪くないのです。このまま放置するより、あるいは600万円で下手な投資商品に手を出すより、よほどよいといえます。

■空き家を借り、転貸で投資回収へ

 このような採算性でも、一般に所有者の方は自ら投資することに二の足を踏まれます。本当に賃借人が現れるのか、退去されたらどうなるのか、一度貸したら二度と返ってこないのではないかという不安が強いからです。そこで今回、筆者と地元で「MAD City」という個性的なまちづくりに取り組んでいる会社「まちづクリエイティブ」が一緒にこの建物を7年間の定期借家契約で借り受け、私たちの負担で修繕工事と耐震工事を行い、転貸(定期借家)することで投資を回収する仕組みを採用することにしました。

 所有者の方の資金拠出はゼロなので投資リスクもゼロ、しかも負担なしで建物の耐震化が実現できます。さらに、今までゼロだった賃料収入が、低額ではあるものの確実に入ってきます。投資資金と賃貸事業リスクは私たちが負担し、7年後に所有者の方に建物をお返しします。所有者の方は必要があればテナントと改めて賃貸借契約を結ぶことで賃貸事業を継続することもできますし、賃貸借契約を予定通り終了させることもできます。

 現在、建物の耐震改修工事を終えたところですが、人通りが多いことから、工事期間中は多くの方々に「ここで何が始まるのだろう」と興味を持ってもらいました。この状況を生かし、まちづクリエイティブはこの空き家の存在を街の人や、小さなビジネスをやってみたいという人に知ってもらうため、ここで様々なイベントを開催しています。

■千葉大の大学院生と「産学連携」

空き家の再生について夜も話し合いは続く
千葉大の大学院生が持ち運び可能なフェルトプランターを置いた

 また、千葉大学の大学院生が現在、松戸駅から同大までの沿道の小さなスペースに、持ち運び可能なフェルトプランターを置き、住民たちが野菜を育てることで「食べられる景観(Edible Landscape)」をつくる「EDIBLE WAY(エディブルウェイ)食べられる道」というプロジェクトを実行中です。そこで同大の大学院園芸学研究科木下勇地域計画学研究室のみなさんに、この空き家を活動拠点として活用してもらいながら、地元内外にこの空き家が再生していく過程を広くお知らせしているところです。

 こうした活動が街のちょっとした話題になり、人々が緩やかにつながっていくとすれば、とても素敵なことだと思います。現在、店舗として入居者を募集中ですが、何件かの問い合わせがあり、この街に馴染む素敵な人に借りていただけたらと思っています。

 街中には多くの空き家が点在しています。その中には、採算が合うのに放置された空き家がまだまだあるのではないかと思います。空き家を所有している人はぜひ一度、採算性をチェックしてみてはどうでしょうか。

田中歩
 1991年三菱信託銀行(現・三菱UFJ信託銀行)入行。企業不動産・相続不動産コンサルティングなどを切り口に不動産売買・活用・ファイナンスなどの業務に17年間従事。その後独立し、ライフシミュレーション付き住宅購入サポート、ホームインスペクション(住宅診断)付き住宅売買コンサルティング仲介などを提供。2014年11月から個人向け不動産コンサルティング・ホームインスペクションなどのサービスを提供する「さくら事務所」に参画。

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