こだわりの逸品

ビスポークスーツ、「技」継承へ分業体制 オーダースーツの銀座英国屋(下)

2017/9/16

銀座英国屋の本店(東京都中央区)

ノーベル賞の受賞者が発表される10月初旬、東京・銀座の高級スーツ店「銀座英国屋」を運営する英国屋(東京・中央)は、「特にニュースに気を使う時期」(小谷邦夫副社長)を迎える。このところ日本人の受賞が続き、12月の授賞式に合わせて急きょ、晩さん会用の燕尾(えんび)服の注文を受けることもあるからだ。ただし、顧客と対話を重ね、「匠(たくみ)」の技でその人だけの1着を完成させるという点は、いつものビスポーク(オーダーメード)と変わりない。

前回掲載「74歳『匠』が伝える100%オーダーメード」もあわせてお読みください。

ノーベル賞、11月の「秋の叙勲」と続くと、すぐにお歳暮シーズン。「英国屋のギフト券を取引先などに配りたい」と、約半世紀前に言い出したのは出光興産の創業者、故出光佐三氏だったという。また、ある地方銀行の頭取は、上場を決めた取引先の経営者に、お祝いとして英国屋のギフト券を贈るのを常としていたという。「仕事に没頭するだけでなく、身なりにも気を付けて」という思いからだ。「あくまでもビジネスの現場で身に着けてもらうことを基本とした高級スーツが我々の立ち位置」と小谷副社長は強調する。

「政財界要人の御用達」といったイメージが強い英国屋だが、顧客層は幅広い。例えば、囲碁・将棋のプロ棋士。文字通り「勝負服」として、スーツにこだわるプロは少なくない。将棋の青野照市九段は40年ほど前、まだ20歳代のころから同社を利用している。「素材だけなら他の有名店でもいいものが手に入る。しかし、肩から胸にかけての着具合がどこか違う。職人の思いが見える気がする」と話す。

■10年後には全工程を手がけられる職人がいなくなる

ただ、フルオーダーメードの全ての工程を1人で手がけられる職人は減り続けており、多くが60歳以上だ。「10年後にはほとんどいなくなる」ともささやかれる。

英国屋の縫製加工子会社、エイワ(埼玉県北本市)

英国屋では他社を退職した職人を中途採用するなどしているが、年間約7000着、年商約20億円の事業規模を維持・拡大していくには、本店のほど近くにある直営工房だけでは追いつかない。

このため、縫製加工子会社のエイワ(埼玉県北本市)の「英国屋工房」では工程を区分して、それぞれをグループで分担して生産する「グループ縫製システム」を導入している。

店頭での採寸、型紙作製、仮縫いを終えた生地を縫製してスーツに仕立て上げる「本縫い」がエイワの役割。完成までの工程を全部で6つに分けた。

まず、上着は「前」「中」「後」「見返し」の4工程とした。

肩部分の縫製は特に高い技術が求められる

「前」工程では裏地となる生地を裁断、シルエットづくりやポケットづくりなどを担当する。上着の前身ごろの内側に使う芯地「毛芯(けじん)」でフォルムを形成し、形崩れを防ぐ。英国屋で使うスーツ生地は9割以上が海外産だが、毛芯は岐阜県のメーカーが生産する天然ウール品を使っているという。

「中」工程ではアイロンを使って生地を立体的に仕上げる「くせ取り」などを手掛ける。

「後」工程は上着の肩縫い、襟付け、袖付けという技術的に最も難しい部分。手作業で進めることで体になじむ着心地の良いスーツができあがるという。

「見返し」工程は上着の身ごろの内側にあたる「見返し」の作製を担当する。内ポケットの場所など、顧客の注文が最も多い部分だ。以前は従来型携帯電話(ガラケー)専用ポケットの希望が多かったが、現在は減少しているという。

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