ポルトガルワインは日本料理にぴったり? なぜなら…
ポルトガルワインというと、ポルト酒やマデラ酒の酒精強化ワインを思い浮べる方が多いだろう。もちろんそれはうまいのだが、ポルトガルでは普通のスティルワイン(非発泡性ワイン)が侮れない。
ポルトガルはワイン製造の歴史が古く、長年培った伝統の醸造技術を継承しているうえ、近年になって最新の醸造技術を取り入れ、さらに品質の高いワインがつくられるようになったのだ。そして価格は驚くほど安い。この知られざるポルトガルワインの魅力について、今回、紹介しよう。
このほど、リスボンに10日間あまり滞在する機会があった。到着した日の夕食は、首都リスボンの市街地からテージョ川を連絡船で渡り、川岸のレストランの屋外席を予約。広いテージョ川は海のように波が打ち寄せられ、その向こうにリスボン市街地の遠景が見える。リスボンは美しい街だ。夕食の時間でもまだ明るく、光が透明に輝いていて、空の澄んだ青色のなかに建屋の白い壁と赤い屋根が綺麗に調和している。このようなすてきな景色を望みながらの食事で、ポルトガルワインへの期待が大きくふくらんだ。
早速ワインと料理をいくつか注文。料理はいずれも、新鮮な食材を用いたシンプルなもの。油を使わずに魚をそのまま塩焼きしたものや、タコやアンコウなどほかの欧州の国ではなかなか食べられないものもある。いずれも、味付けが優しく、日本人の口に合うものばかりだった。
ワインは店のスタッフに任せて、まずは白、そして赤を続けた。レストランの提供価格で15ユーロ程度と大変安いが、優しさと複雑さを合わせ持つ味わい。これまで飲んだどこの国のワインとも違う味わいで、ポルトガルワインが高いポテンシャルを持っていることが分かった。
それから、大衆食堂からしゃれた丘の上の絶景レストランまで、毎晩様々なレストランを巡ったが、いずれも料理とワインがともに美味。しかも、価格は日本で同じ内容を注文したときの半額以下と、驚きの連続だった。
リスボンでポルトガル各地のワインを試してみて、ポルトガルワインの魅力がだんだん分かってきた。どの国でもワインは産地の地元料理に合うような味になっているが、ポルトガルワインも例外ではない。
ポルトガル料理は、油やバター、ハーブやスパイスなどをそれほど多くは使わずに、さっぱりとした味付けにすることが多い。魚介類などの食材が新鮮であるため、その食材の味わいを引き出すにはシンプルな調理が適しているからだ。そのシンプルなポルトガル料理に合うよう、ポルトガルワインは必然的に優しい味わいになる。
そもそもポルトガル料理は、日本料理との共通点が多い。てんぷらなどの和食の調理法はポルトガルから伝来してきた歴史はよくご存じだろう。そんなポルトガル料理は日本人にとってはとてもおいしく感じ、飽きがこない。その料理に合わせるワインの味が、日本人に合わないわけがない。
ポルトガルワインの歴史は古い。紀元前5世紀にフェニキア人がブドウ栽培を始めて以来、イスラムに支配された8~11世紀を除いて、伝統的な製法が継承されている。第2の都市、ポルト近くの一大ワインの産地、ドウロ地区では1756年、世界で最初に原産地呼称法を制定した。
20世紀前半には独裁政権による鎖国状態が続き、ポルトガルワインは世界と断絶状態となったが、ポルトガルは1986年に欧州連合(EU)に加盟。以来、近代的な醸造方法を取り入れてポルトガルワインは急速な品質向上を遂げた。
2009年のEU全体の法改正に伴って、ポルトガルワインの原産地呼称法は最上位の原産地統制名ワインを28地区、次のクラスの地理的生産地表示ワインを14地域(地区よりも広い概念)、そのほかの地域をテーブルワインであるVinho de mesa(ビーニョ・デ・メサ)と定めた。
ポルトガルでは250種類以上のブドウの在来種があり、数種類、多い場合は10種類ものブドウをブレンドしてワインの個性を出している。
主流はやはり、赤ワイン。使われるブドウ品種は、トウリガ・ナショナル、バガ、ティンタ・ロリス(アラゴネス:スペインのテンプラニーニョと同種)、ジャエン、トリンカディラ、ティンタ・ネグラなどだ。
白ワインもなかなか捨てがたい。アルバリーニョ、ローレイロ、エンクルザード、アリアゴメス、ビカル、アリント、ベルデーリョなどのブドウ品種が使われる。
ポルトガルワインは、生産地によってもさまざまな個性を発揮している。北部沿岸のビーニョベルデ地区や沿岸部のバララーダ地区などは海洋性気候で、軽い酸味のあるワインが特徴だ。ビーニョベルデは緑のワインという意味で、やや薄緑色がかった、爽やかで酸味のある白ワイン。スターター(最初に注文する1品)と合わせるのにふさわしい。
一方、北部内陸側のトラス・オス・モンデス地区、ドウロ地区、南部内陸のアレンテージョ地区などは大陸性気候で、複雑味のあるフルボディーのワインに仕上がる傾向があるとのこと。その間に位置するダン地区やセトッゥーバル地区は中間の気候で、バランスのとれたワインとなることが多いらしい。
リスボン滞在中は、特に赤ワインとして高評価されているドウロ地区、アレンテージョ地区、ダン地区のものをレストランやワインバーで試してみた。限られた試飲回数でも印象的だったのは、いずれの地区のワインも優しい味わいだったこと。
個別には、ドウロ地区の洗練さ、複雑さ、深みに対して、アレンテージョ地区のものは酸のキレが加わっている。言ってみれば、ドウロ地区の赤ワインはまるで都会の優等生のお嬢さんで、アレンテージョ地区の赤ワインは田舎のやんちゃ娘といったところか。ダン地区のものは、しっかりとしたタンニンが感じられるという違いも面白かった。個人的にはアレンテージョ地区のワインが最も気に入った。
レストランで注文したワインの価格帯は10~20ユーロ程度。小売り価格ではおそらくその3分の1程度と思われる。それでこれだけおいしいのだから、さらに高いワインはどのような味がするのだろうと興味がわいてきた。
そこで、リスボンで一番品ぞろえの多いワイン専門小売り店を訪ね、20ユーロ程度の赤ワインを購入して日本に持ち帰り、比較試飲をすることにした。選んだ地区はお気に入りのアレンテージョとドウロ。価格帯だけ示し、銘柄の選定は店のスタッフのお勧めに従った。そして、1本だけ80ユーロと高価なドウロ地区の赤ワインも購入してみた。
購入したのは全部で6本。ドウロ地区赤ワイン2本、アレンテージョ地区赤ワイン3本、それにビーニョベルデの白ワインだ。
Quinta Da Aveleda, Vinho Verde, 2016
試飲会の会場は、都内のスパイス系の料理がおいしいと評判のワインビストロに決めた。まずは、緑のワインのビーニョベルデで乾杯。そして、アレンテージョとドウロのだんだんと古いビンテージの赤ワインへと進めた。
Cem Reis, Alentejo, Tinto Sylah Reserva, 2016
赤ワインの最初は、アレンテージョのセム・レイス2016年。シラー種で醸造されたこの赤ワインは、完熟ブラックベリーの香りの中にスパイスのニュアンスが潜んでいて、それでいて優しい味わい。
Quinta De Cidro, Douro, Touriga National, 2015
次がドウロ地区のキンタ・デ・シドロ2015年。トウリガ・ナショナル種で醸造したこの赤ワインは、ブルーベリーの香りに花のニュアンスを持ち、若いながらもエレガントな味わい。やはりドウロのワインは洗練されていると再認識。
Pera Grave Reserva, Alentejo, 2013
次がアレンテージョのペラ・グラーベ・リゼルバ2013年。トウリガ・ナショナル種やアリカンテ・ボウシェット種など複数のブドウをブレンド。このワインは英国の権威のあるワイン業界誌『Decanter』が、2016年に南ポルトガルのベストワインとして95ポイントを付けたことがあり、それなりの深み、複雑味、ボディーの強さに加え、酸のキレが心地よい。
Monte Do Pintor, Alentejo, Tinto Reserva, 2011
そして、アレンテージョのモンテ・ド・ピントール・ティント・レゼルバ2011年。これは1991年に設立し、1995年からこの名前で生産している新しいワイナリーからの1本。熟成年数がさらに長いせいか、深みをより強く感じる。酸の切れ味はスパイス料理にとてもよく合う。
Quinta Da Romaneira, Douro, Reserva, 2010
最後は、ドウロのキンタ・ダ・ロマネイラ・レゼルバ2010年。80ユーロあまりのとっておきワインだ。こちらは17~18世紀に創業された老舗ワイナリーを2004年にドウロワイン愛好家の投資家が買収。偉大なワインとして著名なキンタ・ド・ノヴァルの責任者だった2人のチームに管理を任せて、素晴らしいワイン造り続けているそうだ。
2010年のビンテージは『Wine Enthusiast』誌のセラーセレクションとして、世界から選ばれている一品。トウリガ・ナショナルとトウリガ・フランサの2種類のブドウのブレンドで、深みのある味わいに感服。
ポルトガルワインは、日本ではそれほど知名度は高くないが、飲んでみるとほかのどの国のワインとも味わいが違う。一度飲むと病みつきになること請け合いだ。どうぞご注意あれ。
(芝浦工業大学特任教授 古川修)
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