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内縁の夫が他界 相続した息子から「家を出ていけ!」 弁護士 志賀剛一

2017/9/14

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Case:17 先日、夫が他界したAと申します。夫といっても籍は入れていませんでしたので、私は「内縁の妻」です。夫には離婚した前の妻との間に息子がおり、法律上はその子が相続人のようです。相続財産は私と夫が長年住んでいた土地と建物のほかは、わずかな預貯金がある程度ですが、私と折り合いが悪いその子から「土地と建物は第三者に売るから、出て行け」と言われています。しかし、それでは今後生活できません。何とかならないでしょうか。

■「内縁」とは何か

 日本の法制上、婚姻は戸籍上の届け出をすることによって成立します。同居して一緒に生活をしても、法律にのっとった届け出をしないかぎり、法律上の夫婦としては認められません。一方、それぞれが婚姻の意思があって共同生活を送る関係にありながら、婚姻届を役所に提出していない男女の関係を「内縁」と呼んでいます。ルームシェアなど婚姻の意思はなく、単に同居している男女などは内縁には当たりません。また、内縁に該当するための同居期間は一概にいえないものの、最低でも3年間ぐらい必要と解されています。

 法律上、内縁に当たる関係と認められると、法律婚と同様の権利義務が発生することになります。例えば、内縁関係にある男女は互いに扶養義務や貞操義務が生じます。籍が入っていないからといって生活を援助しなかったり、自由気ままに浮気したりすることは認められないのです。しかし、すべてが法律婚と同じというわけではありません。まず、内縁には氏の変更がありません。夫婦別姓法制が実現していない日本では、氏の変更を避けるため、あえて法律婚を選択しないカップルが増えているのはご存じのとおりです。

■内縁の妻の相続権

 法律婚とのもう一つの重大な違いは、内縁には相続権がないということです。相談の件では、夫と前妻の間の子が相続人になりそうです。ちなみに、夫と内縁の妻の間に子供がおり、かつ夫に認知されていれば、その子は相続人となります。しかし、認知されていなければ夫の相続人にはなりません。法律上の婚姻関係にない男女に生まれた子を「非嫡出子」といい、従前、その法定相続分は民法で嫡出子(法律上の婚姻関係にある男女に生まれた子)の2分の1と規定されていました。

 しかし、最高裁判所は2013年9月、「父母が婚姻関係になかったという、子にとっては自ら選択ないし修正する余地のない事柄を理由としてその子に不利益を及ぼすことは許されず、憲法が保障する法の下の平等に違反する」として違憲判決を出しました。これを受けて民法も同年12月に改正され、現在では嫡出子も非嫡出子も同じ法定相続分となっています。ただ、Aさんと亡くなった夫との間に子供がいないのであれば、被相続人の子が法律上、唯一の相続人ということになります。

■相続人から明け渡し請求

 前妻との間の子は、他界した父親がもともと持っており、かつAさんと一緒に住んでいた土地と建物の所有権を相続で取得したようです。所有者は権利のない占有者に「出ていけ」という権利があります。家主だった夫と一緒に住んでいたAさんとの間に賃貸借、つまり家賃を発生させるような契約があれば、賃借人は新しい所有者に賃借権で対抗できる場合が多いのですが、通常、夫婦が一緒に住んでいる家について賃貸借契約を結んでいる例は極めてまれだと思います。そうなると、内縁の妻にあるのはせいぜい「使用貸借」と呼ばれる弱い権利にすぎず、新たな所有者には対抗できないのが原則です。

 しかし、内縁の妻は本人には落ち度がないのにそれまで平穏に暮らしていた住まいを追い出されることになってしまいます。このような結論が不合理であることは誰の目にも明らかですよね。内縁関係には可能な限り法律婚と同様の法的保護が与えられてしかるべきであり、判例は古くからあの手この手を使って、内縁の妻の「居住権」を認める結論を導いてきました(実は法律に「居住権」という言葉はないのですが、「居住を認める権利」ということであえて用いています)。

 その理論構成としてもっとも多いのが「所有者からの明け渡し請求が権利の乱用にあたる」とするものです。それ以外に、内縁の夫と内縁の妻との間で、2人が同居していた内縁の夫が所有する建物について、内縁の妻が死亡するまで「内縁の妻に無償で使用させるという使用貸借契約が黙示的に成立していた」と認定して、内縁の妻に対する建物の明け渡し請求を認めなかった判例もあります。なかなかの「名裁き」ではないでしょうか。

 もちろん個別事情にもよりますが、不動産を相続した相続人がそれまで住んでいた配偶者を追い出すような請求は、原則的には認められない場合が多いと考えてよいでしょう。

■問題は内縁だけではない

 実はこの問題、法律婚の場合にも生じているのです。民法では被相続人が亡くなった場合の配偶者の居住権については何も規定していません。相続が発生すると、遺産分割協議がととのうまでの間、相続財産はすべての相続人の間での共有とされるのが民法の規定です。そうなると、たとえ夫婦が生活していた家であっても、配偶者以外の他の相続人(多くの場合は子です)との共有となりますから、親子の折り合いが悪ければ、共有持ち分を法的根拠として、配偶者(つまり自分の親)に出ていけという事態が発生しうるわけです。

 ちなみに、15年4月から民法の相続編における改正が審議されていますが、「配偶者が相続開始時に被相続人の建物を無償で使用(居住)していた場合に、遺産分割までの間、無償使用ができる」とする制度などが検討されています。

■遺言で妻に最低限度の生活財産を

 前述のとおり、最終的には救済される可能性があるにせよ、住むところと最低限度の生活財産は妻に確保しておいてあげたいところです。そのために内縁の夫は、財産が内縁の妻に行くように遺言書を作成しておくべきでしょう。なお、遺言によっても、相続人の遺留分を侵害することはできません。被相続人が財産の全てを内縁の妻に遺贈してしまうと、遺留分侵害ということになり、相続人の遺留分減殺請求を覚悟せざるを得ません。

 財産に余裕がある人ならば、相続人の遺留分侵害を避け、「居住不動産プラスアルファ」を内縁の妻に確保したうえで、相続人にも一定の相続をさせるような工夫が必要かと思われます。なお、法律婚の配偶者には相続税に関する優遇措置(「配偶者の税額の軽減」で1億6000万円までは相続税がかからない)がありますが、内縁の妻は残念ながらこれらの措置を受けることができません。この点も留意が必要です。

志賀剛一
 志賀・飯田・岡田法律事務所所長。1961年生まれ、名古屋市出身。89年、東京弁護士会に登録。2001年港区虎ノ門に現事務所を設立。民・商事事件を中心に企業から個人まで幅広い事件を取り扱う。難しい言葉を使わず、わかりやすく説明することを心掛けている。08~11年は司法研修所の民事弁護教官として後進の指導も担当。趣味は「馬券派ではないロマン派の競馬」とラーメン食べ歩き。

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