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橋爪功さんとの2人芝居で学んだこと(井上芳雄)

第6回

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NIKKEI STYLE

井上芳雄です。9月14日から『謎の変奏曲』という舞台に出ています。橋爪功さんとの初共演で、セリフだけのストレートプレイの2人芝居も初めて。ミュージカルを中心にお芝居をしてきた僕にとって、ずっとしゃべりっぱなしの舞台は大きな挑戦です。大ベテランの橋爪さんの演技からは教えられることが多く、日々得るものがあります。

ノルウェー沖の孤島で、1人暮らしをしているノーベル賞作家のもとに、地方新聞の記者と名のる男が訪ねて来るところから物語は始まります。作家を橋爪さん、記者を僕が演じています。

記者の目的は、作家の最新作である恋愛小説『心に秘めた愛』の取材なのですが、その小説は男女の往復書簡の形式で、やりとりが突然ぷっつりと終わっています。その謎をめぐって、世代の違う2人の男が愛についての心理ゲームのような会話をしていくうちに、お互いにいろんな変化が起こっていきます。2人の関係性が二転三転するどんでん返しが面白く、僕は台本を初めて読んだとき、ぐいぐい引き込まれました。 

フランスの劇作家エリック=エマニュエル・シュミットの作品で、1996年にパリでアラン・ドロン主演で初演されました。日本では過去に2回上演されていて、仲代達矢さんと風間杜夫さん、杉浦直樹さんと沢田研二さんが演じています。

言葉の強弱や高低で感情を表現

僕は、今回のお話をいただくまで作品を知らなかったのですが、こんな傑作があったのかと驚き、日本であまり知られてないし、ぜひやりたいとお返事しました。ずっと2人でしゃべっているので、演じるのは大変だろうなと思いましたが、難しそうとかよりも、とにかく面白い本だからやってみたいという気持ちでした。

今回は、橋爪さんという素晴らしい俳優さんと初めて一緒にやらせてもらうのも貴重な経験です。75歳(9月17日で76歳)でこれだけセリフ量の多い舞台をやられるのは、すごいことです。橋爪さんとは経験も技術も違うから、同じようにはもちろんできないし、とにかく足を引っ張らないように、と思って稽古に臨みました。

僕はミュージカルを中心に、音楽活動もしたりと、セリフだけの芝居をずっとやっているわけではないので、そこを突き詰めている俳優さんと同じ舞台に立つのは、厳しいことです。足りないものも多くて、正直苦しい。でも逆に、役者としてステップアップする大きなチャンスをいただいたと考えて、学べるものは全部吸収しようと思いました。

橋爪さんは、本読みの初日にほとんどセリフが入っていたと思います。僕は稽古が始まる直前まで違う仕事をしていたので、まず大量のセリフを覚えるのが大変でした。

本読みが始まると、僕が今まで見たことないような演技を橋爪さんがされるのに驚きました。自然だし、リアルでもあり、自由で、力も入ってなくて、でもちゃんとした台本の読み込みの上に成り立っている。ワーッと大きい声出したと思ったら、キュッと小さい声になったりとか、テンポもわざと変えてみたりするんです。

それを見ながら、「はぁ、すごい…」と思うのですが、僕に同じことはできないし、同じことをやっても、きっと変な感じになるだろう。じゃあ、どうしよう、と悩みました。

2人芝居なので、お互いにずっとしゃべっているだけで、多少動いたりはしますが、視覚的に何かドラマチックなことが起こるわけではありません。だから、ひたすら言葉の強弱や高低や緩急で、感情の動きを見せていくことになります。

ミュージカルだと、ここまで多くのセリフをしゃべることはないし、歌の場合は高低や強弱はすでに決まっていて、そこに自分の解釈を加えます。一方、今回のようなストレートプレイの芝居は、何もないところからセリフを組み立てていく作業なので、技術も経験もアイデアも、僕にはまだまだ足りません。

「僕に向けて演技してくれればいい」

技術だけでなく、ものの見方もそうです。人間を2時間かけて描くときに、ずっと直線だけで描くのは、見ている方も面白くないですよね。だから橋爪さんも演出家の森新太郎さんも、斜めだったり、上だったり、裏側だったりと、いろいろな角度から人間を表現しようとします。人間とは何だ、というのを、とことん突き詰めていく感じです。

それに対して、ミュージカルは比較的ストレートな表現です。楽しいとか、悲しいというのを、みんなで共有しようよ、という開放的でポジティブなエネルギーが出ていると思います。

そういう意味では、今回の『謎の変奏曲』はベクトルが正反対。稽古場もほとんどしーんとしていましたし。ミュージカルの稽古場では、みんなワイワイ言いながら笑い声も響くので、そこは全然違うなと感じました。

稽古でいろいろ試してみるなかで、大きな演技をしてみたときに、橋爪さんからこんなことを言われました。「井上君は、たまにお客さんに向けて演技するときがあるけど、僕に向けて演技してくれればいいんだよ。僕の役を怒らせたり、笑わせたりしてくれればいいんだ」

大劇場でやるミュージカルだと、お客さんに向けて歌声を聴かせたいと思ったり、コメディーだと、僕の素のような部分を少し見せて笑わせたりとか、お客さんと分かちあおうとする瞬間があります。でも、人間を本当に突き詰めるときには、それは全くいらない要素で、目の前の相手だけを意識して演じればいいわけです。知らない間にミュージカルのときの癖が出てしまうんだ、気をつけないと、と思いました。指摘していただいて、ありがたかったですね。

演出の森さんも初めてです。稽古時間が長い方だと聞いていましたが、本当に長くて、細かいところまで、何回も稽古を重ねました。森さんからは、僕は感情をストレートに表現しがちなので、「もっといろいろな表現をしてほしい」と言われました。例えば、怒る芝居なら、すごく真剣に怒っていたのですが、「ニコニコしながら怒ったり、嫌みを言って怒ったりと、人っていろいろある。斜めからの表現も考えてみてほしい」と。

息を吸うタイミングにもコツ

息を吸うタイミングも指摘されました。たしかにこれまでも、セリフを言うとき、息をいつ吸ったらいいか迷うことが、たまにありました。曲は、歌う直前にしか息を吸うタイミングがありません。でも、セリフだと、それでは遅いときがあると教わりました。

例えば「お前はそんなだからバカなんだよ」と言われて、「何だと!」と言い返すときに、息を吸ってから「何だと!」だと一拍遅いと。その前のセリフに文脈があるから、相手が「…バカ」と言ったときに息を吸っていれば、重ねるように「何だと!」とスッとセリフが出て、会話がテンポよく進んでいきます。

そうした呼吸の技術だったり、身体の動かし方だったり、人間の見方だったり、いろんなことが全部組み合わさって、ひとつのお芝居が成り立っているんです。だから、すごく奥が深いですね。それを日々実感しながら、演じています。

井上芳雄
 1979年7月6日生まれ。福岡県出身。東京藝術大学音楽学部声楽科卒業。大学在学中の2000年に、ミュージカル『エリザベート』の皇太子ルドルフ役でデビュー。以降、ミュージカル、ストレートプレイの舞台を中心に活躍。CD制作、コンサートなどの音楽活動にも取り組む一方、テレビ、映画など映像にも活動の幅を広げている。著書に『ミュージカル俳優という仕事』(日経BP社)。自身初のシングル『風のオリヴァストロ』を10月4日に発売。10月12日に「井上芳雄 by MYSELF スペシャルライブ」を東京国際フォーラムにて開催。

「井上芳雄 エンタメ通信」は毎月第1、第3土曜に掲載。第7回は10月7日(土)の予定です。

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